パナソニックは、2022年4月から、持株会社制に移行するのに先立ち、10月1日からカンパニー制を廃止し、新たな事業体制に移行。それに伴い、グループCEOに就任した楠見雄規氏が会見を行った。前半では、60年ぶりに改定した経営基本方針の内容や、2030年までにCO2排出量実質ゼロにすると掲げている環境への取り組みについて紹介する。(後編はこちら。)
楠見グループCEOは、60年ぶりに経営基本方針を改訂し、これをパナソニックグループにおいて、改めて浸透、実践していく姿勢を強調する一方、同社独自のDXへの取り組みとして、「パナソニックトランスフォーメーション(PX)」を推進することを明らかにした。「PXは、ITの変革に留まらない重要な経営戦略として推進していく」と述べた。
さらに、「一般的には、持株会社制といわれる体制だが、新体制の主役は事業会社。私はこれを事業会社制と呼ぶ」と述べ、事業会社ごとに競争力強化の指標を明確化し、これをモニタリングしながら、課題への対応と成長戦略を推進する考えも示した。
楠見グループCEOは、6月に代表取締役社長に就任してから100日間を経過したことを振り返り、「海外には足を運べない期間であったが、日本では、緊急事態宣言が出てない期間に積極的に国内の現場を訪問した。これまで行ったことがない生産拠点を中心に、約10カ所を訪問し、現場を見るだけでなく、従業員とも積極的に対話を行った」としながら、「パナソニックグループは、モノづくりや技術、商品、サービスなど、事業に関わるあらゆる領域において、大きなポテンシャルを持つ集団であり、すばらしい人材に恵まれていることを再認識した。だが、どの事業においても、まだまだ改善の余地があり、同時に、成長期の松下電器のなかに深く浸透していた経営の基本的な考え方が、薄れつつあると感じるような場面もあり、そのような経営ができていないと反省する機会にもなった」と指摘。
「薄れていた経営の基本に立ち返って、持っているポテンシャルをフルに発揮することができれば、各事業の競争力が高まり、結果として社会に大きなお役立ちができ、事業は自ずと成長に転じるはずという確信ができた」と述べた。
創業者の松下幸之助氏は、綱領、信条、七精神をはじめとした経営理念や、それを実践していく基本的な考え方を、経営基本方針と位置づけ、社内に徹底してきた。
「創業者自身、1982年の経営方針発表会の場では、経営基本方針をないがしろにしていると厳しい口調で警鐘を鳴らし、1989年の創業者の逝去後には、その浸透が、さらに弱くなっていったのが実態である。綱領、信条、七精神の意味は知っているだけとか、経営理念の表層的な理解に留まることなく、いま一度、経営基本方針に立ち返り、一人ひとりがしっかりとこれを実践していくように徹底しなおさなくはいけないという思いを持つに至った」とする。
新体制のスタートにあわせて、60年ぶりに経営基本方針を改訂した背景には、楠見グループCEOのこうした思いがあった。
「60年前にまとめられた経営基本方針の内容には、時代にそぐわなくなったものや、難しい文章もあった。改めて社員への浸透を図るためには、現代の社会環境や社会通念に則した今日的な解釈が必要と考えた。私も編集メンバーの一人として全面的に加わり、約4カ月間、知見を持つ社員と多くの議論を重ねながら、原点の考え方はそのままに、今日でも私たちが忘れてはならないことを抽出し、現代に通じる指針にまとめなおした。とくに、どのように実践していくべきか、という点が弱くなっているという現状を鑑みて、当時よりも、その部分を大きく強調して、より具体的な指針として示した」という。
綱領や信条は、60年前の古い言葉で表現されており、これを現代の言葉に直し、わかりやすく、順を追って理解できる章立てにしたほか、たとえば、「無駄をなくす」という点では、これまでは形式知化されておらず、明言されていなかったことから、この部分をはっきり示す形で書き足したという。
「パナソニックグループの経営基本方針は、今後、パナソニックグループの経営において、実践していく指針になる」と位置づけ、「経営基本方針については、10月1日から社内で公開し、今後、経営幹部から現場の社員までの全員が実践すべく、熟読して、理解を深めてもらうことになる。また、社外にも公開し、共有する。経営基本方針の実践をコミットし、社員一人ひとりの行動が、それに恥じないものであり続けていることを見てもらいたい」と述べた。
経営基本方針では、「物心一如」の物と心が共に豊かな理想の社会の実現を目指し、誰にも負けない立派な仕事をし、お客様に商品、サービスを選んでいただけるようにすることを掲げている。
また、一人ひとりが「一商人」として、お客様大事の心構えを、誰よりもしっかりと実践し、お客様の信頼を得ること、利益はお客様に選んでいただいた結果として獲得するものであって、それを社会、従業員に還元するとともに、事業ごとに向き合う社会課題や環境課題の解決に向けて投資を行い、実現すべき未来に進むことを示し、それができていない状況であれば、ただちに改革のメスを入れていくとした。
さらに、こうした経営をするためには、任務を実行する一人ひとりが、全能力を傾けて、よりよい手段を生み出して、それに果敢に挑戦し、より多くの成果をあげることに責任感を持つ「自主責任経営」と「社員稼業」の考え方を徹底する。
加えて、組織としての意思決定の質とスピードをあげるために、言うべきことが言い合える風土を醸成して、衆知を集めた全員経営を推進する。また、これらを実践していく前提として、あくまでも、人を活かす経営を推進するという。
