世界のテックベンチャー発掘プラットフォーム「SEKAIBOX(セカイボックス)」を運営するシェアエックスは8月29日、世界6カ国(南アフリカ、インド、中国、イスラエル、ブラジル、ロシア)で活動する投資家や企業支援者が一同に集まるスタートアップカンファレンス「Next Silicon Valley(ネクストシリコンバレー)」を開催した。
大手企業でも新しいビジネスやイノベーションを起こすために最適なパートナーを自ら探し求める動きが活発化している。日本国内や米国シリコンバレーだけでは足りない。世界中のスタートアップが対象だ。世界6カ国の現地で活躍するVC・支援家が集結した同カンファレンスのコンセプトは「先回りせよ」。シェアエックスCEOの中川亮氏は「今日を起点に、グローバルへのリーチをいち早くスタートしてほしい」と呼びかけた。
同日には、6カ国から集まった登壇者が、各国市場の説明と自社紹介をした後、パネルディスカッションが開かれた。モデレーターの池田将氏(THE BRIDGE 共同創業者・シェアエックス CQO)から提案されたテーマは、「各国市場の強み・弱み」だ。
登壇者は、Samurai Incubate Africa 代表の寺久保拓摩氏(アフリカ)、Aniwo Ltd. Founder & CEOの寺田彼日氏(イスラエル)、Pulsar VC マネージングパートナーのPavel Korolev氏(ロシア)、ブラジルベンチャーキャピタル代表の中山充氏(ブラジル)、GOBI PARTNERS マネジング・パートナーのKAY MOK KU氏(中国)の5名。そして、Incubate Fund India代表の村上矢氏(インド)が、バンガロールからオンラインで参加した。
まずは、アフリカ市場について。2030年には17億人、2050年には25億人まで人口が増加すると推計され、25歳以下の若年層が60%を占める巨大デジタルネイティブ市場となるポテンシャルを秘める。近年は、欧米諸国からアフリカスタートアップへの投資が活発化。投資額の8割は、南アフリカ、ケニア、ナイジェリアで、アフリカ最大のeコマース「JUMIA(ジュミア)」をはじめイグジット案件も出始めているという。
アフリカの強みは、「今なら、スタートアップが社会インフラを作れる」ことだと寺久保氏は話す。郵便、電気・ガス、遠隔医療、不正薬物の検証など、「将来の先進国にとって課題となる領域にアフリカで取り組めば、先進国に逆輸入できる」(同氏)。逆に弱みは、市場がどこまで追いついてくるか、時間との勝負がシビアな点だとした。
人口が多く面積も広いアフリカに対し、イスラエルは人口882万人で国土面積は四国ほどの小さな国だ。しかし、イスラエルでアクティブに活動するグローバル企業は300社以上。得意領域は、AI、IoT、XR、ブロックチェーン、Brain Tech、ロボティクスなど、未来のコア技術開発だ。
イスラエルには、徴兵制がある。IDF(イスラエル国防軍)に入隊した優秀な若者が、コア技術開発に“命がけ”で携わり、ギャップイヤー後に起業する。ユダヤ人は世界中に1500万人。ハイテク業界における強固なネットワークも強みの1つだという。寺田氏は、「コア技術に特化しすぎてUI/UXは得意じゃない。公用語がヘブライ語でネゴシエーションも強いので、戸惑う日本人は多い」と弱みも紹介したうえで、現地に本拠点を置いている支援企業として役に立てると訴えた。
続くロシアは、ベンチャー市場に関与する組織のほとんどが、政府から支援を受けているほど、スタートアップを後押しする環境が整っているという。卒業論文の代替としてスタートアップを認めるユニークな制度があるほどだ。ロシアの強みは、ITスペシャリストのスキルの高さ。国際大学対抗プログラミングテストで8年連続優勝を果たすなど、質の高いエンジニアリング教育に裏打ちされる。人件費が安い点も特徴だという。
B2Bビジネスへの投資が活発で、eコマース市場の年成長は30%にのぼるが、法規制と消費購買力の低さは弱みだという。「ロシア人はおもてなし精神に溢れているが、それが害になることも。もちろん冗談です」と、Korolev氏は会場を沸かせた。
ブラジルは、ニッチなブルーオーシャンだ。2050年には人口2.3億人、GDPは日本を抜いて世界9位。成長市場にも関わらず、「ブラジルに進出する日本企業は、自分とソフトバンクビジョンファンド以外にはいない状況」(中山氏)だという。ブラジルに強みは多い。まず、外資に対する規制が少ない。そして、ハイパーインフレを経験し、お金を溜めずに使う国民性があるという。課題解決力のある技術やサービスであれば、外資スタートアップでも抵抗なく利用が広がると話す。
一方で弱みは、法規制の複雑さ、地球の裏側という物理的な距離だという。しかし実は、ブラジル人口の1%は日系人。「100人に1人が日本人に近い顔をしている。こんな国はなかなか無い」と中山氏は話し、実際には“心理的距離”のほうが大きいのではと指摘した。
中国のトレンドはこうだ。中国人のマインドは“コピーからイノベーション”へと変化しているとKU氏は話す。中国政府は、最新テックトレンドへの理解が深く、新たなサービスに対してサポーティブだ。5Gにも注力し、AIを活用した画像認識や信用スコアなどは行政でも活用が進められているという。
ビッグデータビジネスの精度向上は、人口の多さに左右される。「中国の人口は約14億人。中国国内で大量のデータを吸い上げて分析し、新しいサービスを創造していく点では米国にも勝る。中国での取り組みを、自国や他国で展開できる」とKU氏は強みを挙げる。弱みとしては、やはりコピーの問題が挙げられた。
最後のインドも、人口と社会課題がともに多い国だ。差別化ポイントは3つ。1つ目はインドの経済成長性。GDP成長率は7.4%で、他の新興国と比べて高い。2つ目は人口。2030年には推計14.5億人になり中国を抜いて世界1位となる。3つ目は、中間所得層の拡大。国民1人当たりの可処分所得と消費金額は右肩上がりだ。
背景には、スマートフォンの急速な普及や、2017年に起きた前年比97%減というモバイル通信料金の価格破壊、マイナンバーを中心とした政府主導のデジタルインフラ構築があるという。スタートアップの資金調達額は米国、中国に次ぐ世界3位で、インドのユニコーンは現在20社に達しているという。「インドは今が入り時。このタイミングを逃す手はない」と、村上氏は言い切る。
「インドの労働市場では3年に1回の転職が一般的。優秀なスキルとビジネス経験を併せ持つ、IT人材の層の厚さがインドの強み。明確な弱みはないが、競争が非常に激しい。人材も投資もまさに取り合い」(村上氏)。
日本から派遣される駐在員など、2〜3年で帰国してしまう外国人に、なかなか現地のコミュニティはオープンにはならない。パートナー選びから黒字化まで、現地で腰を据えて取り組む登壇者たちの話を、約100名の参加者たちは熱心に聞き入った。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス