前回は、MacBook Airの全体的な魅力や構成の選び方について説明した。
MacBook Air (Early 2020)が注目される最大の理由は、おそらくキーボードがMagic Keyboardに変更されたことだ。人によっては「戻された」と表現する人もいる。多くの人がキーボードに注目している点は、現代コンピュータがどのように使われているのかを象徴するようだ。
2018年の刷新で、MacBook Airは他のノート製品と同様に、バタフライ構造の薄いキーボードが採用された。キーが上下する深さは0.55mmで、本体の薄型化には寄与したが、「タイピング体験」と「信頼性」の2点で、先行して採用されていたMacBook、MacBook Proのユーザーの一部は不満を抱えていた。
そこで2019年の終わりに発表されたMacBook Pro 16インチモデルは、シザー方式に戻し、キーの深さを1mmとし、デスクトップ向け外付けキーボードと同じ名前を冠した「Magic Keyboard」を採用した。
2020年モデルのMacBook Airにも、Magic Keyboardが採用された。16インチMacBook Pro同様、MacBook Airもキーボードの厚みが増した分、本体の厚みも増え、最も厚い部分が1.61cmとなった。
MacBook Airは2008年に登場した。スティーブ・ジョブズが茶封筒から取り出すパフォーマンスは、記憶に残っている人もいるだろう。AppleはプロセッサをPowerPCからIntelに乗り換えたばかりで、振り返ればIntelへの移行の象徴的な存在だった。
処理性能と熱の問題から、もしPowerPCを採用し続けていたら、この超薄型アルミボディのコンピュータは誕生できなかった。Macがクリエイティブ以外の領域、すなわちオフィスユースへと広がることも、10万円近辺の価格で十分な性能を手に入れることもなかっただろう。
MacBook Airは2010年にフルモデルチェンジをして以来、実に8年もの間、同じデザインのコンピュータであり続けた。移り変わりが早いテクノロジーの世界で、8年間も形が変わらないモデルは、見つける方が難しい。
iMacはスタイルこそ維持されているが、だんだん薄くなっており、ハードウェアとしては形を変えてきた。Mac Proに至っては、タワー型から円筒形(ゴミ箱型)になり、再びタワー型に戻るなど、変化が激しい。
モデルチェンジが少ないことは、確かに停滞に見える化もしれない。特に2015年にRetinaディスプレイを搭載した12インチのMacBookが登場していこう、MacBook Airに新しいフォームファクターが採用されないことは、停滞を超えて「軽視」という批判へと変わっていた。
この8年という歳月は、別の弊害も生んでいる。Appleの最も人気のあるMacに搭載されたシザー方式のキーボードが、ユーザーにとって最も長い時間触れ続けたキーボードとなっていたことによって、善し悪しにかかわらず、その道具に慣れてしまった。バタフライキーボードへの批判は、この慣れの問題が大きいと思う。
筆者は普段からキーボードを複数使い分けており、バタフライキーボードの「コツ」みたいなものを心得ている。
参考までに言えば、キーボードを「叩く」ではなく「なぞる」感覚で、下向きの力をかけると言うよりは、指の重さで自然にキーが押される感覚を維持することだ。こうすると、すぐにぶつかる深いな底打ちの衝撃や、指を持ち上げるためエネルギーを回避することができ、素早く快適で、長時間のタイピングが可能になる。
文章化すると、たかだかキーボードを使うために、相当高いテクニックを要求しているようだ。もちろん、こんなことを全世界のユーザーに体得せよという方が間違っている。個人的にバタフライキーは「慣れることができる」レベルで嫌いではなかったが、難しいインターフェースであることには同意する。
キーボードは毎日文字入力手段として使うインターフェースだ。ドキュメントをまとめたり、メールやチャットなどのコミュニケーションにも使う。単純に文字を書くだけでなく、気持ちやアイデアをカタチにして伝えるための道具となっている。
8年間、同じ感触で慣れ親しんだものが急に変わってしまったことは、Macを道具としてみていればいるほど、受け入れがたい。新しいものが好きな人、筆者みたいに日頃から異なる感触を楽しんでいる人にとって、新しいインターフェースは楽しみでしかないが、それは少数派なのだ。
そこでMacBook AirがMagic Keyboardに変わり、シザー構造となり深さがある感触に「戻された」ことは、2018年・2019年のMacBook Airを売ってでも買い換えるだけの価値を感じることになる。
MacBook AirのMagic Keyboardは、MacBook Pro 16インチや、5月30日に登場するiPad Pro向けMagic Keyboardと全く同じメカニズムだ。ただし今までと同様、キーボードがまったく同じでも、搭載する本体の質量や剛性感などから、打鍵感や音は異なる。
筆者はMacBook Pro 16インチとMacBook AirのMagic Keyboardで比較したが、そもそもバタフライキーボードの時に比べて打鍵音は静かに抑えられている。
質量が大きなMacBook Proのほうがしっとりとした音が出るが、MacBook Airでもパカパカ、ペタペタ、といった軽い音が響きにくくなっている。仕事場や公共空間、あるいは家庭内でも使いやすい。
AppleはMagic Keyboardに対して、がたつかないキーキャップ、専用開発の適度なラバードーム、キーをスムーズに上下させるシザー構造を与えている。バタフライ構造との比較で感じるのは、このラバードームの効果だ。
バタフライキーボードのコツを解説した際、「指の重さで自然にキーが押される感覚」と表現した。それは、キートラベルが浅く、跳ね返る力が弱いため、強く叩きすぎるとすぐに底打ちして力の逃げ場がなくなり、また自分で指を持ち上げるエネルギーを使うと言うことだ。
一方Magic Keyboardは、適度な力でキーを押し下げると、このラバードームによって適度に跳ね返され、指がキートップの上で弾む。その力を生かして次のキーへと指を運んでいくことで、リズミカルなタイピングを実現することができる。
タイピングしていて楽しい、そんなキーボードに仕上がっている。
それでも1mmというキーの深さから、強い力で押しすぎると、バタフライキーと同じことが起きるため、疲れる、非効率なタイピングとなってしまう。そこは、3〜4mm程度のキートラベルがある外付けキーボードとの大きな違いがある。
加えて、ファンクションキーの右は時にTouch IDを備えており、指紋認証によるロック解除、パスワード入力の省略やログイン、Apple Pay支払いなどができる。また矢印キーは、左右キーがぐっと小さなサイズに戻され、逆T字型となった。このあたりも、2018年より前のMacBook Airを使っていたユーザーにとって馴染みのある配列だ。
前述の通り、筆者はいろいろなキーボードを気分で使い分けているため、「キーボード目当てに最も価格が安いMacBook Airが欲しい」とまでは言えない。またほぼ9割方の仕事をこなすiPad ProにもMagic Keyboardが登場するため、個人的には5月末の登場を心待ちにしている。
しかし前編で触れたオールインワンのシンプルなハードウェアと長年使える処理性能、そして今回触れてきたキーボードの良さを備えたMacBook Airは、コストパフォーマンスの高さも相まって、引き続き「最も人気のあるMac」として後位を盤石の者としていくだろう。
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