VRコンテンツの収益化は可能か--SCE吉田氏や手妻師の藤山氏らが語ったVRの現状と未来 - (page 2)

藤山氏が考えるVRの収益化で重要な「回転率」と「カスタマイズ性」

 藤山氏は、今のタイミングではVRコンテンツが日本における投資対象になっていないと率直な意見を述べつつ、そこで歩みを止めるのではなく、いかに収益化を図るかを考えているという。その収益化を図るなかで藤山氏が重要視していることのひとつに「回転率」を挙げた。コンテンツの体験時間そのものだけではなく、人の入れ替えやオペレーションといった転換の時間まで正確に把握するのが基本だという。

  • 藤山晃太郎氏

 イラストや動画映像のように、一度にたくさんの人が体験できるものとは異なり、VRコンテンツは個人体験の世界という性質上、一回につきひとりしか楽しめない。たとえとしてUrban Coasterは体験時間が1分20秒、転換に1分40分で約3分の時間が必要であるとし、そうなると体験できるのは1時間で20人。これを踏まえて収益化を考えると、複数人で同時体験できるコンテンツが望ましいという。

 回転率を意識するならば、コンテンツの体験時間やオペレーション時の言葉についても気を配ることも必要だと藤山氏は説く。コンテンツ体験が3分で転換が2分だった場合、1時間で12人しか体験できない。そのため、より短い体験時間でも同じ魅力を出せるように、無駄なところがないか見直しを図ることによってコンテンツが洗練されていく。またオペレーションにも、体験するユーザーが意図しない動きがあった場合に言葉の見直しを図り、的確に動くようになったならば、無駄なセリフを減らして最短かつ適切な内容で説明することも大事と語る。こういった“コンテンツの最適化”“言葉の最適化”の重要性は、藤山氏が舞台に立つ人間だからこそ感じているところとも言える。

 回転率を上げるだけではなく、カスタマイズ性もあわせて重要だという。たとえばHashilusの場合、スタートとゴール地点のゲートは任意の画像データを反映できる仕様となっており、テレビ番組のタイトルロゴデータを入れるだけで、その番組専用のレースにカスタマイズすることができる。とがったコンテンツであるほど汎用(はんよう)性が低くなり改変するときに労力やコストがかかるもの。特別な労力をかけずに専用のようなコンテンツに見せることができるカスタマイズ性をもたせることによって、さまざまな場面で採用される機会が多くなり、結果として収益につながると説明する。

日本では“展示型”、海外は個人で長時間楽しむコンテンツという現状

  • 下田純也氏、

 VRにおける多人数体験型コンテンツについて、最近では「進撃の巨人展」にて披露された「360°体感シアター “哮”」や、ニコニコ超会議2015の「ロートデジアイ 初音ミクVR Special LIVE」などの事例が紹介され、藤山氏はただ単に多人数にしただけのものではなく、多人数ならではの魅力を出したコンテンツは売りやすいという。

 久保田氏は、日本ではアトラクションタイプなりイベントで短い時間で体験させるような“展示型”というべきもの普及しているとし、藤山氏のノウハウもこういった展示型の環境だからこそ生まれたものと推察。一方、下田氏は海外では個人で長時間体験して楽しむタイプのコンテンツが多く、日本の海外とのギャップができすぎることに危機感を覚えているという。もっとも、この意見に対して吉田氏は「心配してない」と一言。日本にVRコンテンツを作るのに必要な技術を持っているクリエイターなり企業はあり、市場が見え始めた段階で長時間体験型コンテンツの世界にも参入すると予測。プロとしてゲームを作っている人たちはさまざまなノウハウを蓄積しているため、取り組みだしたら早い段階でギャップを乗り越えられると楽観視しているという。

 吉田氏がひとつの事例で挙げたのは、カプコンがProject Morpheus向けに制作したホラーコンテンツ「KITCHEN」。E3 2015で展示した際、叫び声が常に聞かれたと振り返る。もともと研究していたのかはわからないとしながらも、取り組むと早い段階でいいコンテンツを生み出すと思ったという。

VRで現実に戻れない“廃人”は生まれるか

  • 久保田瞬氏

 黒川氏は、VRがエンターテインメント領域だけではなく、たとえば戦場の風景や難民キャンプを自分目でその場にいるような気持ちを経験することによって、見方や価値観が変わることもありうるとし、あらゆる可能性を秘めているとコメント。そのなかでも、VRをけん引するのはエンターテインメントであるとの見解を示す。その一方で、VRにハマりすぎて現実世界に戻れないという、俗に“廃人”と呼ばれるようなユーザーを生み出すことに懸念はないか登壇者に質問した。

 これについては藤山氏が、射幸心をあおるような仕組みやソーシャルにおける圧力など、ハマるための仕組みは別にあり、VRにおけるグラフィックのきれいさや、そこで得られる臨場感とは別物と主張。VRの没入感だけで廃人と言われるまでハマってしまうファクターにはならないのではと語る。自らネトゲ廃人だったと語った久保田氏は、何百人や何千人が同時接続してオンラインゲームのようなハマる要素がVRと結びついたときに、強い効果を発揮すると指摘。PCオンラインゲーム以上にハマる人が出てくる可能性も示唆した。もっともVRはまだまだこれからのものであり、未知なる課題も考えられるが、吉田氏が「ハマってしまう人が出るぐらい魅力的なコンテンツが出てきてほしい。心配するのはそれから」、黒川氏が「今ないものを心配しても仕方がない」と、新たなコンテンツの登場に期待を寄せていた。

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