ホテルやコリングスペースなどを賃貸サービスとして貸し出す「Anyplace」が、シリーズAラウンドで約5億3000万円の資金調達を実施した。引受先はGAテクノロジーズ、Uberの初期投資家でもあるジェイソン・カラカニス氏、サッカー選手でもある本田圭佑氏、East Ventures、デジタルベース・キャピタルら。現在23カ国、70都市で展開するAnyplaceサービスのさらなるグローバル展開を目指す。
Anyplaceは2015年にCEOである内藤聡氏がシリコンバレーで設立。当初はAirbnbの空き室を直前で割り引いて提供するマーケットプレイスなどの事業を手掛けていたが、3年前に現在のAnyplaceをスタートした。
「シリコンバレーはAirbnbやFacebookなど、著名なスタートアップが数多く起業した場所。そこで起業したいという強い思いから渡米した。当初は1年くらいで軌道に乗るだろうと思っていたが、事業はなかなかうまくいかない。大変なことも多かったが、日本に帰ろうとは一度も思わなかった」と内藤氏は当時を振り返る。
内藤氏が米国で引っ越しを繰り返しながら暮らしている中で思いついたビジネスアイデアがAnyplaceだ。「引っ越しはとにかく面倒なもの。家具などもそろえなければならないし、ガスや水道などの解約、契約も自分でやらないといけない。もっと簡単に家を借りられれば、移り住む暮らしはもっと楽しくなるはず。何より自分がこんなサービスがほしかった」と考えたことがきっかけだったという。
Anyplaceは、ホテルやコリビングスペース、サービスアパートメントといった家具付きの部屋を月単位で借りられる賃貸サービスのマーケットプレイス。賃貸料には水道、電気といった水道光熱費も含まれる。
「ホテルなど、プロフェッショナルがマネジメントしている物件しか掲載していないことが特徴。民泊と通常の賃貸の間くらいのイメージ。民泊ではホストとのコミュニケーションなどが重要になってくるが、そうしたやりとりを省いて、簡単に予約ができ、生活に必要なものはついてくる賃貸を目指した」(内藤氏)という。
アイデアからサービス開始までは約1カ月というスピード感をもって立ち上げた。「ドラッグ&ドロップだけで作れるようなサイトを立ち上げて、ユーザーの獲得にはウェブの掲示板を利用。最初のユーザーは一緒に内見に行き、その場で契約してくれた」と、スモールスタートながら、手応えが得られた。
「シリコンバレーでよく言われるのが、小さく事業をはじめて、まず検証しろと。全部作ってから始めるとデザインやサイトの構築に数カ月かかってしまう。それでは遅い。とりあえずできたものを1日でも早く始めるのがこちら流」とビジネススタイルはシリコンバレー流にならう。
アイデアを素早く事業化するビジネススタイルは「失敗から学んだ部分も大きい」と内藤氏は話す。「その時々のトレンドを見て、ユーザーを予想しながらビジネスを作っていくと、すでに似たようなサービスがあったり、欲しい物ではなかったりして続かない。自分が心からほしい、世の中にないものを生み出すことが大事。そうでないとうまく行かないときに心が折れてしまう」と、ビジネスアイデアの生み出し方に重きを置く。
今回3度目の資金調達になるが、「米国の投資家には何度も出資を断られてきた。ある意味(断られることに)慣れっこにもなっていたが、ピッチに磨きをかけることで、ジェイソン・カラカニス氏らから投資してもらえるまでになった。簡単ではないが、淡々と続けることは大事。その辺りは投資家から教わった」と話す。
投資家にはサッカー選手の本田圭佑氏も名を連ねる。「本田氏は前回のラウンドでも出資していただき、今回が2度目。同じく出資していただいているメルカリ 代表取締役CEOの山田進太郎氏を通じて知り合った。お話しさせていただいた時、本田氏はメキシコでプレイしていたので、そこまで弾丸で会いに行った。ご自身も海外でプレイしているだけに、日本以外の場所で活動する起業家としても応援していただいた」と人脈を広げる。
内藤氏は調達した資金で、さらなるグローバル化を進める。そのために考えている施策は「ロイヤリティプログラム」「ローカルサービスのディスカウント」「オンラインコミュニティ」の3つだ。
「ロイヤリティプログラムは、使えば使うほど賃料が安くなったり、移動するための飛行機の低価格チケットが手に入ったりと、長く使ってもらうための仕組み。また、引っ越しが多い暮らしは楽しいが、ヘアサロンやスポーツジムなど馴染みの店をイチから探す必要があり、その負担を少なくできるよう、地域の店と提携してディスカウントすることで、引っ越しをしたらすぐに生活を始められるサービスを提供していきたい。
オンラインコミュニティは、知らない土地に引っ越した時、寂しさを不安を感じることがあるが、そうした時にAnyplaceのユーザー同士をつなげて、コミュニティとして機能させていく」(内藤氏)と、移り変わる暮らしを楽しむ一方で、困ったり、不安だったり感じる部分を払拭させる施策を整えていく。
現在、20~30代の単身者やカップルがユーザーの中心。「短期宿泊や留学などのユーザーも多いが、メインはノマドワーカー」(内藤氏)になっているとのこと。現在、滞在期間の平均は7カ月。内藤氏はこれを12カ月まで引き上げることを目標に据える。「米国での賃貸契約期間は12カ月がほとんど。Anyplaceの平均滞在期間が12カ月を超えれば、賃貸としての新カテゴリーとして認知されたと考えられる。引っ越そうとしたときに、1つの選択肢としてAnyplaceが当たり前になるようにしていきたい」と今後を描く。
Anyplaceには現在18人のメンバーが従事。内藤氏とCTOは日本人だが、それ以外は国籍もさまざまだという。加えて、新型コロナウイルス感染拡大以前からリモートワークになっており、暮らす場所も米国、欧州などバラバラだ。
内藤氏はシリコンバレーでの起業を実現した日本人の一人。「米国での起業は、大変なことも多いが、日本人でもできる。英語ができないという人もいるかもしれないが私自身渡米当初は英語は得意ではなかった。ただ、1年程度の短いスパンで成功できると思ってはいけない。3年、あるいはそれ以上かけても成功する覚悟をもって取り組んでほしい」と経験談を踏まえ話す。
「シリコンバレーで起業したのは、世界に使われるサービスを作りたいという思いから。現在23カ国70都市まで広げられ、手応えは感じている。今後もAnyplaceをさらに広げていきたい」とした。
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