AIやビッグデータといった最先端技術と国家戦略特区制度などの規制緩和により、2030年頃の実現を目指す最先端都市、「スーパーシティ」構想を進める内閣府主催の国際イベント「スーパーシティ スマートシティフォーラム 2019」がグランキューブ大阪(大阪国際会議場)で6月29日に開催された。現状のスマートシティが抱える課題や国際協力のあり方などをさまざまな視点から議論するのを目的としており、国内外の有識者からスマートシティの先行事例や鍵となる要素・技術を紹介するテーマ別セッションをはじめも行われた。ここではその中から5Gテクノロジーをテーマにしたプログラム「5Gで実現するスーパーシティ」の内容を紹介する。
最初に、総務省情報流通行政局情報通信政策課企画官の寺村行生氏がスーパーシティ構想の前提となる日本の構造変化や総務省のこれまでの取り組みについて、「Society 5.0時代のスマートシティ」と題した資料を元に説明した。
少子高齢化や人口減少、インフラの老朽化など、日本にはいくつもの「静かなる危機」が訪れており、アジア諸国より20年先行している。総務省ではそうした課題にこれまで個別に取り組んできたが、内容は複合的であることからSociety5.0時代においては、共通プラットフォームで課題を共有する「データ利活用型スマートシティ」による課題解決を目指し、自治体の支援をはじめ、国交省や内閣府とも協力しながら、モデル事業以外の動き、具体的には設計図を作っていくとしている。
その中で5Gは、2040年の社会構造を支える社会経済基盤の1つであり、無人化、自動化、ロボットとの協働、高齢者の見守りなど幅広く活用され、2030年には約7兆円の市場効果が期待されているという。寺村氏は「活用もキャリア主体から地域や自治体も利用できるようにし、医療、農業、自然災害監視といったニーズにあわせて提供する。そこでは街づくりのビジョンが重要であり、5Gとどう関連付けて考えるかを真剣に議論する必要がある」とコメントする。
続いてノキアソリューションズ&ネットワークス(以下、ノキア)柳橋達也氏から、海外におけるスマートシティでの取り組み紹介を元に同社が進める、都市をプラットフォームにするアプローチについて紹介された。
スーパーシティでは人とモノをはじめ街全体が革新的で大規模に接続されたプラットフォームとして機能する必要があるが、「継続して運用するには補助金に頼るだけでは難しく、収集したデータに付加価値を加えて提供するという発想が大事」と柳橋氏は説明する。
ノキアではスマートシティの実現に向けた、コネクティビティと自動化インテリジェンス、統合運用の3つを提供し、その上で新しいビジネスモデルの実現を支援することを目指しており、「自治体の課題とコストにあわせた提案が可能だ」としている。ネットワークは地域全体ではなく、コストと必要に応じてローカル5GやプライベートLTEで提供し、企業や自治体で運用できるようにする。
具体的な事例としては、カナダのカルガリーではスマートボールと呼ばれる設備で街灯をスマート・ステーション化し、監視カメラやデジタルサイネージ、充電スポットとして利用し、今後はドローンの基地局の運用も予定されている。
街の監視では膨大な情報量の中から異常値があった場合だけ通知する技術を開発し、ベルギーではトラックの長距離トラック・サービス・ステーションの監視コスト抑制につなげている。さらに、膨大な数の接続デバイスやシステムを一括して運用できるソフトウェアも開発しており、ベトナムのハノイ市が進める公共交通の安全や環境モニタリングを行うプロジェクトで実証実験を行っている。また、2017年10月に仙台市と連携協定を結び、住民の安全・セキュリティー向上と地元経済の発展に寄与する活動を進めており、国内の具体的な事例にもなりそうだ。
NTTドコモの5G・IoTソリューション推進室長の本高祥一氏からは、主に国内での取り組みが紹介された。ドコモでは9月開催のラグビーワールドカップにあわせて5Gのプレサービスを開始し、2020年の商用サービス開始に向けたインフラ構築等の投資を1兆円かけて進めている。4Gでは人口多い地域を優先したが、5Gはニーズ優先で、必要に応じて工場や農地など地方へも適切に提供し、サービスについても自社だけでなくパートナーと一緒に提供するため、すでに160を超えるトライアルを実施している。
先日、京都府とスマートシティづくりのための連携協定を結んだのをはじめ、 5Gオープンパートナープログラムに加入する自治体は100を越え、5Gを利用したさまざまなデジタルトランスフォーメーションに取り組んでいる。実証実験ユースケースとして、日本電気と行っているスマート街路灯の開発、和歌山県と県立医科大と行っている高精細診断画像による遠隔診療、沖縄観光ビューローと凸版印刷で制作した4K-MR(AR+4KVR)でコンテンツを5Gで神奈川の学校にリアルタイム配信した事例などが紹介された。
パートナープログラムに参加する企業も2700を越えるが、本高氏は「国内は既存投資が中心で、価値創造に力を入れないと海外にはこのままでは負けてしまう」と危機感を強めている。5Gはゼロをプラスにする発想で取り組む必要があり、そのための組織作りや情報提供の場づくりをオンラインとリアルの両方で行い、ビジネスキャンプの実施などBtoBtoXモデルの構築で、新しい価値を共創していきたいと述べた。
本セッションでは具体的な議論はなかったが、5Gの取り組みは大きな視野で街全体の在り方を考えて導入すべき、というコメントが全員からあったのが印象深かった。高速・大容量・リアルタイムに接続するネットワークで何ができるか以前に、何をするべきかをあらためて考える必要がありそうだ。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス