YouTubeの動画が爆発的にヒットし、一気に知名度と売り上げを伸ばした例としては、以前に紹介した「Dollar Shave Club」がある。廉価版の髭剃りのサブスクリプションサービスを提供しているDollar Shave Clubは、1本の動画をコストをかけて制作し、ターゲット顧客をつかむという作戦を取り、これが見事に成功した。
一方、消耗品ではない高額商品を販売するBlendtecの場合は1本の動画が大ヒットしても、ビジネス上の効果は長続きしない。ライト氏らは「Will It Blend?」のアイデアを思いついた当初から、単発動画ではなく、シリーズ化することを計画していた。
出演者は基本的にディクソン氏ただ1人。撮影場所はBlendtec社のラボ。新たに用意する必要があるのはディクソン氏が着用する白衣と防護メガネに加えて、毎回の実験材料だけなので、コスト的にも「Will It Blend?」はシリーズ化に適していた。ライト氏によれば、最初の5本の撮影のために新たにかかった費用は、およそ50ドル(約6000円)だという。
ただし、固定されたパターンで視聴者の関心を引き続けるには、なるべく面白い品物を実験材料に選んで変化を出す必要がある。しかも初回から視聴者の度肝を抜いたので、ちょっとやそっとの意外性では視聴者は満足してくれない。
そのため、この動画シリーズには、ゴルフクラブやプリンセス人形、電球など「粉砕するなんてとんでもない」という品物が次々と登場してくる。Bicのライター6個をまとめて投入した回では、発火したため、いったん消火器で消火するというアクシデントも起きている。
これまでに特に話題となり、視聴者層のさらなる拡大につながったのは、2007年7月にアップロードされたiPhoneをブレンドした動画だ。
これもAppleの人気に便乗した商法の一種と呼べるのかも知れないが、実行するにはかなり勇気が必要だったのではないだろうか? 実はiPhoneは実験材料の候補としてBlendtecのリストに入っていたが、同時に視聴者からも多くの要望を受けた品物であるそうだ。
Apple製品はその後もiPad、iPod、Apple Watchと、新製品が登場するたびに粉砕されている。他のメーカーの携帯電話やゲーム機もしばしばブレンダーにかけられている。こうしたハイテク機器がアップグレードされる限り、Blendtecはネタ切れに困ることはなさそうだ。
「Will It Blend?」の動画シリーズの説明に多くの文字を費やしたが、Blendtecはブレンダーのブランドとして、顧客がそのまま応用できる正攻法のコンテンツもちゃんと発信している。
以下はスムージーのレシピ集。こうしたコンテンツでも消費者の反応を引き出し、彼らのエンゲージメントを高めることに努めている。
冒頭でも触れたが、「Will It Blend?」の動画シリーズの成功で、Blendtecの年間売り上げは、実店舗で10倍、ECサイトで6倍と600%も増加した。現在も、全体の売り上げに占める割合はECサイトよりも実店舗のほうが多いという。そのため、従来実施していた実店舗での実演販売にも依然として力を入れている。ただし動画シリーズを発表したことによって、その実演販売にある大きな変化が生じたそうだ。
動画をリリースして以降、インターネットで動画を見た子どもたちが「実演を見よう」と両親の手を引っ張ってくるケースが増えたのだ。そして、実演3回のうち1回が商品の売り上げにつながっている。ハイエンドな製品を専門とするBlendtecでは、子供がマーケティングの有望なデモグラフィックになるとは考えてもいないことだったという。
社内では当たり前だと思っていた「異常な作業(笑)」に着目して、それをコンテンツとして発信し、大成功を収めたBlendtec。僕自身、ECサイトのコンサルティングをしていると「えっ? そんなことが普通に扱われているんですか?」と驚くことが結構ある。もしかすると、Blendtecのような出来事があなたの会社にも潜んでいるかもしれない。
尼口 友厚
ネットコンシェルジェ
CEO
明治大学経営学部卒。米国留学からの帰国後、デザイナー/エンジニアとしての活動を経て、2002年に国内有数のウェブコンサ ルティング会社「キノトロープ」に入社。 2003年、同社関連会社としてネットコンシェルジェを設立。eコマースとブランディングを専門領域とし、100億規模の巨大ECサイトからスタートアッ プまで150を超えるクライアントを抱える。
2015年にベンチャーキャピタル2社より資金を調達し、キュレーションコマースプラットフォーム「#Cart」を開始。趣味はブラックミュージック鑑賞。著書に「なぜあなたのECサイトは価格で勝負するのか?」(日経BP)。
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