リモートワークならではの課題として「チャットでの話し方問題」があると感じています。
たとえば、誰かに仕事を依頼したとして、「この仕事に携わる意義はなんですか?」と返ってきたとします。僕が小心者だからでしょうか。なんとなく、「この仕事のどこが面白いんですか? 私にはピンと来ません」というニュアンスを感じてしまいます。
ほかにも、誰かに資料の修正を依頼したとして、「どこをどんなふうに修正すればいいの?」と、質問が返ってきたとします。これもきっと、僕が気にしすぎなんでしょうね。「どうして修正しないといけないんですか?今のままでも問題なくないですか?」と言われている気がして。それならいっそのこと、「自分で修正してしまったほうが早いし、傷つかない」と、相談することを避けてしまいそうな気がします。
もし、これがリモートワークに移行する前に、長年対面で一緒に仕事をしてきた仲なら、まだいいと思うんです。「この人は淡々と仕事をしたい人。たまに言い方がそっけないときもある。そういう人だから」と理解できる。
だけど、最近は一度も会わず、最初からリモートワークで仕事を始める場合も多く、そうなると「あれ、この人冷たい。なんならキツい……」と、一緒に働くのを少し躊躇してしまいます。
もしも、「能力はそこそこだけど、感じのいい人」と「能力は高いけど、冷たい人」がいたとして、みなさんはどちらと仕事をしたいと思いますか?僕は、もしも対面なら後者=冷たいけど能力が高い人と仕事をしてもいいと思うんです。だけど、これがリモートワークとなると逆で、前者=能力はそこそこでもいいから、「とにかく感じの人と仕事をしたい」と思ってしまいます。
その理由は、一言で言うと「心理的安全性」なんですね。「この人に、チャットでこんなことを言ったらこんなふうに返ってくるんじゃないか」「ああ、また冷たい返事が返ってきた……」。その不安をため込んでいるうちに、なんだかその人とのチャットを開くことすら億劫になってくるんです。
「だったら、『そういう言い方は改めてもらえませんか?』と、一言伝えればそれで済む話じゃないか」。それは正論で、本当にそのとおりだと思うんですが、人によっては、その一言を伝える負荷が大きすぎるんです。だったら、わざわざそんな負荷を引き受けずに、自分と合う人と本業に専念したいと思ってしまうときもあります。
別に、その人にも悪気はないと思うんです。それに、「仕事なんだから無理して感じのよさを取り繕う必要もない」という気持ちも分かります。対面なら、それでいいと思うんです。ただ、これがチャットとなると、あまりにも抜け落ちてしまうんです。
チャットでは、言葉は文字情報としてしか伝わりません。相手はニュアンスをくみ取れないから、それを補完するために、勝手にいろんな想像が膨らんで、勝手に不安をため込んでいってしまう。
たとえば、「この仕事に携わる意義はなんですか?」にしても、実は本当はすごく携わりたいと思ってくれているのかもしれない。「資料のどこをどんなふうに修正すればいいですか?」にしても、実はとても前向きで、その詳細をすり合わせしたいだけなのかもしれない。けれど、チャットだとそれが伝わらない。顔が見えなくて、表情が分からなくて、感情が想像できない……となると、そのニュアンスが伝わらないんですよね。
一方、「対面で感じのいい人」は、チャットでも感じのいい人が多い気がします。つまり、対面で感じのいい人は、チャットになるとますます感じがよくなる。対面で冷たい人は、チャットになるとキツい人になる……その差が大きくなる気がします。
チャットで感じのいい人は、特に若い人に多い気がします。やはりチャットに慣れているからでしょうか。上の世代の人だと、固くなりがちで、「ちょっと機嫌悪いのかな……」と萎縮させられることすらあります。では、「感じのいい人」は、チャットでどんなコミュニケーションをしているのか。少し挙げてみたいと思います。
