ソーシャルとオープン価格で業界の変革目指す米国人ミュージシャン - (page 2)

岩本有平 (編集部)2012年06月07日 19時44分

 楽曲の販売にはミュージシャン向けの音楽配信サービス「bandcamp」を利用する。このサービスは、ミュージシャンが自らの音源をアップロードし、価格を設定するしてPayPal決済で販売できるサービスだ。価格は無料から固定額、投げ銭などさまざまな設定が可能。手数料は販売価格の15%となっており、アーティストが販売価格の85%を得ることができる。

 ネルソンさんは、メジャーデビューし、JASRACなどの管理団体が楽曲を管理するという既存の音楽ビジネスに疑問を呈する。「今の日本の音楽業界は米国の7、8年前の状況。音楽業界がNapsterに脅威を感じ、さらにYouTubeが入ってきた。だがそこから『YouTubeは敵ではない。宣伝してくれるならみんな歌ってください、と。そんな風にうまく利用して、収入に変えていこう』という発想になった。しかし日本ではまだまだ権利者は敵対視している」。だからこそ、著作権管理団体に縛られない新しい音楽のビジネスモデルを作るために、オンラインで曲を公開する。「僕らがやろうとしているのは、メジャーレーベルでなくてもやっていけるという新しい事例作り」(ネルソンさん)

 ネルソンさんが「最も手っ取り早い」と語るミュージシャンの収益手段は、YouTubeのパートナー制度だ。オリジナルコンテンツを配信するパートナーとなることで、広告収入を得ることができる。「今ではさまざまなツールが手軽に利用できるので、それなりのクオリティのプロモーションビデオ(PV)だって誰でも作れる。これでパートナーとして広告収入を得ていける」(ネルソンさん)

 彼らが重要視することに「オープンプライス」がある。値段を決めずにチケットや音源を販売し、その評価によってユーザーからお金を集めていくということだ。「お金のないファンは100円でもいい。応援するなら通常2000円のCDを4000円で買ってもいい。ライブもチャージをなくして、いわば『投げ銭』でやる。アーティストの仕事は本来、いい音楽をやること。しかし今では、ライブでは『人を呼べるかどうか』が課題になってしまっている。そのまま日本の音楽が終わってしまわないか怖い」(ネルソンさん)

 nothing ever lastsが利用するbandcampやSound Cloudは、日本ではまだまだなじみの薄いサービスだ。しかし海外には、ミュージシャンが自ら音楽ビジネスを行うためのサービスが少なくない。「最近始まったばかりの『Stageit』もそう。ライブを生中継して、途中でユーザーからチップを得られる。日本でもそういう文化を作れればいい」(ネルソンさん)。stageitでは、とあるアーティストが、ライブの3時間前に告知を行い、一晩で40万円の収入を得たケースもあったという。

ソーシャルメディアでファンとの関係を築く

 ネルソンさんはソーシャルメディアも積極的に利用している。前述のYouTubeでは、ライブや楽曲といったコンテンツを配信しており、Twitterでもライブなどの告知を行っている。だが最も重要視しているのはFacebookページの運用だという。

 「Facebookはファンと交流できるホームページの替わりになるもの。参加することに奥手な人も多いけど、『次のライブのセットリストをみんなで決めて』ということだってできる。ファンの言語や地域も分かるので、ターゲットを限定して接点を持つこともできる」(ネルソンさん)。ファンとのコミュニティ作りができるからこそ、オープンプライスでミュージシャンを助けるような仕組みが成立するという。

 「まだまだミュージシャンだけで食っていけるためには数年かかる」と語るネルソンさん。「メジャーレーベルに行くべき」という周囲の声も大きいが、本人は「変な使命感を感じているので、日本を愛してやまない米国人として、『(米国音楽業界の)こういうところを取り入れればいいんじゃないの?』ということを伝えたい」のだという。「儲かるより、業界にいい影響を残していきたい」(ネルソンさん)

 コンピュータサイエンスを学んでいたという彼らしく、取材の最後は米国発のウェブサービスの話題となった。「FacebookやInstagramもそうだけど、米国ではみんなお金がなくても面白いことを考えて実行する。するとそこに投資してくれる大人たちが増えてくる。そんな流れが日本でももっと一般的になればいい。そうしたら新しいものがいっぱい生まれてくる。新しいアイデアを評価したり、失敗を許容する文化を作ることの大切さはITでも音楽でも一緒だと思う」(ネルソンさん)


バンド活動だけでなく、「ever lasts production」という団体で絵描きや保育士などとともにさまざまな取り組みを行っていくという

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