循環型社会は「メルカリ創業時から頭にあった」--山田進太郎氏が描く未来図 - (page 3)

山田氏「個人」が将来目指す姿とは

——山田さん個人としては、2021年7月に「山田進太郎D&I財団」という組織を立ち上げ、メルカリからは2023年開校予定の「神山まるごと高専(仮称)」という私立高等専門学校に1億円を寄付されました。そこにどんな狙いがあるのか、教えていただけますか。

 会社としてはD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)に何年も前から取り組んでいて、実際に今は外国籍社員がすごく増え、東京オフィスのエンジニアの半分くらいはすでに外国籍の方です。日本企業なので日本らしい慣習もあったんですが、そういったグローバリゼーションが進むなかで社内制度を見直しましたし、たとえば産休・育休も取るのが当たり前みたいな感じにもなっています。

 ただ、そうやってグローバルスタンダードに近づいてきた感覚はあるものの、2020年の段階では、女性の活躍はなかなか進んでいませんでした。そこも含めてD&Iをもっと推進しようと、2021年頭には「D&I Council」という社内委員会も作っています。

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 そもそも約2000万人いるメルカリ利用者の半分かそれ以上は女性ですし、この規模になると国籍的にも、ハンディキャップを抱えているという意味でも、さまざまなマイノリティの方が利用されていて、多面的に捉えながらサービスを作っていかなければなりません。日本人男性だけでサービスを作ってしまうと、世界はもちろん国内に向けても、もはや多様性には対応できないサービスになってしまいます。

 D&Iのような取り組みがあるからこそ、多様な人材、多様な意見をもとに、多様な方々に使っていただける多様なサービスを生み出せるわけで、そういったところでの進化、進歩はすごくあるように思いますね。先ほどお話しした「メルカリ・ニューノーマル・ワークスタイル “YOUR CHOICE”」における柔軟な働き方というところにも関係していますし、会社のいろいろなものにつながっているように感じます。

——そういう意味では、メルカリや山田さん個人の活動は、日本の企業や社会に対するメッセージとして捉えられるところもありそうに思います。

 日本という範囲では考えていませんが、世の中にはNPOのような非営利組織もたくさんあって、そういうところでもっとできることがあるんじゃないかと個人的には思っています。たとえば感染症であるポリオの撲滅を営利企業がやろうとすると、撲滅したときに事業が終わるし、製薬会社が儲けられなくなってしまうので、誰にもインセンティブがなく、実現する意義もなくなってしまいます。なので、マイクロソフト創業者が立ち上げたビル&メリンダ・ゲイツ財団が巨額の資金を投じてポリオの撲滅を目指しているわけです。そんな風に、非営利組織でないとできないことがたくさんあるんじゃないかと。

 そこで僕自身、帳簿上ではありますが株による資産があるので、それをどう使っていくかを考えることが自分の役割でもあると感じています。その第1弾として手がけたのがD&Iであって、女性の活躍などにフォーカスすることにしました。ここはメルカリとしてもいろいろやってはいますが、さらにもっと若い世代の人材、特に女性の技術者を学生の段階から育てるというところだと会社の利益にはつながらない。ですので、違った方法でインパクトを出せるようにと、財団という形で始めたわけです。

——山田さん個人は、将来的にはどんな姿を目指しているのでしょう。

 メルカリでは先ほどお話ししたミッションを目指しているのですが、僕自身もそこにパッションを持っているし、今のところは僕がCEOをするのがいいと考えてこのポジションにいます。でも、もしかしたらもっと適任な人がいるかもしれないとは思っています。僕自身今のポジションにこだわってるわけじゃないので、もっとうまくできる人がいるなら譲りたい。

 そうなったら、僕は違うことをメルカリの中、あるいは非営利組織でやるかもしれませんね。そこは割とフラットに考えています。副業みたいな感じで、自分にできることは何か、もうちょっと考えながら試していこうかなと。もちろんお金がないとできないこともありますよね。今持っている資産という意味では、自分には分不相応なように感じていて、それをどう使うかはすごく重要だし、ある意味僕にしかできないことでもあるんじゃないかなと思っています。

 なので、今はいろいろ勉強しながら何をやるか考えているところです。財団は営利組織と全然違うロジックで動いているし、特に教育分野は短期的には結果が全然出ないうえに、下手に動くと子どもの人生に影響がおよぶものですから慎重に進めなければいけない。早急に結果を出すことは考えていなくて、今のうちからコツコツ毎年進化させていくみたいなイメージでやっています。

——山田さんが考える理想的な組織、会社とはどのようなものでしょうか。

 どこか1つを切り取ったときに、理想というのはないかなとは思っていますね。たとえば去年の自分が思っていたものが今は少し実現されたとは思います。でも全然完璧じゃないし、1年後になったらまた考えなければいけないことがどんどん出てくると思います。だから、そうやって常にアップデートし続けられるような組織である、ということが大事なのかなと。常に後悔はあるけれど、でも日々少しずつ進化している実感はあるので、その感覚を持てていることが重要だと思います。

 もちろん後退することもあります。それでも長い目で見れば、ちょっとずつでも理想の組織、理想のサービス、社会における理想のポジショニングに向かって進んでいて、社会に対して少しでも良い影響を与えられている。そういう存在に近づいていくことが組織として大切なことだと考えています。

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