NTT西日本の若手イノベーターが明かす大企業で新規事業を生み出すためのテクニック

 既存事業に閉塞感を覚え、新しい事業を模索していくべきだと考えていても、大企業的な体質がそれを許してくれない。そんな風に思い込んで身動きできないでいる人も多いのではないだろうか。ところが、NTT西日本(西日本電信電話)のような、それこそ日本有数の大企業で自在に新規事業に取り組んでいる人もいる。

 新規事業開発をテーマに開催されたイベント「CNET Japan Live 2020 企業成長に欠かせないイノベーションの起こし方」の2日目に登壇した、同社ビジネスデザイン部の及部一堯氏が、大企業において新規事業を始めるためのノウハウを自らの実体験を交えて語った。

西日本電信電話 ビジネスデザイン部 X-CREATE室 プロデューサー 及部一堯氏
西日本電信電話 ビジネスデザイン部 X-CREATE室 プロデューサー 及部一堯氏

グループ企業の新規事業創出を支援

 現在、NTT西日本のビジネスデザイン部 X-CREATE室という部署に所属している及部氏は、同社の「HEROES PROJECT」というプロジェクトを推進している。ここでは自ら新規事業を作るだけでなく、日本全国にいるグループ社員が新規事業を創出していける環境の構築から、スキルアップのサポート、事業創出実現に向けての伴走まで、人材育成や事業支援などの側面からアドバイスする立場にいる。まさに、大企業の新規事業開発で中心的な役割を果たしているわけだ。

各地域にいる現場社員の新規事業創出を支援する「HEROES PROJECT」
各地域にいる現場社員の新規事業創出を支援する「HEROES PROJECT」

 ただ、同氏は最初から新規事業開発を担当していたわけではない。2007年に入社したときは法人営業からのスタートだったという。2012年に同部に配属され、新規事業に携わり、次に大手飲料メーカーへ2年間出向し、2017年、再びNTT西日本に戻ってきた後、今のX-CREATE室の前身となる部署に配属された。新規事業創出に加えて、新規事業創出支援の取り組みを始めたのはその頃からだ。

 HEROES PROJECTは2017年にボトムアップ活動として2人で立ち上げ、約1年半で150人を支援してきた。そして、2019年には社長公認の新規事業創出活動“ドリームチームプロジェクト”にまで発展した。ドリームチームプロジェクトは全社員が対象であり、HEROES PROJECTは、同プロジェクトのアイデア創出から事業化までをサポートしている。

新規事業創出に必要なマインドについて語る及部氏
HEROES PROJECTで新規事業創出に必要なマインドについて語る及部氏

 及部氏が、現在のように会社からの全面的な協力を得ながら新規事業にチャレンジできるようになるまでには、本人の並々ならぬ熱意も垣間見えるが、取り組み方に改善を重ねながら、ある意味「裏ワザ」とも言えるようなテクニックも駆使してきたところもあるようだ。同氏はHEROES PROJECTにおける「成功ポイント」として、そのテクニックのいくつかを紹介した。

HEROES PROJECTの「成功ポイント」

 成功ポイントの1つは、社長を巻き込むことだと及部氏は語る。各地域での新規事業創出や、それを担う人材を支援・育成するという目的で始まったHEROES PROJECTではあるものの、当初各地域の支店長などのトップは、必ずしも好意的に見てくれるわけではなかった。地域の支店としては、新規事業創出のために割くリソースがないのが実情だったためだ。

 そこで同氏が考えたのが、プロジェクトとしての活動の重要性を社長に認識してもらい、認知度を上げること。ただし、社内でひたすら訴えるよりも外部メディアを活用する方が大きな効果を上げられるとアドバイスする。プロジェクトの取り組みの内容をイベントの講演などで披露し、それを取り上げたメディアの記事を社長に見てもらうことで、取り組みの重要性が理解されやすくなるのだとか。

HEROES PROJECTにおける成功ポイント
HEROES PROJECTにおける成功ポイント

 チームビルディングにおける工夫もしている。HEROES PROJECTの初期では、応募してきた社員のテーマ・アイデアをもとに、事務局が他の似たジャンルのアイデアをもつ社員をまとめる形でチーム編成していた。しかし、アイデアとしては似たジャンルであっても、それぞれに違う意見があってかえって対立しやすかったり、若手が意見しにくい状況にもなっていた。

 そこで、応募者が最初に自分のアイデアをプレゼンし、他の応募者がその内容から判断して参加するチームを決めるスタイルに変えた。これにより、アイデアのジャンルが自分とは異なっていても、目指す方向性が近いテーマを見つけて参加できるようになり、その後の意見の対立も目立たなくなったという。

 また、チーム編成後に“完走”することも義務にしていない。もし意見の相違で参加し続けるのが困難になったときは、チームからの途中離脱も許容している。それでも、こうしたメンバー1人1人の主体性を尊重する取り組みのおかげで、チーム力も、情報収集力もアップする結果となった。さらに「情報収集力がアップするとアウトプットの質も向上する」とのことで、新規事業の完成度や人材育成の面でも大きなメリットが得られたとしている。

 そのほか、メンター制度においては、社内のことを理解しており、新たな領域の新規事業創出経験がある人材をHEROES PROJECTのメンターに置いている。それは、参加者が将来のキャリアプランを考えるきっかけとなる上に、会社の戦略や方向性を理解することで、早期に事業化を目指すためだという。また、外部有識者に講演を依頼するときは大企業の新規事業創出経験者であることが、新規事業に取り組む社員にとってのモチベーションや納得感のうえでも重要だとした。

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