「新しいゲーム開発の仕組みを作り上げる」--SignalTalkの挑戦 - (page 2)

インタビュー:西田隆一(編集部) 文:榊原大輔2006年09月28日 15時44分

--制作側が資金リスクを負わない点が魅力なんですね。

 別の利点もあります。資金調達を株式発行でするとします。手持ち資金をほとんど持たずに起業をした場合には、仮に投資を集められたとしても、社長の持ち株割合がほとんどなくなってしまいますよね。株式に投資をした人の意向を反映する義務が出てきますから、会社を経営していくにあたっていろいろな出資者の意見を聞かなくてはならず、自分のやりたかったことがぶれてしまったり、意思決定が遅くなったりする危険性がある。

 プロジェクトファイナンスは、会社の成功ではなくプロジェクトの成功に興味のある人に出資を求めます。SignalTalkの場合、いくら出資を集めても、株式は私が100%持ったままですから、思い切ったスピーディな判断ができます。これまでの例で言えばぐるなびとの事業提携があります。話があってから2週間で発表に至りました。もちろん、その際には出資してくださった人や企業に話を通して、意向を聞くのは大切なことですけれどもね。

--プロジェクトファイナンスに投資をした人は、プロジェクト運営に関して口を挟む権利はないということですか。

 商法上の匿名組合の仕組みを使っていますから、法的なことだけを言えば、プロジェクトファイナンスに投資をした人は議決権を持ちません。監査をする権利、配当を受け取る権利はもちろんあります。

 出資者は、アドバイスはできるけれど経営上の決定をする権利はない。この事は、会社経営上の意思決定をする際に重要な影響を及ぼすことがあります。例えば、SignalTalkはポータルサイトに対してゲームタイトルを提供する戦略を採っています。ここではタイトルを提供できるポータルサイトの数が増えれば増えるほど望ましい。しかし、会社の運営に決定権を持った大手資本が絡んでくると、その大手資本に関連する系列ポータルとしか契約できなくなってくる可能性も出てきますよね。プロジェクトファイナンスの仕組みではそういうことも避けられます。

--2002年に、当時は先があまり見えなかったオンラインゲームの制作プロジェクトへ出資を募ったわけですよね。資金集めは大変だったんじゃないですか。

 大変でした。創業当初、ゲーム制作に5000万円が必要だと考えていました。創業時の仕事はお金を集めること。これに1年かかってます。1年の間に800人くらいの人に会って出資をお願いしていきました。他社から仕事を受注してお金を稼ぐという選択肢もあったでしょうが、それでは自分たちのやりたいことを実現するために、またオンラインゲーム市場の初動をとらえて波に乗っていくために、遠回りになるだろうと思ったのです。

 このときは出資をいただくだけの信用を得るのに苦労しましたね。自己資金がない、実績がない、超有名クリエイターだというわけでもない。何もないところからのスタートです。当然のように断られる。それでも、次々に人に会い続けていく。

 そうすると、そのうちに人に紹介してもらえるようになったんです。「君のやりたいことは分かった。残念ながら自分が手伝うことはできないけれど、力になってくれそうな人なら紹介できるよ」と。

 紹介された時の信用力はとても大きいものです。話を聞いてくれなかった方が、他の人からの紹介を経由したら話を聞いてくれたということもありました。こうやって紹介されることを繰りかえし、積み重ねていったら、どんどん信用があがっていったんですね。人脈というのはつながってますから。

 そうこうしているうち、紹介元の人が強いつながりを持っている方にも紹介してもらえる機会がでてきました。例えば、一緒に創業をしたといったような間柄の人。この場合には、紹介先の人がはじめから受け入れる体制で話を聞いてくれるんですね。「あいつから紹介された奴なら、頼みを聞いてやろう」といった感じです。

 弊社の主力商品である「Maru-jan」に出資しているオプトさんやケイブさんも、最後にはそういう強いつながりを経由して紹介を受けたという経緯があります。結局、強い間柄の人へ紹介してもらうに足りる人材、会社でなければ出資してもらえないのだということを学びました。

--信頼を得るために取り組んだことは何かありますか。紹介されるには、それなりの実績などが必要になってきますよね。

 もちろん、紹介してもらうにはこちらもその信用に足る存在でなくてはならない。それには当たり前のことを当たり前にやるということが重要ですね。例えば、事業計画にアドバイスをもらったら、きちんと反映して変更したものを見せる。メールや連絡をもらったときの返事はきちんとする。会える機会をもらったら必ず会う。こうした細かいことが、後でつながっていくんです。

 また、仕事自体に高いクオリティを出すということも大切です。ゲーム制作で言えば、ゲームの面白さというクオリティはもちろん、バナーひとつ、文言ひとつ、ユーザーへの対応ひとつ、一切をないがしろにせず、高い品質を追求する。そういった品質管理面でのクオリティをキープする。これが会社の評判となり、出資につながっていったのだと思っています。

--プロジェクトファイナンスを導入して創業することを決め、出資者を募ったわけですが、もともとファイナンスの知識は持っていたのですか。

 ありませんでした。ただ、大学生のときに業務用システム開発をする小さな会社を作っていて、税務、開発、営業など、いろいろなことを自分でするという経験をしていたのです。ここで会社運営の全体を見る視点が身についていたんですね。物を作ることも大切なんだけれども、お金をコントロールする仕組みを考えることが大切だなと。もっと言えば、会社の仕組み自体を俯瞰して見るということが大切だなと思ったんです。セガ・エンタープライゼスでもSCEでも、その視点はずっと持って仕事をしていました。どういう仕組みでこの会社は動いているんだろうと。

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