林智彦の電子書籍days

書籍にまつわる都市伝説の真相--委託販売、再販制度は日本だけなのか(3) - (page 2)

林 智彦(朝日新聞社デジタル本部)2013年03月26日 10時15分

 考えてみてほしい。電子書籍の取引に「ホールセール・モデル」を選ぼうが、「エイジェンシー・モデル」を選ぼうが、電子書籍書店が実際にやることは、出版社からのファイルを、サーバ(コンテンツストレージと配信サーバなどの違いにここでは触れない)に置くだけである。

 「ホールセール(買い切り)」と言っても、紙の書籍のように、コンテンツが消費者に売れる前に、モノやカネが動くわけではない。「買い切れない」のだ。

 逆に「エージェンシー(委託)」と言っても、コンテンツデータが事前に書店のサーバにあることはホールセールと変わらない。注文を受けるたびに出版社から何かを送るわけではない。

 書店と出版社の間で、物理的なモノ(データ)の動きが生じるのは、出版社がコンテンツ販売を始めるとき(データを書店のサーバに登録する)とやめるとき(データを書店のサーバから削除する)、だけだろう。前述のように、これに関わるコストは極小である。

 カネの動きがあるのは、消費者がコンテンツを買ったり、返品したり、出版社と電子書籍書店、著者との間に送金があった場合だろう。この作業は紙の書籍と同じ面もあるが、電子書籍は電子商取引でもあるから、検品、売り掛け・買い掛けなどに関わるコストは、どのような契約形態をとろうとも、物理商取引に比べれば極小であることに変わりはない。

 電子書籍では、商取引の基本であるモノとカネの動きについて「ホールセール・モデル」と「エイジェンシー・モデル」とで、大きな違いはないはずなのだ。

 だとすれば、どういうことがいえるだろうか? 私は以下のように考える。

  • 紙の書籍の委託販売と電子書籍のエイジェンシー・モデルとを同一視することはできない
  • 紙の書籍の「買切(卸売)販売」と電子書籍の「ホールセール・モデル」も同一視できない
  • 従って両者をアナロジーで語るのは意味がない
  • 在庫・返本のない電子書籍と紙の書籍は一緒にできない

 エイジェンシーとホールセールの違いは最終価格決定権のありかただけである。だから前出(1話)の図は、本来なら、紙の本と電子書籍を分けて書くべきだったのだ。コンテンツ(本)の流れを加えて、試みに書きなおしてみたのが、次ページの図だ。

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