さて、さっそくデータを見てみましょう。まずは都道府県別に、公共図書館(都道府県立図書館と市町村立図書館※移動式を含む)の所蔵数を見てみます。
これを見ると、「東京→大阪→埼玉」と人口の多い都道府県が上位に並んでおり、特に感想は浮かんできませんね。ちなみに、所蔵数合計は、6965冊。1都道府県あたりの平均所蔵数は、148冊となっています。
しかし、都道府県内の図書館の数が多ければ、1館につき1点だけ購入したとしても、都道府県単位の所蔵数も増えるわけで、このやり方だと、図書館活動に熱心な自治体ほど、不利になってしまいます。
そこで各自治体の所蔵数を、自治体内の図書館の数(移動図書館含む)で割り、「1館あたり」の数を出してみましょう。
こちらを見ますと、東京、奈良、大阪……という順番です。最高は2.44、平均値は1.27。
それほど「多い」という感じはしませんね。
図書館単位で見てみるとどうなるでしょうか。単館単位の所蔵数ランキングを出してみると、以下のようになります。
1つの図書館で38点。確かに、これは多い! 岡山市と横浜市は、いったい何を考えているのでしょうか……。
と、考えたくもなりますが、ちょっと冷静になってみると、ベストセラーを分館でなく「中央図書館」に集めて所蔵する方針があった場合、その地域全体の所蔵数はふつうでも、「中央図書館」の所蔵数が多くなってしまう可能性がありますね。
トップの岡山市の市立公共図書館は、9館。所蔵数は中央図書館の38点を筆頭に、幸町図書館が11点、岡山市立西大寺緑花公園緑の図書室が4点……などと続き、合計60点。平均所蔵数は6.7点となります。
岡山市の人口は70万人。同じような規模の自治体としては、静岡市や熊本市があります。そこで両市のデータを調べてみますと、静岡市の市立図書館は13館。所蔵数トップは中央図書館の3点。合計は18点で、平均所蔵数は1.3点となります。
他方、熊本市の市立図書館は移動図書館を含め(1館と数え)、6館。所蔵数トップは、熊本市立植木図書館の3点。合計は8点で、平均は1.3点となります。
この3つの市を比較しただけで断定はできませんが、その範囲では、やはり岡山市の所蔵は多いのではないか、という印象を受けるのは確かです。
とはいえ、全体を見てみると、岡山市中央図書館のような例は、それほど多くないことがわかります。
下図は全図書館の単館の所蔵数を点数別に並べてみたものですが、ほとんどの図書館は0~2冊くらいです。ちなみに、平均所蔵数は1.38ですが、最頻値は1、中央値も1となっています。
「図書館事業に熱心な自治体は、その分、複本も多くなる」ということもあるかもしれません。予算額が大きい自治体では、全体の購入費も大きいので、購入冊数も増えているだけかもしれません。そこで、今度は都道府県の資料費(※)全体に占める本書の購入分金額の割合を出してみました。
※日本図書館協会は市区町村立では「図書費」と「資料費」を、都道府県立では「資料費」を集計しています。今回は市町村立の「資料費」と都道府県立の「資料費」を単純に合計しましたが、「資料費」には図書購入費以外も含まれていますので厳密ではありません。
この基準ですと、京都府、ついで神奈川県、大阪府が上位、という結果になりました。
「予算」ではなくて、「人口あたり」で考えるべき、という考え方もありますね。こちらもやってみましょう。
都道府県の人口1万人あたりで見ると、滋賀県、長崎県、東京都が上位、という結果になりました。
うーん、これは難しい。
「公共図書館はベストセラー本を買いすぎ!」と言っても、こうしていろいろな観点から実際に計算してみると、どの観点で見るかによって、結論がけっこう変わってしまいます。
「公共図書館はベストセラー本、買いすぎでは?」→「均すと1館平均1.27冊ですよ」
「1つの図書館で38冊とか多すぎ!」→「いや、最頻値は1ですよ」
「予算比/人口比で多すぎる!」→「では何%、何冊だったらいいんですか?」
と、いうわけで、一口に「買いすぎ」といっても、見方によって順位も様相も変わり、この問題、なかなか一筋縄ではいきそうにありません。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
企業や自治体、教育機関で再び注目を集める
身近なメタバース活用を実現する
パナソニックのV2H蓄電システムで創る
エコなのに快適な未来の住宅環境
OMO戦略や小売DXの実現へ
顧客満足度を高めるデータ活用5つの打ち手
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」