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【イベントレポート】アクセンチュア、脳波計で演奏家の“頭の中”を見るコンサートを開催



アクセンチュア株式会社は、音楽演奏と脳波の関係性を解き明かし、人工知能(AI)が音楽の発展にもたらすインパクトを考察する、社員向けコンサートをオープンイノベーション拠点「アクセンチュア・デジタル・ハブ」で7月1日に開催しました。

同拠点を統括する保科学世は冒頭に、「技術の進展により、人間の演奏を機械が完璧に”再現”することが可能になってきています。ただ仮に完璧に再現できたとしても、それは、”人間の行う生演奏”と同一とは言えません。では、“人間が行う生演奏の意義”とは何でしょうか。本日は、“人間の演奏家は何を創造できるのか”を皆さんと考えてみたいと思います」と述べました。

音楽にはその場の雰囲気、演奏家同士のコミュニケーション、観客(聴衆)との間合いの取り方など、生演奏に影響する様々な要素があります。人が気持ちをこめて演奏するとき、その感情は音楽表現にも強く表れます。それらの要素が脳波にどう影響するかは興味深いものです。

「人工知能と音楽演奏~人工知能の演奏は、どこまで演奏家に迫れるか」と題したこのコンサートでは、まず、4名のクラシック音楽演奏家の頭部に脳波測定器を取り付け、脳波をリアルタイムに検出しながら演奏してもらいました。参加者はモニターに表示される脳波データを見つめながら、演奏に耳を傾けていました。

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演奏中の様子

●演奏曲
・ドヴォルザーク作曲《弦楽四重奏曲 第12番「アメリカ」》より 第1楽章
・ボロディン作曲《弦楽四重奏曲 第2番 ニ長調》より 第3楽章「ノクターン」
・ブラームス作曲《弦楽四重奏曲 第3番 変ロ長調 作品67》より 第3楽章
・ブリッジ作曲《弦楽四重奏曲「アイリッシュ・メロディ」》

●出演した演奏家

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左から:大山平一郎さん(ヴィオラ)、千葉清加さん(ヴァイオリン)、辻本玲さん(チェロ)、土岐祐奈さん(ヴァイオリン)
企画協力 一般社団法人 Music Dialogue: リンク

脳波からわかる音楽家の「集中度・瞑想度」と創造性

●演奏中の「頭の中」が脳波でわかる
演奏後、アクセンチュア インタラクティブの佐藤守が司会となり、音楽家と保科によるトークセッションが行われました。

保科がまず挙げたのは、ブラームスの弦楽四重奏曲第3番の第3楽章を演奏した際の大山平一郎さんの脳波でした。この楽曲(楽章)の“主役”ともいえるヴィオラパートを演奏する大山さんの脳波について「他の方と比べても、非常に特徴的な脳波でした。曲の演奏開始時点ですでに瞑想状態。特徴的なアルファ波が始めから出ていて、演奏中も維持されていました。非常にクリエイティブな脳の状態ですね」と保科が解説すると、大山さんは「年の功でしょう」と笑いを誘いつつ、「この曲は『ヴィオラが音楽を創れないならば、演奏しないほうがよい』と言われている曲です。自分が全体をリードしていたので、ある意味”没入”して演奏に集中していたことが、このような脳波になった理由かもしれません」と説明しました。

特定のアルファ波は加齢とともに出にくくなるとも言われていますが、大山さんはアルファ波を多く放出していて、「瞑想」と「集中」が非常に高い状態にありました。保科はこれを、「良い音楽を聴き続けることや演奏活動を継続することは脳にとても良い影響を与えるのでしょう」と説明しました。

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大山さんの脳波データ。終始高いMEDITATION(瞑想)状態を維持していた

●演奏パートごとの役割の違いも脳波に表れる
1曲目と4曲目で脳波測定器を装着したヴァイオリニストの土岐祐奈さんが担当した第2ヴァイオリンは、メロディ担当の第1ヴァイオリンや低音担当のチェロの間で、ヴィオラと共にハーモニーを構成したり、他の演奏者とアンサンブルしたりする役割です。大山さんは「他の演奏者としっかり噛み合う演奏をしなければいけません。全員の演奏の状態を10分の1秒以内に把握し、自分がどう演奏すべきかを瞬時に判断し続けることの連続です。とても神経を使う緻密な仕事を担当しています」と説明しました。

