デジタル聴診デバイスの出荷が半年で約100倍へ--聴診器のDXが生んだ新しい診察の形 - (page 2)

ネクステートで録音されたCOVID-19重症患者の呼吸音

 「現場のスタッフにとって、今まで当たり前のように行なっていた聴診行為ができなくなるというストレスが非常に強かったという。スピーカーを使うことでこれまでと変わらず聴診ができる。院内感染を防ぐという意味では、新型コロナ最前線の病床だけでなく、小児科やNICUなどでも活用されてきている」と、峯氏は説明する。

 3つめが、遠隔診療・訪問医療の現場におけるネクステートの活用だ。

 長野県・伊那市が現在実施しているモバイルクリニック実証事業で利用されているほか、青森県、神奈川県などでも実証実験を進めているという。

 「ネクステートは在宅診療や訪問看護分野で高い親和性を確認している。看護師が聴診するリアクションのあと、医師から『きれいな音ですね』などリアクションが返ってくることが重要なことだと分かってきた」と峯氏は説明する。現場の医師からも遠隔で操作してもよく聞えるとして、好評だという。

伊那市のヘルスケアモビリティ
伊那市のヘルスケアモビリティ

台湾・秀傳医療グループとの提携で、海外事業を強化

 国内でさまざまな取り組みを広げているシェアメディカル。今後は、海外事業強化を見据え、グローバルモデル「ネクステート SDNX-01G」を発表した。さらに、台湾の秀傳医療グループと提携し、AI、IoT、遠隔聴診などの医療ソリューションの開発を加速するという。

 台湾の秀傳医療グループは、台湾に8病院、3600床を有する大規模病院グループ。医療情報開発部門を有し、院内の電子カルテなどの開発からメンテナンスまで自前で行うIT専門スタッフを約200名以上抱えている。

 「秀傳医療グループのシステムの中でネクステートを活用してもらうことは、病院の中ですぐに実証実験ができるということ。そこでうまれたエビデンスも日本や世界に供給していける」と峯氏は期待を寄せる。

ネクステートのグローバスモデルを9月に発売する
ネクステートのグローバスモデルを9月に発売する
秀傳医療グループとの提携を発表
秀傳医療グループとの提携を発表

ネクステートが実現した聴診器のDX

 オンラインイベントでは、峯社長の講演につづき、長野県伊那市役所 企画部企画政策課の安江輝氏、台北駐日経済文化代表処 経済部部長の周 立氏、台湾・秀傳医療グループ OmmiHealth Group Inc. ゼネラルマネーシャーのLi Liu氏がビデオメッセージで登場。ネクステートを使った今後の展開についてコメントした。

 さらに、日本マイクロソフト IoT Technical Specialistの平井健裕氏が、ネクステートで集めた聴診データをAIを用いて診断分析する方法について解説するほか、アバターイン 代表取締役CEOの深堀昂氏は、ロボット(アバター)を活用した買い物体験や遠隔診療のあり方についての説明を行なった。

 JAXA(宇宙航空研究開発機構) ビジネスプロデューサーの守屋実氏は、「宇宙産業では、2040年には月に1000人規模の人を住まわせようという話が出ている。そうなったとき、遠隔診療の重要性が増す。実は国際宇宙ステーション(ISS)は地上から400キロくらいの位置にいる。東京と名古屋くらいの距離。だから宇宙といっても結構近い話。アバターだったり、ネクステートのような聴診器だったり、いろいろなものに注目して、来たる未来に備えていきたい」と話すなど、今後の医療の拡張性を示唆する盛りだくさんの内容となった。

 SUNDREDのCEOである留目真伸氏は「(シェアメディカルの)ネクステートは、ユビキタスヘルスケアの共創におけるトリガー事業の位置づけ」と話す。

 「プラットフォームとアプリケーションの組み合わせが相互に影響し、発展していく状態を"エコシステム"と定義しているが、医療の場合、プラットフォームの整備をやろうという動きはだいぶ前からあった。電子カルテやデーターベースなどはかなり進んでいる。しかし、これまではエコシステムの共創をドライブさせるトリガーとなるようなアプリケーションが不足していたのではないかと思う。そこに、ネクステートがトリガーとなったことで、エコシステムの共創がスタートしていいった。聴診器は診療プロセスの中で最初に出てくる使用頻度が高いデバイス。聴診データの収集コストもそれほどかからない。さらに、COVID-19に対応する医療現場でも使用が求められている。病院内だけでなく、国内での遠隔診療での新たな必要性を顕在化した。

 さらに、まさに海外。聴診器の課題は海外でも普遍的にあり、ネクステートは海外からも注目されている。その先を行くとAI、ロボット、未来への発展の話になり、最後は宇宙の話になる。目的を持ってしっかりチームを作って取り組んでいけばできないことはないんじゃないかと思えてくるから、素晴らしい」(留目氏)。

 ネクステートが発明したことは、「聴診をする人と診断する人を分離したこと」とシェアメディカルの峯社長は話す。そのシンプルな体験が、医療現場のニーズとあわさり、さまざまな可能性を広げていった。今回のセッションで紹介されたシェアメディカルの取り組みは、ネクステートが成し遂げた聴診器のデジタルトランスフォーメーション(DX)といえるだろう。

 
 

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