企業の新規事業開発を幅広く支援するフィラメントCEOの角勝が、事業開発やリモートワークに通じた、各界の著名人と対談していく連載「事業開発の達人たち」。今回はシャープのグループ会社であるAIoTクラウドのプラットフォーム事業部で企画開発を担当されている廣澤慶二さんにお話を伺いました。
廣澤さんはもともと通信系のエンジニアとして携帯電話の開発に取り組まれていましたが、新規事業をやりたいと考え、社内研修で手作りのモックを持って役員に直談判し、異動を叶えます。前編となる今回は、実際の事例をご紹介いただきながら、新規事業開発に取り組む方へのアドバイスをいただきました。
廣澤氏:AIoTクラウド 企画開発の廣澤と申します。AIoTクラウドは2019年10月にシャープのグループ会社として始まった会社です。もともと私は新卒でシャープに入り、携帯電話やスマートフォンを開発してきました。
角氏:そもそも「AIoT」とは何なのでしょうか。
廣澤氏:「AIoT」はシャープの商標でして、まさにAIとIoTを組み合わせたものです。「IoT」だけではただ通信がつながっただけですが、そこに「AI」を組み合わせることによって、お客様の体験価値を上げるというような取り組みを行なっています。
角氏:なるほど。家電製品というハードウェアではなくてソフトウェア的な部分に着目してつくられたグループ会社だと思っていいでしょうか。
廣澤氏:そうですね。うしろに「AIoT“クラウド”」とついているんですけど、AIとIoTとクラウドを担うメンバーで立ち上げました。
角氏:社員は何人ぐらいいらっしゃるんですか?
廣澤氏:約250人です。その7割ぐらいがソフトウェアのエンジニアで、残りが私のような企画メンバーになります。
角氏:家電メーカーのグループ会社だけど家電製品を直接つくるのではなくて、いろいろなものがつながる、IoTでいろいろなものがつながったうえで、それが人間本意で動くためのソリューションを開発して提供している、そういう会社だと思ってよろしいでしょうか。
廣澤氏:おっしゃる通りです。今まではシャープ向けに「ロボホン」というロボットや、スマートフォンや生活家電にそういったソリューションを提供してきたのですが、AIoTクラウドというシャープの名前がついていない会社になりまして、シャープ以外の会社様に向けてそういったソリューションを提供していく、一緒につくっていくような会社になりました。
角氏:なるほど。分かりました。どういった経緯で今のお仕事をされるに至ったのでしょうか。
廣澤氏:私はもともとハードウェアのエンジニアでした。携帯電話の中にある、携帯電話の基地局に向けて電波をつくって飛ばして、基地局からの電波を受ける回路の開発をしていました。朝会社に行って、測定台に座って電波の設計をして、夜遅く帰るということをずっと続けていました。そこで3.5Gや4Gといった規格に対応したスマートフォンの立ち上げをしていました。
角氏:電波の規格に対応した回路を設計するというのは、具体的にはどんなことをやるんですか?
廣澤氏:電波の規格が変わるとそれに合わせたICが出てきますので、まずはそのICに合わせた部品を選定します。それで規格に適合し、消費電力も少なく、温度の変化にも対応するというような電波を設計して、実際に機器の中にいれていきますが何十万台、何百万台の生産に耐えられるような設計にする必要があります。電波暗室の中に入ったりですとか、測定器で電波の波形を1日中にらめっこするようなこともあります。
角氏:非常に地道な感じがするお仕事に聞こえたんですけど、そこから今の新規事業企画のところまではだいぶジャンプがありますよね。
廣澤氏:そうですね。そこから紆余曲折がありました。最初に携帯電話を開発していたのですが、なかなかそういった回路設計だけではほかのメーカーと差別化することができないというエンジニアとしての課題を持っておりました。そこで、その頃「IoT」という言葉もなかったんですが、研修で、その時やりたかった製品のモックを実際に作り、役員に持っていって「こういことがやりたいです」と直談判して異動させていただきました。そこからIoTの開発を始めました。
角氏:役員を囲む研修の場で、そういうモックを持っていくことは普通のことだったんですか?
廣澤氏:いえ、「お前みたいなのは初めてだ」と言われました。
角氏:本当はそんなことする場ではないんだけど、その場がいい機会だと思って使っちゃったという感じですね。
廣澤氏:そうですね。シャープの全社横ぐしの研修会だったんですけれども。
角氏:ちなみに持ち出したモックというのはどんなものかお聞きしても良いですか?
廣澤氏:実際には商品化しなかったのですが、アニメに登場するようなARグラスがつくりたいと思い、眼鏡に回路を載せて、モックをつくって、それをつけていったんです。「実はこれARグラスなんです」「こういうようなかたちをしています」「こういうことができます」という提案をしました。実際そこから異動して試作機までつくったのですが、ハードウェアができてもアプリケーションがないということになって日の目を見ることはありませんでした。
角氏:簡単におっしゃってますがモックをつくるのって結構大変ではなかったですか。
廣澤氏:はい。私は、朝早く会社に行っていましたので、始業前につくっていましたね。
角氏:でもつくる材料とか部品とかも1個だけで買えないようなものがありますよね。それはどうしたんですか?
廣澤氏:そういったものは会社の予算では買えないので自分のお小遣いで買って、それでつくっていきました。
角氏:なるほど。自腹も切りつつそこまでつくって、本当はそういう目的じゃない役員研修のところにモックまで持ってってわざわざ目立つように自分でかぶって見せたら、それは役員の人も「やっていいよ」って言わざるをえない感じありますよね。
廣澤氏:そうですね(笑)。はい。
角氏:毎日電波の計測をしている日々から、新しい事業の企画をする日々に移られたという感じですよね。その結果どんな製品をこれまでつくってこられたかを教えてもらってよろしいでしょうか。
廣澤氏:シャープにいた時に、「funband」(2022年1月末で配信サービス終了予定)というウェアラブルのデバイスをつくっていました。手首に巻くウェアラブルのデバイスなのですが、時計ではありません。私が広島生まれ・広島育ちでカープが大好きということで、ナイターが見られない方に向けて、リアルタイムに手首に情報が届くようなものをつくりました。僕と同じ境遇のカープファンの方々にウケましたね。
角氏:カープファンの皆さんの本気度ってすごいですもんね。
廣澤氏:そうですね。本当に刺さる人には刺さるというアイテムになりまして、店舗を限定しての発売だったのですが、発売日には開店時に行列ができました。発売前日に夕方のニュースに取り上げていただきまして、それを見た方々が並んでくださったようです。
角氏:なるほど。中身はどんな感じなんですか?
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