このように、自らがメロディを演奏する場面で演奏者はリラックスし、他の演奏者の伴奏に回る場面では瞬間的な判断を繰り返していることが脳波からもわかりました。

「アンサンブルの場合は全員の脳波を同時に取ると、さらに面白いことがわかりそうですね」と保科が問うと、演奏者からは「自分は投げかけているつもりでも、共演者が受け取っていないことがバレてしまいますね」と笑いが出る一幕も。音楽の盛り上がりに合わせて脳波も大きくなるなど、演奏者の感情(心的状態)と音楽表現(アウトプット)には相関があることが脳波からも確認できました。

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土岐さんの脳波データ。演奏の同期を取るタイミングで高い「ATTENTION(集中)」を示していた

AI搭載のロボット演奏家は観客を感動させるか?

●機械学習で学んだロボット演奏家は人を超える?
近年、産業の分野では、それまで人間が担当していた仕事を人工知能が肩代わりし、人件費の削減や生産性の向上を実現しています。「一方で、これから我々人間は、ますますクリエイティブな領域での活動に注力したり、より“人間らしさ”とは何かを求めたりすることになるでしょう」と保科と佐藤がAIをめぐる状況を解説しました。

「名演と呼ばれるような素晴らしい演奏の記録データをロボットにプログラミングし、完璧に再現することは可能でしょう。しかし音楽はどんどん発展していきます。作曲家は斬新な試みをし、演奏家は新しい表現を模索しています。そうした『発展』の部分については、『発展・創造のためのプログラム』が誕生しない限りは実現しないのではないでしょうか」と大山さんが意見を述べると、保科も「おっしゃる通りです。機械に“○○さん風の演奏”を教えることはできますが、『それを超える演奏』はまだ生まれないのが現状です」と肯定しました。

一方、近年の機械学習や深層学習の手法を用い、「観客の表情・脳波・満足状態などを分析するシステムが登場した場合、そうした『観客からのフィードバック』をリアルタイムに演奏に反映できるAI音楽家が登場する可能性はあります」と保科は掘り下げました。つまり、観客の好む、満足度の高い演奏をAIが自ら模索し、既存の演奏モデルを改変しながら高めていく未来像です。

演奏家からは「たしかにそれは聴衆が望む演奏かもしれませんが、作曲者が意図した表現がなされるかどうかは別問題でしょう」、「フィードバックによって新しい演奏が生まれる点は期待できますが、演奏家は伝統を引き継ぎつつ、次世代へ受け渡すことも使命です。新しい解釈を生み出すことも演奏家の役割ですし、そうした点までAIが担当できるかどうかは、まだ想像できません」といった意見が交わされました。

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トークセッションの様子

●寿命を持たないロボットは「死への恐怖」を表現できるか
保科からは「データが残ることは『積み重ね』になります。AIやロボット演奏家の試みや、観客のフィードバックをデジタルデータとして保存することは、人間の演奏家にとっても、意義のある蓄積になるのではないでしょうか」とその意義が説明されました。

辻本さんからは「僕たち人間は『死』を意識します。その死への恐怖や終わりへの意識が芸術家の創造性の源泉となっていることもあります。AIに『あと10年で電源を切りますよ』と教えたらどうなりますか? 恐怖を感じるのでしょうか。その恐怖感が演奏へとフィードバックされる可能性もありますか?」と鋭い指摘がありました。

「興味深い点です」と保科は話し、「ロボットに『痛み』を教え、より人間に近づける研究も実際にあります。『興味を持たせる』と学習効率が高まるという研究もあります。ロボットを究極的に人間に近づけるには、「死」を理解させることは必須でしょうし、ひょっとすると人間のような演奏をロボットが行う鍵がそこにあるのかもしれません」と補足しました。

