プレステの成功は音楽業界の手法とバーチャファイター--SCE創業メンバーが語る - (page 4)

文化として残すのであれば、苦しいけど作り続けてほしい

 「時代が良かった、結構好き勝手やらせてもらえた」(赤川氏)、「20世紀の時代は進歩と進化が叫ばれていて、作っているほうもそれを追い求めて実現化していった」(丸山氏)と語るように、ハードや制作面、そして業界のビジネスモデルの変革期という流れを上手くとらえて成功したプレイステーション。美しいグラフィックや映像によるゲーム体験にユーザーも心躍らせていた。しかし21世紀に入ってからは、例えば音楽を聞くときのデータはMP3、ゲームでは携帯でのソーシャルゲーム、あるいは車でも食べ物でも世の中の流れが「いいものや高級感よりも、簡単で便利なものにいっている」(丸山氏)とし、作り手が何を目指して作ったらいいか、分かりづらい時代になっていると指摘する。

 ここで黒川氏が登壇者に向けて、エンタテインメントの未来についてどう考えているかと質問を投げかけた。丸山氏は、かつてテレビが登場したときに、映画やラジオの危機が叫ばれたがしっかりと残っていることを例に挙げ、「知ってる限り、エンタテイメントにおいて何かが登場したから何かが廃れたというものはない。細分化して広がっているだけで消えていったものは無い」とし、ゲームにおいては、予算がないならないなりに考えてコンシューマゲームを作り続けていれば残ると語った。「儲からないから、と言ってしまってはおしまい。儲かるからやるというのは文化ではなく、続けることが文化」と言い切り、クリエイターに対して「文化として残すのであれば、苦しいかもしれないけど作り続けてほしい」とエールを贈った。

 藤澤氏は、例えば有名なクラシック曲がかつては宮廷音楽でポピュラーではなかったが、強く支持されたがゆえ時を越えて残っている例を挙げ、スピリットを持った物が残るという、いわば質の良さと本質を追求することが重要とした。「特にゲームは総合的に(映像や音楽などを)含むジャンルなので、上手くかみ合うとほかのメディアよりも強い何かを残せるかもしれない。それを追い求めることが大事だし、それを見ている若手に環境を作ってあげることも大事」。

 赤川氏は、ユーザーエンタテインメントに求めるものは驚きであり、エンタメビジネスは常に新しいことを考え続ける行為だとした。「ヒット作を真似すればユーザーが受ける刺激も落ち、目先の利益を追い求めても売り上げは絶対落ちてくる。今まで一度も体験したこともないことを見せられると、びっくりしてお金を払おうと思ってくれる。そこを信じていかないとダメ」。その例として、赤川氏自身が手がけたロールプレイングゲーム「アークザラッド」の制作時の楽曲エピソードについて触れた。当時のゲーム音楽は俗にいうピコピコ音と呼ばれるものだったが、CD-ROMで生音が入るということで、音楽業界出身だったことからここで驚きを与えたいと思い、テーマ曲をロイヤル・フィルハーモニーオーケストラを使って録音。作曲もフュージョンバンド「T-SQUARE」の安藤正容氏を起用して話題となった。「これはひとつの例ですけど、今にしてみたらたいした予算ではありませんでした。でも人をびっくりさせるヒントやチャンスは転がっていて、驚きを与えることを考え続けることが、この業界に関わる人の仕事だと思います。ここをこう課金すると儲かるといくら考えても、新しいエンタテインメントは生まれない」。

黒川文雄氏
黒川文雄氏

 黒川氏は「すごいサービスが出て打ち止めと思われても、数年後には革新的でもっとすごいものが生まれてくる、エンタテインメントはその繰り返しの歴史と」述べ、さらに、新しいアプローチのエンタテインメントは、新しい人が絶対に生み出してくれると希望を込めて語った

 イベント後の質疑応答の中で「当事者から見て、なぜプレイステーションはセガサターンに勝てて、任天堂の牙城を崩せたのか?」というストレートな質問が投げかけられた。赤川氏は、「一般的には」という前置きの上で「ファイナルファンタジー」シリーズの獲得を挙げ、坂口博信氏にプレイステーションと言うハードで作りたいと思わせた瞬間だとした。黒川氏もクリエイターを大事にして、作りたいと思わせる環境を整えてきた成果だとした。

 藤澤氏と丸山氏は、ビジネス的な面で見るとターニングポイントだったことは同意しつつ、「勝てると思ってなかったけど、負けるとも思ってなかった」と口を揃えた。藤澤氏は「勝てると思っていられるほど余裕はなかった。でも、止めとけと言われてもやりたいからやっていたし、気持ちの揺れはなかった」と語り、丸山氏はチップを100万個発注し百数十億円を動かしていたことに触れ「始めてしまったから、後に引くことはできなかった。売れ残ったら使えないチップとして残ってしまうので、何が何でもやらないといけなかった。僕の立場としては、それだけのことです」。また丸山氏は、海外のゲーム産業に負けてしまうのではないかという質問に対して「そう思ったら、そうなるだけだと思う。そんなこと思わないで頑張ってよと言うしかない。ユーザも周りの人たちも応援の声を上げるべきだと思う。精神論になるけど、『オレはゲームが好きだから負けない』と思うかどうか、強い気持ちがないと戦略なんて立てられない」と付け加えた。

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