一般社団法人 不動産テック協会は6月17日、不動産テックカオスマップ第6版を発表した。掲載サービス、企業の数は352サービスになり、傾向や注目しているカテゴリやサービスについて、オンラインイベント「The Retech Week 2020」内で解説した。
The Retech Week 2020は、6月15~27日の14日間、オンラインで開催しているイベント。「コロナ禍で変わる日本の不動産テックマーケット」から「不動産データ活用とオンライン化の現状」「アフターコロナの賃貸仲介とDX」などをテーマに、不動産テック協会の加入企業の代表をはじめ、不動産業界に関わる人が数多く登場している。
不動産テックカオスマップは、2016年6月に第1版を発表。その後1年にほぼ1度(2018年のみ2度)の改訂を重ね、今回最新版が登場した。新たに56サービスが追加された。
不動産テック協会の代表理事を務める赤木正幸氏(リマールエステート 代表取締役社長)は「業務支援系のサービスは確実に増えてきている。物件情報メディア、マッチング系は一度増加が止まったように感じたが、ここ最近はまた増加傾向にある。一方で減ってきたのがIoTやVR、AR関連」と傾向を話した。
イベントでは、新たに加わった新サービスについては、11サービスをピックアップして赤木氏が紹介。その後、NTTデータ経営研究所 シニアマネージャーの川戸温志氏、コラビット 代表取締役社長の浅海剛氏を加え、パネルディスカッション方式で最新版について話した。
紹介された11サービスは以下の通り。
不動産の管理業務をサポートする「ReTech機能」と、スマートホームを実現する「IoT機能」、物件入居者がさまざまな情報を得られる「Marketing機能」の3つの機能を備えた不動産Techプラットフォーム。「ホームデバイスを連携、統合し、スマートホームとして使える。IoT機器を上手くコントロールできないこともある現在の状況をまさに反映して出てきたサービス」(赤木氏)。
プロジェクターを⽤いてエレベーター内に映像を投影する「エレシネマ」。エレベーター向けスマートディスプレイ事業を手掛ける東京と三菱地所の合弁会社であるspacemotionが運営する。「プロジェクターを使ってエレベーター扉に映像を映す。あまりコストをかけずにコンテンツを映せることができるサービス」(赤木氏)。
物流不動産に特化した不動産のクラウドファンディング。物流施設の賃貸、管理、開発、仲介を手掛けるシーアールイーが物件を調達し、クラウドファンディングのシステム周りはがFUELが担当している。
「HafH(ハフ)」は、国内外の宿泊施設が定額で泊まり放題になる定額制住居サービス。「新型コロナウイルス感染防止のためのテレワークの動きが高まる中、世界中どこからでも働けるというのは現実味を帯びてきた」(赤木氏)。
オーナーと部屋を借りたい人を直接つなげるC2C型の不動産検索サイト「SPACELIST」。「不動産業界におけるC2Cビジネスはあまり定着しないが、SPACELISTは個人的にも注目している」(赤木氏)。
オシャレ建材ECサイト「HAGS-ハグス-」を運営するWAKUWAKUが、工務店、リフォーム会社などの事業者向けに解説した法人向け仕入れ建材サイト。オリジナルアイテを含む1万点以上を取り扱い、現役設計士によるデザイン提案や仕様書作成サービスも無料で提供する。
賃貸契約時に必要となる敷金、礼金、仲介手数料、前家賃などの初期費用を手数料ゼロで分割払いにできるサービス「スムーズ」。利用希望者に、スムーズが提携する不動産会社で部屋探しをしてもらうことで、不動産仲介会社から紹介料(広告費)が入る仕組み。「引っ越しの初期費用は金額がかさみ大変。そうした困りごとをフォローしてくれるサービス」(赤木氏)。
料理レシピサービス「クックパッド」が運営する料理好きのための不動産情報サイト。「キッチンに特化し、ニッチなんだけれどすごい。独自の切り口から不動産を扱っている」(赤木氏)。
不動産テック特化型iPaaSサービス。不動産テックサービス間のクラウドデータ、自社データを連動し、一本化できる。「不動産会社の悩みはサービスがありすぎてつなぎ方がわからないということ。Syncaはその悩みを解決する」(赤木氏)。
再配達をなくす置き配バッグOKIPPAは、常設のロッカーではなくて、バッグで宅配便を受け取れるサービス。「荷物が到着するとアプリに通知が届く仕組みで、袋をぶら下げておくだけで宅配便が受け取れる」(赤木氏)。
不動産業界に特化したSaaS型ステップメール配信システム「SMSハンター」。「ショートメールと聞くと、今はあまり使われていないと思うかもしれないが、不動産業界では大変有効なツール。LINEをきくよりもショートメールのほうがやりとりが早い」(赤木氏)。
第6版の作成については「第5版作成時よりも、減っている数は少ない。傾向としてはコストが重い分野は撤退の決断をきちんとしているなという印象。増えたと感じるのは業務支援系。客付けなのか内見対応なのか、詳細に分けてもいいかもしれない」(浅海氏)と感想を述べた。
第1版から作成に携わる川戸氏は「純粋に数が増えたというのが感想。一つの傾向としては、ブラウザやスマホで完結する以外のサービスが増えたと最近感じる」とした。
今後の注目カテゴリやサービスについては、浅海氏は「オンライン化と非対面化。もともとあったサービスが加速するだろうと期待する」とコメント。川戸氏は「強いてあげるとスペースシェア。海外の事例を調べていて面白いと思ったのが、米国で電気自動車向けの電気ステーションを、戸建てに設置できるというもの。シェアリングサービスは今後も伸びる」と紹介する。
赤木氏は「新型コロナウイルス感染拡大を受けて、非接触型のオフィスは今後増えていくと言われている。また違う切り口のサービスも出てくるかもしれない。入退出管理では顔認証タイプに注目が集まりそう」とし、川戸氏も「オフィスのIoTは、センサーで取得したデータに基づいて、部署間のコミュニケーションが足りないなど、働き方を分析するデータとしての活用も増えていくと思う」とした。
また、アフターコロナについては「基本的にテレワークが進み、オフィスはいらないという意見が出てくると思うが、対面に勝るものはない。対面も必要だし、ウェブミーティングなどが便利な面もある。ハイブリッドに使わなければいけなくなるだろう」(赤木氏)と、今後の仕事のやり方について言及した。
浅海氏は「対面での接触が戻ってきつつあるが、オンラインでのやり取りもあり、以前と同じようにはいかない。オンラインと対面とでは温度感が違う。成約率については課題があるかもしれない。ただ、これはECの始まりのころと一緒で、ECも人に会って直接話しをしなければ売れないと言われていた。オンラインでもどれだけ成約できるのかが勝負になる。これについては誰も正解を持っていないと思う」と営業面についてコメント。
川戸氏は「職住近接という言葉があったが、『HafH』『ADDress』のようなサービスが登場し、アドレスホッパーのような暮らしが長い目で見ると増えていくだろう。価値観が潜在的に変わってきている。会社に行かなくても仕事ができるということを改めて問いただす人がたくさんいるだろう。米国では住居とオフィスを一体化したスペースも流行っている。これもコロナ前に比べ増えると思う」とした。
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