「経営基本方針」は、ウェブサイトで公開しており、過去の創業者の発言や文献にもリンクし、学びを深めてもらう構成にしている。だが、これを読んでもらうだけでは浸透しない。さまざまな社内での取り組みを同時に進めていくことが大切である。浸透させるためには、あの手、この手でやっていく。日頃の議論のなかでも、ここに立ち戻って考えるということが広がるようにしたい。気長にやっていきたいが、まずは、この2年で社内に浸透させたい」とした。
新たにスタートする事業会社制で目指す経営の姿についても説明した。楠見グループCEOは、「経営基本方針の実践によって、各事業部門の社員や組織が持つポテンシャルを最大限に引き出したい」とし、2つの観点から説明した。
1つ目は事業会社や事業部ごとに、向き合う社会課題、環境課題の領域を定め、10年先に実現すべき姿を起点として、経営を行っていくことだ。
「事業会社や事業部ごとに環境課題の解決に向けた取り組みは必須とし、どの領域で社会課題の解決や、社会文化の発展への貢献をしていくのかを明確にする。その上で、戦略策定時の議論においては、数値中心ではなく、10年先のゴールの仮説について、しっかりと議論し、それを実現するための具体的な戦略、施策を検討する。仮説が間違っていれば、進めていた戦略を迅速に改めていく。このような経営の仕組みに変えていく」とした。
2022年度からスタートする中長期戦略においては、この姿勢に基づき、戦略策定からフォローアップまで、事業戦略推進のアプローチを抜本的に改めていくという。
2つ目は、戦略とオペレーション力の両輪で推進する競争力の強化だ。ここでは、事業会社ごとに、競争力強化の指標を明確化し、結果数値ではなく、競争力強化指標をモニタリングしながら、刻々と変化する経営課題に対応していくことになるという。また、これらを支える経営の進め方の変革として、より現場に近いところで、より頻度をあげて、議論を重ねて、事業のスピードと意思決定の質をあげ、改めるべき点があれば、即座に改める形にしていく。
「10年の計で、バックキャストをして、3年後にはどうするのかということを考えていく必要がある。それぞれの事業会社には、2022年4月までに策定してもらい、事業会社の責任のもとで取り組んでもらう。もし、指標が達成できない場合などには、ホールディングスがテコ入れをしていく」という。
指標の策定などについては、持株会社の役員が、それぞれの事業会社の取締役会に参加し、より深い検討を行っていくことになる。
各事業会社が目指す姿と取り組みについては、今後、それぞれのトップから発信する機会を設けるという。
一方、持株会社のパナソニック ホールディングスは、どんな役割を果たすのか。楠見グループCEOは、「事業会社が10年先を見据えて、社会へのお役立ちに向けた強化に挑戦するのに対して、パナソニック ホールディングスは、さらにその先を見据えて、グループ全体の経営基盤を強化することに徹底する役割を担う」と説明した。
その役割は、「グループの経営基本方針の徹底」、「顧客・社会へのお役立ちのための競争力強化への見届けと支援」、「人を活かす経営への見届け、制度整備」、「必要に応じた事業の選択、集中」、「事業強化や再生に向けた非連続手段の推進」、「グループとしての重要リスクへの対応」の5つとなる。
今回の会見では、そのなかで2番目に掲げた「顧客・社会へのお役立ちのための競争力強化への見届けと支援」について時間を割いて説明。ここでは、GX(Green Transformation)、DX(Digital Transformation)、現場革新、デザイン経営、ブランド戦略、イノベーションの加速に取り組むことになるという。
GXについては、5月に発表した「2030年までに、全事業会社のCO2排出量を実質ゼロにする」という目標について触れ、現在、全事業会社が、それに向けたロードマップの策定を完了。複数の事業では、2030年より大きく前倒した計画を立てていることを明らかにした。
「GXへの取り組みは、事業の継続を社会から認めてもらうための最低限の条件である。社会から預かった資源を使い、活動を行う以上は、その資源を最大限に生かし、社会にお役立ちをしなくてはならない。企業は社会の公器であるという考え方に則って、自社のCO2排出量だけでなく、お客様や社会のCO2排出量を減らす取り組みもさらに加速させる」とした。
パナソニックの商品は、毎日、世界で10億人が利用しており、その商品からのCO2排出量は年間8593万トンに達するという。
「10億人が利用しているということは、パナソニックが電化を通じて、暮らしに深く関わってきた証であると同時に、責務が生まれることになる。引き続き、たゆまぬ努力でCO2排出量を減らしていく」と述べた。
また、「パナソニックだけでは、CO2排出量はゼロにはできない。国際電気標準会議(IEC)が規定する、商品やサービスの提供によって、他社のCO2を削減する削減貢献量の提案を、BtoBやBtoCのお客様に向けて、一層強化し、2050年までには自社の排出量を上回る規模での削減貢献を目指す。モノづくりのCO2排出を減らすソリューションを、ほかの製造業に展開することも考えられる。それだけの競争力を持った形で取り組まなくてはならない」としたが、「現時点では、そこまでの競争力があるとはいえない。パナソニックが、CO2排出量削減に向けた事業においても競争力を磨き、お客様や地球環境に貢献すればするほど、世界がカーボンニュートラルに近づいていく。こうした未来を目指して挑戦を加速していく」と意欲をみせた。
後編は10月4日に公開します。
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