「最新のAI+音楽」事例を演奏家はどう見るか

●事例1「AIと人間によるアンサンブル」
続いて、「最新のAI研究の成果を、現役演奏家はどう評価するか」というテーマに議論が及びました。
「昨今、人間の演奏家と共演するAIシステムが出てきています。素人目にはアンサンブルが成立していてすごい技術だと感じますが、プロはどう捉えていますか?」と保科が問うと、「まだ息使いや感情までを含めて『共演』できているとは思えず、周りの演奏者が『演奏を合わせている』ように思います」(大山さん)と評価。

「私たちが演奏する中で『掛け合い』になる部分は、共演相手の出力(演奏)を聴きながら自分がどう合わせるべきかを考えながら演奏しますが、AIはまだその域には達していないように感じます。むしろ指揮者をAI搭載ロボットにするほうが興味深いですね。オーケストラは指揮者に従うしかありませんので、ロボット指揮者がオーケストラをどう操るのか、いい音楽が生まれるのかどうか、そのほうが興味深いです」(大山さん)。

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左から、土岐祐奈さん、アクセンチュア佐藤守、アクセンチュア保科学世

●事例2「機械学習によって作曲技法を学んだAIによる作曲補助」
ここで、保科は機械学習とニューラルネットワークを駆使して作曲を補助する『AI作曲』の事例を提示しました。これはメロディを機械学習したシステムに、人間が任意のメロディの断片を与えると、それを補完してメロディを完成させてくれるというもの。最新の機械学習の成果でもあり、「人間のアイデアの閃き」の再現にまで踏み込んでいる野心的な事例です。

大山さんは「膨大な『パターン』を学習して、そこから適切な解答を提案するという点では将棋のシステムに似ていますね。最近、プロ棋士・藤井聡太さんのインタビューを見ていて、彼が学校で苦手な科目について質問されていたのですが、『音楽と美術』と答えていました。その理由は『1つの正解がないので戸惑います』と、これはAIにも言えることではないかな」とコメント。膨大なパターンを学習して、適切な解答を提案するという点で、モーツァルトのアイデアによって、1792年にこの仕組みのアナログ版ともいえるシステムが考案されていました。

「Musikalisches Würfelspiel(音楽サイコロゲーム)といい、サイコロを振って出た目に合わせて用意された楽譜の断片を組み合わせていくと、最後に1曲のワルツが完成するというものです」(大山さん)。その組み合わせは11の16乗(約46京)パターンあり、機械学習が『既存の音楽をサンプルとしている』という点でこのゲームと共通しています。生み出されたメロディが真に創造的なものかどうか、という点ではまだ疑問があると大山さんは指摘しました。

音楽の創造には特定の解法がありません。無限の可能性がある中で、作曲家は前例のない、真に新しい音楽の「表現」を探し求めています。AIがその「表現」の領域に達することができるかどうかは、まだまだ研究の余地がありそうです。

「芸術」こそが人間に残された仕事?
AIが「感情」を獲得し、音楽のような「表現」「創造」を実現できるのかどうか、各所で盛んに議論や研究が重ねられています。今回のイベントでは、“生身”の演奏家と共に、人工知能が音楽表現のフィールドにどれほどのインパクトを与えるのかについて、脳波をフックに探ってきました。

「大切なことはエクスペリエンス(体験)です。人間がAIやロボットとどのように協調し、新たな体験を生み出していくのかという点がこれからのテーマです」と佐藤は話し、「デジタルとアナログの融合」が芸術の分野に及ぼす影響をこれからも注目していきたいと強調しました。

大山さんは締めくくりとして、「音楽は人類が誕生したときから存在しました。昨今では、TVゲームの音楽のような『電子楽器で作られた、電子の世界のための音楽』をオーケストラで生演奏するといったコンサートも人気を博しています。デジタルで作られた音楽も、生演奏で聴くとまた違う感動が得られることを人間は知っているのです。人間は、人間が演奏した音楽に興味を持つ生き物なのでしょう」と音楽業界の最新事情も語ってくれました。

AIと人間が“共鳴”しながら発展していくであろう今後の音楽の世界から目が、いや、“耳が”離せません。

プレスリリース提供:PR TIMES リンク

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