「畜産×テクノロジー」で食肉の新たな価値創造に挑むMeat tech

Emi KAMINO 別井貴志 (編集部)2019年06月21日 08時00分

 「畜産×テクノロジー」をテーマに事業を展開する、Meat tech。2017年に株式会社ペリーとして設立し、今春、社名を改称して新たなスタートを切ったベンチャー企業だ。同社でCEOを務める中山智博氏に、事業内容や起業に至った経緯などを聞いた。

 起業前の中山氏は、ソニーでタブレットデバイスの市場開発や4Kチューナーのマーケティングを務めた後、介護・医療・キャリア・ヘルスケア/シニアライフ分野で情報サービス開発と運営を手掛けるエス・エム・エスに入社し、遠隔診療事業と栄養士事業の責任者として従事していた。フード関連とはまったく異なる畑違いの転身かと思ったが、実は家業が牧場経営者だという。

 祖父が創業した福山市のなかやま牧場は9000頭の肉牛肥育する大牧場。獣医でもある実父も、三原市で1300頭を肥育するルミノ牧場を経営している。自身も大学時代に農学を専攻していたそうだが、前述のとおり、15年ほどはIT業界でサラリーマンをしていた。

 しかし、「起業の思いは始めからあった」と話す中山氏。たどり着いたのが「畜産×テクノロジー」の世界だ。「実家の2つの牧場のリソースを使って何かできないか?」との思いから結びついたのが現在の事業だと明かす。

Meat techのCEOを務める中山智博氏
Meat techのCEOを務める中山智博氏

 2つの牧場は、ともに「アニマルウェルフェア」と呼ばれる飼育を行っている。「動物たちは、その動物本来の行動をとれる幸福な状態でなければならない」という、ヨーロッパで主流の畜産・飼育の考え方で、具体的には、牛の除角をしない(または獣医による除角)、ストレスを与えない飼育、ホルモン剤を投与しない、抗生物質の投与によるビタミン欠乏の禁止――など、動物が本来の行動を取ることができる幸福な環境で飼育することを遵守している。ただその一方で、営業・利益的な観点からはジレンマも抱えている。

 というのも、牛肉の現在の市場評価は「色」を中心に価値が決まる。我々が耳にする「A5等級」というような言い方も、「脂肪交雑(サシ)」、「肉の色沢」、「肉の締まり・きめ」、“脂肪の色沢と質”の4項目を1~5の5段階で評価して、4項目のうちで一番低い等級が最終的な肉質等級としてラベリングされるのだという。

 「肉牛のランク付けは、生産者の努力が全てというわけではないです。そもそもの品種によって左右される要素も多いです」と中山氏。近年の統計で、他の品種に比べて黒毛和牛の飼育頭数が突出しているのは、単に「サシ」が入りやすい品種で「その方が売れるから」という理由で畜産事業者の多くが生産しているだけに過ぎないというのだ。

 もちろん、市場の原理から考えれば当然のことである。しかし、中山氏はこうした「血の平準化」がもたらすある問題を懸念している。「血の平準化は多様化を失わせてしまうことにつながります。他の品種が淘汰されないように、売れるマーケットというのを作り出す必要があります」。

 中山氏によると、牛肉の味を決定する大きな要素は「血統」と「飼料」だという。一方で、現在の価値基準は、視覚情報と地域ブランドに頼った偏重したものになってしまっている。

「視覚情報による現状の評価方法では、脂肪交雑(サシ)しかわからない。たとえ“〇〇産”と産地の特定をしたとしても、血統とエサはわかりません。その肉を美味しいと思うか否かは、その人次第で好みの問題なので、選択できる市場を作りたい」

 その対応策としてMeat techが投入する解決手段が「テクノロジー」だ。従来のような見た目によるものではなく、人が食べて実際に感じた官能評価と、科学分析や画像解析を用いて牛肉の特徴や味覚測定を行い、血統別、農場別、部位別というふうに分類し、マトリックスを作成して消費者に提示する。新たな評価軸によって消費者はより多様な選択ができるようになる。

 食肉業界におけるもう1つの問題は「流通」だ。中山氏によると、例えば、生産者から150~260円/100gほどで販売されている牛肉は流通市場で384円~480円/100gで取引され、外食産業へは600円/100gで卸される。最終的に消費者のもとへは2000円/100gほどで提供され、およそ8倍から13倍程度まで価格が跳ね上がるというのだ。実家が生産事業者だからこそ知り得る業界事情だが、流通を最適化する一つの方法として「牧場からダイレクトに売れる仕組みを作る必要がある」と、Meat techではEC展開をはじめとする流通支援やマーケティング、セールス企画といったコンサル支援も行っている。

 「新しい価値基準」の創出では、新機軸での商品展開の提案も行う。「例えば、通常はお金を払って引き取ってもらう牛骨はフレンチシェフの世界では重要食材として重宝されています。繊維が多くて用途が少なく、挽き肉用に利用されることの多い、ブリスケットやネックなどは、乾燥させることで新たな食感に変化してドライドビーフとして売り出せます。大豆ミートも0か1の話で語るのではなく、0.5という選択肢だってあると思います。環境負荷を低減するという意味でも十分意義があります」と話すように、牛1頭のうちこれまでは捨てていたような未使用部位を「売れるもの」として新たに価値を見出したり、より現実的な方法で利用価値を考えたりしながら商品開発の提案を行っていくという。

 最後に、Meat techで目指していることを改めて問うと、「価値のないものに価値を見出したり、“価値の偏重”を正したりしていくこと」と中山氏。「平たく言うと、畜産を儲かる商売にしてあげたい。ただの親孝行かもしれませんね」と笑いながら語った。多くの価値が偏重した食肉業界に、今後も生体技術や分析技術といったサイエンスやテクノロジーを幅広く応用して斬り込んでいくという。

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