筆者は2017年、Appleがカリフォルニア州クパチーノのスティーブ・ジョブズ・シアターで発表した「Face ID」を取材したその日、さらに北へ移動して、ワイヤレス技術の見本市を訪れた。そこではあるベンダーが、Face IDと競合する自社技術をライセンス提供しようと売り込んでいた。現在、「Android」搭載スマートフォンのメーカー数社がFace IDに似た認識技術を実装している。Googleは「Pixel 4」にレーダーを搭載して顔認証に対応した。Appleの顔認証技術は、まだ完全ではないものの、他社にとって依然強敵だ。
ドイツの化学大手BASFが傘下に置くTrinamixは、そうした現状を変えようとしている。同社が開発した顔認証技術はAppleの技術の一歩先をいくもので、顔の形状だけでなく生体の皮膚自体を検知することにより、精巧なマスクによる不正ログインを防ぐという。Trinamixはこうした技術を、特許を取得したアルゴリズムを通じて実現する。そのアルゴリズムでは、生きている皮膚や死んだ皮膚を含む多様な物質に固有の後方散乱を処理する。同社はあるデモンストレーションで、木とプラスチックそれぞれで作られた同一形状、同一色のブロック2つを見分けられることを示した。Trinamixは、このプロセスに基づき数千種類の物質を認識できると述べている。
ハリウッド映画に登場するようなぞくぞくするスパイ活動や犯罪行為には縁のない多くのAndroidユーザーにとって、仮面や故人の顔を使って顔認証をすり抜ける行為などは日常的なセキュリティ問題だと思えないだろう。それでも、Appleが使用するような高品質の深度センサー/赤外線投影システムと組み合わせれば、特にAppleの存在感が弱い国のスマートフォンメーカーにとっては、かなりの安心材料となる。
TrinamixはQualcommと提携し、Face IDへの対抗策としてこの技術を提供する。Qualcommのシステムオンチップ(SoC)「Snapdragon」の場合、材質検出はSoC上のデジタルシグナルプロセッサー「Qualcomm Hexagon」で実行する。Trinamixは自社製のオプティカルモジュールをスマートフォン向けに販売しているが、処理自体は完全にソフトウェアによるものだ。ライセンス費を払えば、どのメーカーのセンサーを使用しているかにかかわらず、さまざまなスマートフォンブランドが利用できる。Trinamixは間もなく、最初の大きなライセンス契約を発表する予定だ。
Microsoftの顔認証技術「Hello」を利用しているPCも、Trinamixの技術が活躍する場となるだろう。3D深度スキャニングによる基本的な顔検出と同様に、実際問題として距離の制限があるものの、材質検出は顔検出以外にも応用できる。Trinamixが挙げたシナリオは、倉庫で品物を選択して荷詰めするロボットへの応用だ。容器が定められた場所にきちんと置かれていない場合でも、ロボットがより正確に容器内の品物を区別するのに役立つという。
この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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