このNaviCamでは、壁などに貼ったバーコードを認識することで、その場所に最適な情報を提供するほか、バーコードをジャイロセンサーと組み合わせることで位置をトラッキングし、モニター上に表示された通路の情報を表示するといったことを実現した。
また暦本氏は、複数のユーザーで仮想オブジェクトのグラフィックを共有する実験なども手掛けた。この実験では磁気センサーを使って位置情報のトラッキングをしていたが、「あまり精度が高くなく、トラッキングできる範囲も狭いものだった。スケーラビリティを考えると携帯電話などでは利用できなかった」(暦本氏)という。
そして1996年にマーカー型のAR技術「CyberCode」を開発する。CyberCodeは、2次元バーコードで作成したマーカーをカメラで認識することで、その方向や傾きを計算してコード上に仮想オブジェクトを表示するというもの。1998年には、ソニーのカメラ付きノートPC「VAIO C1」に搭載する形で商用化されたが、「あまりに時期尚早だった。また、ビジネスユースのノートPCと、ARのエンタメ的な目的と合致しなかった」(暦本氏)ということで、それほど注目が集まることはなかった。
しかしその後、ソニー・コンピュータエンタテインメントのチームとともに同技術のエンタテインメント事業への転用を研究。その結果生まれたのが、2007年に発売されたPLAYSTATION 3(PS3)向けゲーム「THE EYE OF JUDGMENT」だという。このゲームはカードをPS3用USBカメラ「PLAYSTATION Eye」で認識することで、カードに描かれたキャラクターを画面上に表示。キャラクター同士を戦わせるというものだ。
暦本氏はこのゲームについて、「コンシュマー向けに大規模展開した世界初のARエンタテインメントではないか」と説明。加えて、ハイスペックを求められるAR技術の画像処理について「かつてはバックエンドにワークステーションなどが必要だったが、今や家庭用ゲーム機やハンドヘルトPCのスペックでも問題なくなった」と語る。
すでに商用利用されはじめたマーカー型のAR技術。ではこれ以外にどのようなARの技術が研究されているのだろうか? 暦本氏はまず、可視光通信を例に挙げた。可視光通信はLEDが高速点滅することで、光をデータに変換するというものだ。これを利用して、ネオンサインに映像以外の情報を付加することが可能になるという。「(可視光通信であれば)遠距離であろうが、LEDが1ピクセルでも認識できればいい。インフラ面での課題はあるが、マーカーと異なる方法の1つとして注目している」(暦本氏)
また、実際の風景から特徴量を抽出することでどこの風景かを認識し、最適な情報を提供するというマーカーレスの技術も研究が進んでいる。しかし、世の中すべてのシーンの特徴量を集めることは、情報が膨大なため難しい。これに対しては、同氏が顧問を務めるクウジットが提供する、無線LANのアクセスポイント情報を元にした位置特定技術「PlaceEngine」を組み合わせることも検討できるという。なお、先日発表された頓智・(とんちどっと)の「セカイカメラ」のデモにおいても、PlaceEngineが採用されている。
暦本氏はARの現状について、「マーカー式はすでに枯れた技術。一般の人でも使えるようになっている。その一方でマーカーレス式は計算量や安定性、精度の面で発展中」と説明。さらにARが産業として成り立つためには、現実世界の映像に情報を重ねるシースルー型のAR以外にも可能性があるとした。「要素技術は実用的なレベルだが、インターフェースのアイデアは10年前と変わっていない。色んなプレーヤーが入ってくることで、ブレークスルーが生まれると思う」(暦本氏)
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