ネット発の経済価値を具現化せよ - (page 2)

成熟したコンテンツ市場が直面する課題

 デジタルコンテンツ白書の発刊記念セミナーが9月10日に秋葉原のデジタルハリウッド大学院で開催され、同白書の執筆者によるシンポジム(僕もその末席に加えていただいた)で「コンテンツ市場の成長率が0.3%というのは、日本がコンテンツ先進国であり、成熟した証ではないか」という発言があった。その通りだと思う。しかし、その現実を受け入れたとしても、産業として解くべき課題が2つある。

1. 全世界が日本以上の加速度で成長してきており、優位を誇れる時間は少ない
2. 成熟し、後退傾向が強まると、クリエーターに対する対価が行き渡らなくなる可能性がある

 1は、僕らが辿ってきた歴史的経緯の多くがモノ=設備/インフラを前提とした重厚長大な産業構造に依存してきたのに対し、日本を含む先進国だけではなく発展途上国などの多くがデジタル化という大きな波から得られるメリットを享受しているためだ。

 中国では、通常の加入電話網の整備よりも、携帯電話の普及のほうが先行していることがつとに知られ、アフリカや南アメリカなどでは、アナログ放送がない地域にも、デジタル放送が到達しつつある。そのため、現在有利と言われているハリウッド、あるいはクールジャパンコンテンツといわれているアニメやマンガも、ゲームのように急速にその地位を失う可能性が高い。そのため、急速に情報財としての性格に適した産業構造への変革が急務なのである。

 2は、1で述べた産業構造改革に関連したものだ。いったん成熟と言えば聞こえがいいが、実際には衰退のプロセスに入ったということを認識しなければならない。その現実に対して、製造業など異常に人への依存率の高いコンテンツ産業では、成長の主戦力である若い人材の流入が滞ることが大きな課題となる。

 しかし、これについては、発想の転換が必要かとも思う。なぜならこれまで通り、モノとしてコンテンツが流通した時代とは異なり、メディアの隘路というボトルネックが崩れることこそが、情報としてのコンテンツの時代の特徴だからだ。

これまでクリエーターへの還元率は低かった

 コンテンツはクリエーターが創りだすもの。しかし、コンテンツそのものの価値は、多くの人々の期待とは異なり、アートビジネスいやファインアートの世界ですら客観中立の立場で設定されるものではなく、その形態はともかく一種の市場によって確定される。そのため、いかに天才であっても市場へのパイプラインを持たない者は歴史に埋もれ、時折、未来で「再発見」されることを待つしかない。

 その市場が独占されていたり、構造的な流動性を持たないとしたら、どうなるのか。典型的に日本はその状態に陥っていたといっていい。金銭的というよりは、むしろ社会的な成功としてメディアやコンテンツ市場への参画が位置づけられた。そして、コンテンツなどに固有のリスクを、その構造の内部に閉じ込め、リスクをそのままクリエーターに転嫁する構造になっていた。

 そのため、メディア内部の評価基準でより良好なコンテンツを作り出すことがより高いインセンティブとなり、特定の領域のコンテンツの完成度、そしてそれを作り出す構造の練度は高まっていった。しかし、依然として、リスクそのものはメディアではなく、コンテンツを作り出すクリエータに帰属している。そう、リスクの存在を鑑みても、すでにこれまでクリエータへの還元率は低かったのだ。

 これを妥当な例かどうかはともかく、その製造物に占める対価の比率を比較的作者がわかりやすいという点で1次産品である農/海産物と比較してみよう。

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 もちろん、食料とコンテンツという性格が異なる商品を一概に比べることは難しいが、あくまで参考としてみてもらおう。また、次にモノとして発展した映画を参考に成長した放送を、これまた音楽や書籍のように印税という形で制作者へのロイヤリティが存在するものと比較して掲げてみよう。

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 放送などでは製作者は下請けとなり、番組著作権は放送局に属することになる。結果、DVD化などの売り上げのほとんどは放送局へ帰属する(広告主にしてみても「?」な状況ともいえるだろう)。ちなみに印税という仕組みは、別に税ではない。グロスプロフィットパーティシペーションと呼ばれる、全体売り上げから一定割合を著作者に還元するロイヤリティだ。成功報酬などではよくある、売り上げ規模に応じて変動する割合ではなく、通常は定率であり、ハードルレート(最低限クリアしなければならない率)が設けられている場合も多い。その透明性には問題があるといわれている。

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