ウェザーニューズは6月19日、One Concern、損害保険ジャパン日本興亜と共に「テクノロジーSociety5.0を通じた防災・減災・レジリエンス力の向上-SDGsに向けたAIを活用したグローバルなスマートレジリエンスモデルの構築」と題したセミナーを都内で開催。
AI(人工知能)を活用した防災・減災システムの共同開発に関する業務提携の締結と、9月から熊本県熊本市で同システムの利用を開始することを明らかにした。本稿ではNIED(防災科学技術研究所)の基調講演から、同システムに関する概要をお伝えする。
地震や火山、気象、土砂および雪氷災害による被害軽減の研究開発を行うNIEDは、6月18日に発生した山形県沖地震M6.7を引き合いに出しつつ、今回のように「発生時間が22時22分だと、JAXA(宇宙航空研究開発機構)衛星の撮影タイミングは翌日。夜間のためヘリや航空機、ドローンによる撮影も不可能だった」(NIED 先端的研究施設利活用センター 戦略推進室 室長 酒井直樹氏)と説明した。
政府は発生後2時間を目安に災害対策本部を立ち上げるが、その時点でデータがそろっていないため、迅速かつ適確なデータ収集が喫緊の課題となった。そうしたケースに向けNIEDは、民間企業など21機関と連携した「衛星データ等即時共有システムと被災状況解析・予測技術の開発」に取り組んできた。詳細は政府が公開するPDFを参照のこと。
筆者が関心を持ったのは、「レジリエンス・イノベーション」というキーワードである。NIEDは「従来とは異なるレジリエンス(回復力・復元力など)の取り組みが必要だ。これからの防災を実現するためには、先行的かつ革新的な投資や分野横断の協業、官民連携による技術活用、(地方で発生した災害に対する)当事者意識、そして攻めの防災」(酒井氏)の実現を目指すのが先のキーワードである。
酒井氏はSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)を通じて衛星データの具体的な活用方法や、2016年4月14日以降に発生した熊本地震の二次災害でIoTセンサーの活用事例、先端的研究施設利活用センターの取り組みを披露しつつ、「SIPもドローンや航空機などから情報を集めているが、現場でつかえないと意味がない。『逃げ遅れゼロ』を実現する研究を進めたい」(酒井氏)とNIEDの姿勢を語った。
さて、前述のとおりウェザーニューズ、One Concern、損害保険ジャパン日本興亜の3社が開発する防災・減災テクノロジーは、現時点でキャッチな名称を付けていない。それでは読者諸氏も理解しにくいため、本稿では「防災・減災システム」との仮称で説明を続ける。防災・減災システム(仮)は気象や建築物、ガスなどのインフラデータをAIで分析し、洪水・地震などの災害の発生前・発生時・発生後における正確な被害予測とリアルタイムな被害状況を、地域ごとに把握することを目的としたシステムだ。
ウェザーニューズは膨大な気象の過去データや最新の予測データを提供し、シミュレーションなどの基盤システムはOne Concernが担う。同社はデータを活用した地震や洪水、森林火災といった災害に対応するシステムを提供してきた。自然環境や建築環境、重要インフラと各インフラの依存関係、送電網、水道管、交通分析をレイヤー化した“デジタル指紋”を作成し、「数百マイル先のダムが決壊し、近くの病院が被害に遭う確率をデータの関連付けで把握できる」(OneConcern CEO, Ahmad Wani氏)。
今回3社はOne Concernが提供する防災対策・対応プラットフォームを既存システムと併用して、熊本市の防災レジリエンスを向上させる「One Concern 熊本プロジェクト」に取り組む。
暫定スケジュールとして、2019年10月から洪水モジュールの導入、2019年12月から地震モジュールの導入。その後一年半をかけて防災・減災システム(仮)の完成を目指す。本システム本格稼働後は、被害予測のシミュレーションに沿ったBCP(事業継続計画)プランや避難を含めた防災計画の見直しが可能。
災害発生時も地域全体が被る損害の把握や救助を効率化することで、被害の最小化を目指す。また、災害発生後も効果的な復興対策の検討が可能になるとしている。
本プロジェクトに損害保険ジャパン日本興亜が携わる背景にはビジネスドメインの拡大があるという。同社は150超の自治体と団体保険の包括契約を結んでいるが、「顧客が求めているのはリスク回避・極小化のソリューション。防災・減災に注目が集まる今を、保険事業に変革をもたらすチャンスと捉える」(損害保険ジャパン日本興亜 代表取締役 社長 西澤敬二氏)。
整理すると防災・減災システム(仮)は、ウェザーニューズのデータ、One Concernシミュレーション機能を用いて、損害保険ジャパン日本興亜が顧客に提供する保険ソリューションである。データを提供するウェザーニューズは、2018年に多発した自然災害に対して、「現状をニューノーマルと考えるべき」(ウェザーニューズ 代表取締役社長 草開千仁氏)と価値観の変革をうながしつつ、災害につながる気象情報の把握と戦略的なマネージメントが重要であると強調したように、気象災害が多発している日本では本ソリューションが大きな価値を示すだろう。
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