8月25日から9月22日にかけて、CNET Japan主催の「不動産テックオンラインカンファレンス2021 一歩先ゆくスマートな街・移動・暮らし」が開催された。6回目となる2021年はスマートシティをテーマに掲げ、毎週水曜日にセッションが開かれた。ここでは、9月1日のエネファント 代表取締役の磯崎(漢字は立つ崎)顕三氏が登場したセッション「電力会社からスマートシティ実現を目指す ~地方10万人都市の取り組み~」の様子をお伝えする。
エネファントは、岐阜県多治見市で2011年に創業した地域密着型のエネルギーベンチャーである。磯崎氏が生まれ育った多治見という暑い街で、太陽光を中心に地域内でエネルギーを「創る」「配る」「蓄える」という3つの事業を展開し、それらを地域内で最適につなぎ合わせてエネルギーマネジメント(エネマネ)することで、日本で一番電気代の安いエリアを創り出すことを目指し活動している。
「より安く電気を作り、電気を扱ってくれるお客様を増やしてシステムで最適化することで、電気をそのまま電気として売るのではなく、エネルギーサービスとして提案していくことで、1kWhの価値を高めていく。そこで得た収益から、また電気を安く作れるように投資をしていく。我々はその歯車をしっかりと地域内で回すことで、確実に電気コストが安いエリアを創造していこうとしている。大切にしていることは、思わず人が集まってきたくなるような街を作ること。それを真剣に考えることで、電気に関わる生活インフラを安く抑えることができる街として、生活の場所として選ばれるようになる。結果、不動産の価値も高まっていくと思っている。」(磯崎氏)
主軸にしている事業は、まず“創る”という部分での「遊休地を活用し、エネルギーを創る事業」エネルギーを創るという考え方を実装する事業」(磯崎氏)である。太陽光発電パネルを上部に設置した4台用のソーラーカーポートを遊休地に無償設置し、電気を創って地域の電源や非常用電源として機能させるとともに、将来的には電気自動車(EV)を駐めてエネルギーを直結させることを想定している。1年半前に事業を開始してからソーラーカーポートはすでに170カ所に建設されていて、現在地域で年間に900件近くの問い合わせがあり、これからどんどん増やしていくとのこと。
次に“配る”という事業では、「たじみ電力」というサービス名で小売電力事業に取り組んでいる。「日本で一番電気代が安い街」には、人の暮らしや企業活動、デジタルの投資が集まることを想定している。もちろん地域密着の電力会社なので、今地域のお客様に貢献できることとして、3歳以下のお子さんがいる子育て世帯に、1年間おむつプレゼントなど各種キャンペーンも進めている。
日本一電気代の安い街には、「日本一電気代の安い暮らし」が必要と考え、具体的なサービスに落とし込んだ事業が、20年間電気代無料の家「フリエネ」である。フリエネは、これから新築で家を建てる人に対して、最初から住環境を太陽光発電や蓄電池、電池の給湯器を設置したエネルギー供給の形に設計することを前提として、20年間電気代が無料で暮らしていくことができるサービスだ。20年間で約35万回にのぼる電力の購入機会に対し、太陽光発電と蓄電池、市場から購入した電力の使い分け、もしくは使う時間をずらすなどで電力供給の最適化を独自技術のAIシステムを活用し運用することで、無料化が可能となっている。
フリエネを搭載した1棟目は発売開始から10日目で売れ、現在は新たに2、3棟目が完成した段階であるという。今後は、フリエネを搭載した住宅を同じ規格・価格に合わせ、同じ区画内で複数の工務店の特徴が活かされた家を売るという販売方法を考えているとのこと。なお同事業の収益モデルについては、電気代の安い街を作ることで人や企業を集めて不動産の価値を高め、土地代が上昇する部分で設備に必要な資金を吸収するというスキームとなっている。
3つめの“蓄える”事業における代表的なサービスが、働く若者をターゲットとしたレンタカー事業の「働こCAR(はたらこカー)」である。働こCARは、「地域の暮らしで必要不可欠な車の負担を減らすことで、若者が地方に帰ってくる1つのきっかけになる」(磯崎氏)との考えから始まったもので、株式会社エネファントが用意したEVレンタカーを多治見市周辺の企業へ貸出、自社に就労した方の希望があれば利用できるサービスである。
