田宮氏からは、アクティビティの開発やVR ZONEの運営を通じて得られた知見が解説された。たとえば高所恐怖SHOWでは、足がすくみなかなか足を踏み出せない人や、それこそギブアップしてしまうような人もいれば、全く怖がらない人もいるなど、アクティビティに対する反応は相当大きな個人差があったという。それには田宮氏いわく「VR共感力に差があるからではないか」と指摘する。
VRの定義は「抽出された現実」や「現実そのものではないが本質的には現実」としており、完全再現はしなくとも、厳選再現によって「実在感」を出し、錯覚させることはできるという。たとえば、スキーロデオでの雪景色のなかで、吐いた息に会わせて白い息が表示され、さらに送風があることによって「寒い」と感じた人がいるという。
生物は入力に対して素早く判断して行動する必要があり、人間は認識や判断をはしょりたがるもの。それゆえ「いつものパターン」ははしょって錯覚しまうという。その人が実際のものとして受け取れるだけの経験や知識の有無によって、リアリティの感じ方が変わってくるというのが田宮氏の考え方だ。
VR共感力は、まずその状況やテーマに対しての経験によって差が出るという。たとえば高所恐怖SHOWにおいて、板の前に立った瞬間にギブアップした人の中には、自衛隊の落下傘部隊にいた人や、舞台装置のやぐらの上といった高所での作業したことがある人などは、高所における危険を日常的に察知しているからと推察され、そのコンテンツに対するVR共感力が高い状態となる。また妄想力が豊かな人もVR共感力が高いという。アーガイルシフトやボトムズのように、ロボットに乗り込んで戦うというような、漫画やアニメなどで憧れたシチュエーションで現実には体験できないことができる状態になると、VR共感力が高まる。
一方でVRコンテンツになれてしまって分析しようとしたり、理性や理屈をもって体験する人、また最初から斜に構えている人などはVR共感力が低くなるという。こういったことから、素直に信じる心や楽しむ気持ちを持って、夢中になったり必死になったりすることが、VR共感力の上昇につながり、VRコンテンツを楽しめるという。このことからリア充層ほどVRが楽しめるという見方も、あながち間違っていないとも付け加えた。
VR共感力に個人差があるとして、より多くの人に実在感を共感してもらうにはどのようにしたらいいのか。田宮氏は、まず「現実や実物を用いたものは実在感が出やすい」ことを挙げる。日常的に経験していることをテーマにすると個人差は出にくく、VR共感力も高まりやすい。
もっともVRであればファンタジーをテーマにしたものを扱いたくなるもの。そうしたときには、物理法則にのっとった演出を入れることが大事だと説く。ガンダムVRでは武器と武器がつばぜり合いをしているときに火花が散るのだが、ガンダムの手に火花が跳ねているのを見ているだけでも実在感が増すというものだ。
そして爆発の映像に爆発音が加わり、さらに地面から震動を感じ、その上で熱まで感じられるようにして、複数の情報を正しく加えて同時に刺激することにより、その世界にいるということを信じ込ませることができるという。
最後に、ゲームとVRの違いの本質についても語られた。ここでのゲームは、モニターに表示されることが前提のビデオゲームコンテンツ、VRはエンターテインメントを目的とした3DCGによるリアルタイム描写のVRコンテンツとしている。
まずVRゲーム開発において、ゲーム開発者からよく「従来のノウハウが通用しない」という声があがっているという。これに田宮氏は「ゲームは旅番組を見るものであり、VRは旅行に行くもの」と例えるように、従来のゲームが基本的に三人称視点から感情移入して楽しむものであり、VRは一人称視点から体験して楽しむものであると語る。
例えとして、脱出病棟Ωの開発においてゲーム的な「HPゲージ」を導入したところ、敵から刃物で斬りつけられるまでは恐怖心を感じるが、そのあと一気に冷めてしまい刃物などが怖くなくなってしまうという。ほかにもリアルを表現するVRにBGMを流したり、モノローグを入れるというような感情移入を前提とするゲーム的なお約束の表現は、VRで通用しにくいと指摘する。ほかにもインプット特性の違いもあり、ゲームとVRはそれぞれに強みとなるものが違うと説明する。
こういったことを踏まえ、田宮氏はVRの面白さはゲームルールの面白さとは違うところにあり、どんなルールが楽しいかを考える前に、VRとして何が面白いのか、面白い体験というのはどういうものかを発見することのほうが大事と主張する。そして「大切なのは、その場にいたらどうなるか、本当におこったらどうなるかを豊かに想像する力。そのときの気分が想像できるかが企画者としての勝負」と付け加えた。
そして講演をまとめる形で、VR未体験の人を誘う言葉であると同時に、VR開発者がコンテンツ制作の際に肝に銘じるべき言葉として「百見は一体験に如かず」というメッセージを送っていた。
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