ハードウェアスタートアップのBONX(ボンクス)が、4年ぶり2度目のクラウドファンディングをGREEN FUNDINGで開始した。プロダクトは新たなコミュニケーションデバイス「BONX mini(ボンクスミニ)」。スノーボードやスキーなど、ウィンタースポーツ中のコミュニケーションツールとして登場した「BONX Grip」の機動力はそのままに小型化し、日常やビジネスシーンでも使える形を目指した。
スポーツ仕様のイメージが強いBONXだが、この4年間で「BONX for BUSINESS」として法人向けプロダクトを開発し、BtoB領域も開拓している。ハードウェアスタートアップとして、順調な成長を遂げたように見えるが、BONX 代表取締役CEOの宮坂貴大氏は「プロダクトを作るのはとにかく大変だった」と振り返る。新プロダクトで再度クラウドファンディングという手法を選択した理由と、知られざるハードウェアスタートアップの苦労について宮坂氏に聞いた。
BONXの設立は2014年11月。当時は今以上に数の少なかったハードウェアスタートアップとしてスタートした。スノーボーダーである宮坂氏が「スノーボードをしながら話せるツールが欲しい」と考えたことが起業のきっかけ。「知らぬが仏だったからできた」と話すように、宮坂氏自身はエンジニアでもデザイナーでもなく、ハードウェアの開発に携わった経験はなかったという。
最初のプロダクト「BONX」は設立から約1年をかけて開発。アプリを介して3G、4G、Wi-Fiなどのインターネット(パケット通信)で接続ができ、最大10人までの同時相互通話を実現。ピタッと耳につく装着性、クリアな音質、IPX5の防水性能など、使いやすさとタフネス仕様を備えたコミュニケーションツールとして、注目を集めた。事実、2015年に実施したGREEN FUNDINGでのクラウドファンディングでは、支援総額が2500万円超。当時のIoTデバイスへの支援額としては最高金額を更新した。
支援者に向け2016年年明けからリターン送付を始めたが、そこで問題が生じた。「製品のクオリティが一般販売のレベルに至っていなかった。どこかが大きく足りないのではなく、音質、操作のわかりやすさ、Bluetooth LEを使ってのつながりやすさ、動作の安定性、精度とあらゆる点が少しずつ満たない感じだった」と宮坂氏は、第1弾モデルを表現する。
中でも、肝となるグループ通話システムの動作が安定しなかった。アプリを開くと自動的に周りの人をスキャンし、ワンタップでグループ作成ができるイメージだったが、Bluetooth LEの精度の問題もあり、最初のスキャンがうまくいかないケースも出てきた。「エクストリームスポーツ用なので、外れにくさを求めるあまりつけていると耳が痛くなってしまったり、あとは量産品質にばらつきがでたりと、ハードウェアならではの問題点もあった」(宮坂氏)と納得いかない点は複数に及んだ。
BONXでは、複数あった「満たない点」を1年かけて改修する。それに合わせ、人員も増強。1人で始めたスタートアップだったが、回路設計から開発、デザイナー、音響エンジニア、ソフトウェアエンジニアなど、現在のスタッフは30人ほどになる。
「ハードは開発までに時間がかかり、すぐに収益を得られるわけではない。BONXのプロダクトはアプリとの連携が必須で、両方を並行して作る必要がある。トラブルが生じるとアプリとハードの両方をしらみ潰しで調べる必要があり、開発はとにかく大変だった。しかしそれをやるからこそ、高品質でユニークなものができ上がることも身を持って体験した」とこの1年間でハードウェアスタートアップとしての体制を築く。「開発のやり方を変えたのではなく、基本的には体制の強化。サーバーエンジニアやサウンドエンジニアなど、専門性の高い職種の人も数多く採用した」という。中には、BONXのコミュニケーションツールとして可能性に共感して、集まってくれたスタッフもいたとのこと。「ブランドとしての独特な世界観を持つことは、採用にもつながることがわかった」と宮坂氏は話す。
クラウドファンディングと約1年の改修を経て新たな「BONX Grip」を開発。2017年の本格発売時には、ムラサキスポーツやビクトリアなど、スポーツ専門店で大々的に展開。スノーボードがメイン市場という特性をいかし、スキー場開発を手掛ける日本スキー場開発とコラボレーションして、プロモーションを実施するなど、ウインタースポーツ市場が大きな牽引役を果たした。
一方で、クラウドファンディングで支援してくれた人向けには、BONX Gripをほぼ原価で提供し直している。「支援してくれた人は、BONXのコンセプトに共感し、ファンになってくれた方。一番にファンになってくれた人にとって、できる限り対応したかった」と宮坂氏は思いを明かす。
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