1つめは、やっぱり絵文字を多用すること。チャットではどうしてもニュアンスが伝わらない、その一番の理由は、相手の表情が見えないからだと思うんです。その表情を代替するのが絵文字です。「お願いします」ならお辞儀マークをつけるといいし、「すみません」なら苦笑いマークをつけるといいし、「すばらしいですね」なら、拍手マークをつけるというように。
「仕事の相手だし、会ったこともないし、特に相手と年の差がある場合、どう受け取られるか分からないから、絵文字を使うのは気が引ける」と感じる人もいるかもしれません。僕はむしろ逆だと思います。「絵文字を使わない」というのは、対面したとき、常に無表情でいるのと同じです。
なんなら積極的に絵文字を使っていったほうがいいし、相手から絵文字が来たら、絵文字で返して、温度差をそろえてあげるのが、チャットの礼儀とすら思います。
Slackのチャットで「ありがとうございます」の語尾に「!」をつけて、冷たくならないように心がけているという話を聞いたことがあります。これはまさにそういうことで、「!」「?」「ー」「〜」など記号を使って、少しカジュアルに、書き言葉ではなく話し言葉で書くというのはいいと思います。
ただの言葉としての文字ではなく、相手と対面で話しているときの「音声」を文字で表現するんです。そうすると、ニュアンスがより伝わるかもしれません。
たとえば、資料に書かれた文章に対して、「稚拙です」と返す人がいます。実際、稚拙に感じたんでしょうし、その人だけでなく、ほかの人が読んでも稚拙な文章なのかもしれません。ただ、「伝え方」というものがあると思います。
「私はこの資料を読んで、同じような平易な表現が何度も繰り返し使われていることに、少し単調さを感じてしまいました。たとえば、1文目と2文目で、このように異なる表現を使ってみるのはどうでしょう?」など、相手に提案するように伝える方法もあるでしょう。
自ら進んで稚拙な文章を書きたい人なんていないはず。「自分なりに考えて思いついた文章を書いたんだ」という、相手のニュアンスをくみ取ろうとせず、言い方も配慮しないというのはチャットではご法度だと思います。
特に対面の会話と違って、チャットは何度もさかのぼって読み返してしまうことがあります。そんなときに、相手から送られてきた傷つくような物言いが残っていた場合、それこそ、その人とのチャットを開くことすら億劫になってしまうと思います。
ただ最近、若い人に対してチャットの語尾に「。」をつけると、怒っているように聞こえてしまう、という話を聞いたことがあります。たとえば、「この資料を明日までにお願いします。」と書いたら、「絶対にスケジュールを守れよ」という強いニュアンスを受け取る人もいるんだそうです。
僕は、むしろ、「この資料を明日までにお願いします」と「。」をつけずに送られてきたら、逆に冷たく感じてしまうんですが、もしかしたら、チャットの言い方にも「ジェネレーションギャップ」があるのかもしれません。
「僕のチャットでの言い方、キツかったりする?」とアドバイスをもらったり、年下の人からも「あの言い方はちょっと……直したほうがいいじゃないですか?」とフィードバックをもらえるような関係を築けるとよいですね。
岡徳之
編集者/Livit代表
2009年慶應義塾大学経済学部を卒業後、PR会社に入社。2011年に独立し、ライターとしてのキャリアを歩み始める。その後、記事執筆の分野をビジネス、テクノロジー、マーケティングへと広げ、企業のオウンドメディア運営にも従事。2013年シンガポールに進出。事業拡大にともない、専属ライターの採用、海外在住ライターのネットワーキングを開始。2015年オランダに進出。現在はアムステルダムを拠点に活動。これまで「東洋経済オンライン」や「NewsPicks」など有力メディア約30媒体で連載を担当。共著に『ミレニアル・Z世代の「新」価値観』『フューチャーリテール ~欧米の最新事例から紐解く、未来の小売体験~』。ポッドキャスト『グローバル・インサイト』『海外移住家族の夫婦会議』
Twitter:@okatch
Webサイト:http://livit.media/
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