コロナ禍のテレワークでも効果--心理的安全性向上で導入したOKR・コーチングの成果

深澤宏仁 (バンダイナムコスタジオ) 片岡洋一朗 (バンダイナムコスタジオ)2021年05月13日 09時00分

 前回は、チームの管理職としてサーバエンジニアの戦力維持が必要となり、チームの現状の調査を行った結果、チームの心理的安全性を高める必要があると認識したところまで説明した。今回は、「実施した施策」「テレワークが続く中でのチームの状況」「取り組みの結果」に関して説明する。

実施した施策「やれることからコツコツと」

 チームの心理的安全性を高めるために、以下の4つの施策を実施した。

  • チームメンバーそれぞれの行動に関する施策として、マインドフルネス
  • チームの仕組みに関する施策として、ホラクラシー
  • チームの文化に関する施策として、OKR
  • 管理職の行動に関する施策として、コーチングと1on1

■マインドフルネス

 チームメンバーそれぞれの行動に関する施策として、マインドフルネスの講座をチームメンバー4名で受講。チームの心理的安全性を高めていくためには、メンバー自身が自分の状態に気づき、他者の発言を受け入れる必要があると考えたため。

 マインドフルネスとは、今この瞬間の体験に意図的に意識を向け、評価をせずに、とらわれのない状態で、ただ観ることとなる。練習を続けることで、自分の感情に気づけるようになり、行動を起こす前に考えることができるなどの効果が出てくる。

 受講した講座は、サーチインサイドユアセルフ(SIY)。こちらは書籍としても出版されている。講座ではマインドフルネスをベースに、心の知能指数(EQ)を高めることを目指すというもの。EQと仕事のパフォーマンスには相関があると言われている。

■ホラクラシー

 チームの仕組みに関する施策として、ティール組織の実践形態であるホラクラシーを部分的に導入。チームの仕組みとして心理的安全性を確保できると考えたため。

 ティール組織とは、現在主流である組織形態とは異なる次世代の組織の形態のこと。生命システムのような組織で、メンバーは自分のエゴを手放して失敗から学ぶ意識を持つなどの特徴がある。その実践として、部分的ではあるがホラクラシーをチームに導入した。

 ホラクラシーは、特にミーティングの進め方に関するルールが明確に定められている。ルールに従うことで、各メンバーは業務での気づきを心理的安全性の高い場で発言をすることができようになる。

ホラクラシー組織図
ホラクラシー組織図

■OKR

 チームの文化に関する施策として、OKRを導入した。これは、チームの文化として称賛、全体性の尊重を根付かせるための仕組みが必要であると考えたため。全体性とは、人が職場で仕事に必要な面以外を隠してしまうことなく、その人全体を表現している状態となるもの。全体性が尊重され、今までは隠していた熱意を職場で表現できるようになることで、より多くのエネルギーを職場で活用できるようになる。

 チームへの導入に際しては、会社組織のOKRではなく、業務とは関係ない個人の目標をOKRとして設定する方法で実践した。お互いを知り称賛する場となるよう、1週間の成果を共有する場であるウィンセッションでは、お菓子を用意し、成果に対して積極的に拍手をするなどを行い、安心安全な場となるよう心掛けた。

■コーチングと1on1

 管理職の行動に関する施策として、私たちはコーチングの講座を受講した。マインドフルネス研修の受講で体感した心理的安全性の高い場づくりを業務で活用する手法として、コーチングが有効と考えたため。受講した講座はMindfulness Based Coach Camp。SIYを日本で主催しているMiLIが展開している講座になる。

 コーチングは、以下のような形で、1on1の場で活用している。

  • 週に1回メンバーが「チームでやりたいこと」をメンバーの言葉で話してもらう
  • やりたいことが実行できているかを話してもらう
  • 状況に応じてティーチングも活用

コロナ禍でより効果を発揮

 弊社ではコロナの流行前からテレワーク制度が導入され、実施済みとなっていた。しかし、サーバエンジニアは、休日や深夜の緊急対応をテレワークで行わざるをえない状況があったため、制度の実施前からテレワークで作業を行っていた。そのため、テレワークでもミーティングが円滑に行えるように、チーム内で実験を進めた。エンジニア的な興味もあり、機材や端末などをチームでいろいろと試してみるなど、Zoomを使ったミーティングの進め方に関しては、社内の他チームと比べて早い段階から実施していた。

 以上のことから、新型コロナが流行り始めた時点で、リモートでのコミュニケーションの難しい点は把握できていた。

組織の心理的安全性を高める施策はテレワークでも大いに効果があった

 組織の心理的安全性を高める施策は、テレワーク下ではより大きな効果を発揮すると感じている。次のように、新型コロナの流行前からの施策がテレワーク下で有効に活用され、チーム内のコミュニケーションを円滑にする大きな助けとなっている。

  • 毎朝の朝会にて、チェックインと称して業務と関係のないちょっとした出来事などをシェアする

→ウィンセッションで行っていた形を活用
→テレワーク下で不足しがちな雑談の場としても活用

  • OKRのウィンセッションで醸成した拍手文化は、Zoomでのミーティングの際に意思疎通の改善に役立った。聞き手が画面内で身振り手振りを積極的に行うことが、話し手に承認されている感覚を与える
  • ホラクラシーのミーティングルールが、Zoomでのミーティングの難しい箇所の改善に役立った
  • リモートの1on1でのコーチング

→MBCCで受講した際にコーチングのセッション練習をZoom上で行っていたため、テレワークでも大いに活用できている

取り組みの結果

 まず、2018年度期初との比較として、wevoxにおける「支援:使命や目標の明示」「承認:評価への納得感」の、2つの項目でエンゲージメントスコアが改善。「支援:使命や目標の明示」については、ホラクラシーのミーティングなどのおかげで、チームとして業務に対処していくようになったことが、大きな影響を与えているのではないかと感じている。「承認:評価への納得感」については、OKRを導入したことで称賛する文化がチーム内にできたことが、要因の一つではないかと感じている。

 上記のようにスコアにも表れているが、OKRのウィンセッションやホラクラシーのミーティングの場で、主役は自分ではなく相手と考えることで、相手を知り、相手を受け入れようという空気が出てきている。個人の心の在り方や、チームの仕組みを変えることで、チームの心理的安全性が向上したと感じている。その結果、心理的安全性はあるが挑戦の少ないコンフォートゾーンから、心理的安全性がありかつ挑戦ができるラーニングゾーンに入るような試みが増加し、生産性の向上に寄与したと思ったいる。

 いくつかの施策は完全な形で導入したわけではないが、それでも効果があったと実感できるものになっていた。良さそうと思えた施策は 積極的に導入してみて損はないと、この取り組みを通じて感じている。

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