企業はソーラーカーポートを設置して就業中にEVを充電する。利用者が本来支払っていたであろうガソリン代の負担がなくなる一方で、その間EVのバッテリーを蓄電池として活用し、地域エネルギーの一部にもなる。これにより、労働者の確保とEVの普及を同時に進めていくことができる。
これらのソーラーカーポートやフリエネは、すべてIoTのデバイスを付けた形で展開されており、株式会社エネファントのサーバーからエネルギー供給をコントロールしている。そのために同社は、街のエネルギー利用を最適化する「街のエネルギーOS」のようなサービスの構築に取り組んでいて、各サービスは基本的にそのOSにつながるハードウェアを担っている。地域の課題解決に向き合うことで、構築されるビジネスモデルとなっている。
働こCARの一部では、トヨタ自動車の超小型EV「C+pod(シーポット)」を活用していて、街中でのさらなる活用にも挑戦している。このほかにも、大都市圏で普及している既存の電動自転車シェアサービスと組み合わせ、1つのIDで使えるようにすることで、地域の交通を高度化させていくという構想も持つ。そのため大手自動車企業や、大手通信企業系のシェアリングサービス、システム面で同系列テクノロジー企業と連携し、取り組みを進めているという。
「フリエネやソーラーカーポート、小型EV、通常のEVを街にたくさん実装して、インターネット上でつなぎ合わせることで最適に運用することができる。街のエネルギーのOS事業を運営しながら地域の暮らしをより魅力的にしていくことに挑戦している」(磯崎氏)
このような形で今の技術をうまく使いつつ、地方都市の暮らしを電力面でサポートすることで、自然と暮らしやすいスマートな街づくりに広がりをみせていく――。それが、同社が挑戦している現場から変えていくスマートシティの取り組みである。磯崎氏は、「ソーラーカーポートとEVを上手につなぎ合わせ、街のOSを多治見の人の暮らしに併せつつアップデートしながら、地域のエネルギーベンチャー発でより魅力のある街づくりを進めていきたい」と想いを語り、プレゼンの結びとした。
セッションの後半で磯崎氏は、視聴者から寄せられた質問に回答した。まず多治見市で事業をする理由については、磯崎氏の出身地に恩返しをしたいという想いに加えて、美濃焼やタイル製造という基幹産業が、何億年とかけて地球が蓄えた良質な土を消費する事業モデルであることと、同社が挑戦しているクリーンエネルギー分野の抱える課題が似ていることを挙げた。
また都市部でなく地方都市を選んだという意味では、「当社は『ありがとうと言われてお金をもらえる』という基準を大事にしている。そこを考えた際に、目の前に地域の課題や困り事がたくさんあって、それを解決してお金をいただくというシチュエーションはある意味やりやすい」と回答した。
20名弱のベンチャーが大手自動車企業と組めている理由については、元々総合商社が間に入っているとした上で、まずは地元で利益を出しながら着実に事業を進めてきたことを挙げた。さらにその中身として、「EVが出たら、その分ソーラーカーポートのような電源をセットで作りそれをエネマネできれば、新たに発電所を作らなくてもEVを走らせることは充分可能だと思っている。そういったことを理解して、しっかりと街として取り組めていることが評価してもらえたのだと思う」と述べた。
最後に今後の事業展開に関しては、多治見市を中心とした事業モデルから他地域への横展開も検討しているとのこと。2030年までに日本で一番電気代が安いエリアにすることを目標としているが、その先には開発した街のエネルギーOSをメイドインジャパン製品として海外展開していくことも視野に入れているという。「ただし他地域への横展開を検討する前に、まずしっかり目の前の街を凄い町にしたい。ゼロから基盤を築くのではなく、既存の街をスマートシティに変えていくことは重要な事例になる。」(磯崎氏)。
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