時流に迎合しない投資と経営が成功の鍵 - (page 4)

永井美智子(編集部)、田中誠2006年09月07日 08時00分

上田谷:後藤さんはいろいろ細かいことをやりすぎると思っていたんですが、最後まで手放さなかったのがシステムに関することなんです。社長兼システム係長なんて言われていたりして(笑)。でも結果的にはそれが良かったんです。ケンコーコムのコアコンピタンスの一つは検索エンジン対策だったわけですよね。だから後藤さんには最低限、社長として顔にならなくてはいけないところには出てもらって、あとは他の役員に役割を分けていったんです。

後藤:ただ、鮫島さんにお金を出してもらって1年は大丈夫だろうと思っていたら、本当に1年でまた結構苦しい時期になったんですよね。ちょうど、損益分岐点に達した2002年の秋頃でした。

上田谷:「あるある大辞典」などのテレビ番組で紹介された商品が売れるというような勝ちパターンは見えていて、経営には楽観的だったんですが、資金的には厳しくなっていたんです。事業が上向くことはわかっていたのでIPO前の最後の追加出資を自分の所でしようとしていたのですが、いろいろ僕の会社の社内事情でごたごたがあって、個人的には嫌だったんですが、融資という形で資金を供出して乗り切ったんです。

後藤:2003年の春には返すということで融資をしてもらって、2003年の1〜2月は月商が1億円くらいになりました。で、3月に「シジュウム」のヒットがあって、月商が2億円になったんですよ。

勝屋:花粉症に効果があるというシジュウムですね。鮫島さんの会社から紹介されたものだったとお聞きしましたが。

鮫島:最初は「何だこれ」という感じだったんですが、人から頼まれたからしょうがないと思って紹介したら、それがテレビで取り上げられて大当たりしたんですよ。あの時期にはローズヒップもヒットしましたね。

後藤:両方ともテレビで紹介されて、検索エンジンのトップにはケンコーコムが来ていましたから、立て続けにヒットしたんですよね。実は2003年の2月までの見通しでは、2002年度は売上高が9億円くらいで数千万円の赤字になる予定だったんです。それが3月にシジュウムとローズヒップという神風が吹いて、売上高が10億円に乗って、通年の損益が黒字に転じたんです。

勝屋:すごいですね。まさに神風だ。

後藤:それまではまだBtoCのECに対してネガティブな論調が多かったんですが、ちょうど米Amazonが黒字転換したころで、ECも案外いいかもしれないと少しずつ言われ始めたんですよね。専業でECをやっている会社で、売上高が10億円あって、なおかつ黒字になっている会社は、当時の日本に5社あるかないかだろうと。であれば、これで株式公開(IPO)に持っていけるかもしれないねという話になったんです。それまでも少しずつ準備はしていたんですが、本格的に申請をしようと動き出しました。

鮫島:2月の時点では今期の決算での申請は見送ろうと言っていたんですが、3月に神風が吹いたので、これは行けるんじゃないかというモードになったんですよね。

上田谷氏と鮫島氏

勝屋:まさに激動の時代という感じですが、今振り返られて、おふたりのVCの参画は良かったですか?

後藤:良かったも何も、入ってもらえなかったら2000年の7月で倒産していたのはまず間違いないですから(笑)。仮にお金があっても自分が正しいと思ったことをやり通せなかった可能性は十分にありますね。

 つまり、BtoCのECが自分では行けると思っていても、やっぱり不安になることもありますよね。社内だけでは自分たちがやっていることを冷静に判断するのはなかなか難しいので、一歩外から見てもらって、これで行けるかどうかを一緒に考えてもらえたのはすごく助かりました。そういう意味でも上田谷さんと鮫島さんに入って頂いて、毎週ディスカッションしながら、今やっている方向で正しいんだという確信を持って進めていけたのは良かったと思います。

勝屋:なるほど。いい関係だったんですね。ちょっと観点を変えてお伺いしたいんですが、上田谷さんは最初にコンサルティング会社に入られて、その後VCや事業会社の役員を経て、今はリヴァンプという会社で仕事をされていますが、今後はどのようなことをやっていきたいと考えていますか?

上田谷:もう少し年齢を重ねたら、というか、成功したらと言ってもいいんですが、もう一度VCをやってみたいとは思っています。今は事業会社の経験をもっと積んでおこうという時期ですね。

 大前・ビジネス・ディベロップメンツを辞める時に、ケンコーコムで成功した実績を持ってもっと大きな投資をしようかと考えたこともありました。でも、ファンドが大きくなると、投資家の方を向いてそちらにエネルギーをかけることになると思うんですよね。それが正しい投資家のお金の預かり方だと思いますし・・・。

 でも、そうなると僕が一番楽しくて良い経験だった、会社側に同化して仕事するということがなかなかできなくなると思ったんです。それで僕は事業会社に行った方が楽しいだろうなと思いました。

 もうひとつ、自分で起業するという選択肢もありますが、これは頑固な商売人としての後藤さんを見ていて、起業家は簡単に真似できるものではないと思いました。起業は確かに憧れでもありますが、相当の情熱が湧いてこないと絶対に手を出してはいけないと思っています。起業するか、プロの経営者としての経験を積むために事業会社に行くかというところで、僕は事業会社の方へ進みました。ただ、どこかでまたベンチャーのインキュベーションとかはやってみたいと思いますね。

勝屋:そもそもVCの役割はどういうものだとお考えですか?

上田谷:やっぱりネットワークですね。足りないものを連れてくるというのは意味があると思いますし、そういうものを持っていないとあまり面白い仕事はできないんじゃないかと思います。

 もちろん、相手にもよると思います。ケンコーコムの場合は後藤さんも他の役員もマネージメントの知識が豊富だったので、そこでとやかく言う必要がなかったんですね。これが技術系や職人系に近い会社だったらそこもやらないといけないと思いますが、ケンコーコムのような経営チームがいるベンチャーならネットワークはとくに重要になると思います。

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