傷の治癒に関する新たな仕組みを解明 -- 毛細血管が皮膚の修復をコントロールする -- 昭和大学

昭和大学 2018年09月11日 14時05分
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昭和大学医学部生化学講座の宮崎拓郎講師、宮崎章教授を中心とする研究グループは、皮膚の創傷部で形成される毛細血管(新生血管)が積極的に創傷治癒をコントロールする仕組みを解明し、米国実験生物学会連合学術誌『The FASEB Journal』オンライン版に掲載されました。本研究成果は難治性潰瘍の治療や瘢痕形成の予防に応用できる可能性があります。




 創傷治癒の過程で組織が再生されると、これに応じて毛細血管網(新生血管)が形成されます。この新生血管は、酸素・栄養素の輸送、ならびに免疫細胞の運搬が主な機能と位置づけられてきましたが、本研究により新生血管が積極的に創傷治癒に参加することを明らかとしました。

 研究グループは、これまで細胞内タンパク分解酵素''カルパインファミリー''が血管の機能制御に重要な役割を持つことを報告してきました(関連文献1-3)。本研究では、マウスにおいて血管のみカルパイン活性を低下させた場合、通常のマウスと比べて創傷治癒のスピードが低下することを明らかとしました。創傷治癒の後期に肉芽組織が形成される際、皮膚の線維芽細胞が活性化し、コラーゲンなどを産生することで組織の修復を促しますが、上記マウスにおいてはコラーゲン産生の低下と活性化線維芽細胞の減少が認められました。これは、カルパイン活性の低下により、新生血管による線維芽細胞の活性化が起こらなくなったことが原因と考えられます(図1)。また、血小板由来増殖因子(米国では糖尿病性潰瘍治療薬レグラネクスとして認可)をマウス創傷に塗布したところ、通常のマウスでは創傷治癒の促進が見られますが、上記マウスではこの薬理活性が認められませんでした。これは新生血管のカルパイン活性低下に伴い、線維芽細胞において増殖因子に対する感受性が低下したことが一因と考えられます。

 創傷治癒が過剰になると傷跡が残ることが知られています(肥厚性瘢痕)。また、糖尿病などの疾患で創傷治癒が低下すると難治性潰瘍が形成されることがしばしば問題になります。したがって、カルパイン活性のコントロールや増殖因子の治療を組み合わせ、創傷治癒のスピードを調節すれば、上記症状の改善につながる可能性があります。

【発表論文名】
 Takuro Miyazaki, Shogo Haraguchi, Joo-ri Kim-Kaneyama, Akira Miyazaki. Endothelial calpain systems orchestrate myofibroblast differentiation during wound healing. FASEB J, [Epub ahead of print]
 邦題:「血管内皮カルパインシステムは創傷治癒における筋線維芽細胞の分化を主導する」宮崎 拓郎、原口 省吾、金山 朱里、宮崎 章
 doi: 10.1096/fj.201800588RR

【関連文献】
1. Miyazaki T, Tonami K, Hata S, Aiuchi T, Ohnishi K, Lei XF, Kim-Kaneyama JR, Takeya M, Itabe H, Sorimachi H, Kurihara H, Miyazaki A. Calpain-6 confers atherogenicity to macrophages by dysregulating pre-mRNA splicing. J Clin Invest. 2016;126:3417-3432.
2. Miyazaki T, Taketomi Y, Saito Y, Hosono T, Lei XF, Kim-Kaneyama JR, Arata S, Takahashi H, Murakami M, Miyazaki A. Calpastatin counteracts pathological angiogenesis by inhibiting suppressor of cytokine signaling 3 degradation in vascular endothelial cells. Circ Res. 2015;116:1170-1181.
3. Miyazaki T, Taketomi Y, Takimoto M, Lei XF, Arita S, Kim-Kaneyama JR, Arata S, Ohata H, Ota H, Murakami M, Miyazaki A. m-Calpain induction in vascular endothelial cells on human and mouse atheromas and its roles in VE-cadherin disorganization and atherosclerosis. Circulation. 2011;124:2522-2532.

【昭和大学医学部生化学講座HP】
 リンク

▼研究に関する問い合わせ先
 昭和大学医学部生化学講座 宮崎拓郎
 TEL:03-3784-8116
 E-mail:taku@pharm.showa-u.ac.jp
 
▼本件に関する問い合わせ先(本件リリース元)
 学校法人 昭和大学 総務課(広報担当)
 TEL:03-3784-8059

【リリース発信元】 大学プレスセンター リンク

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