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帝京大学理工学部らの研究グループが「接ぎ木癒着に関わる植物ホルモンの作用機構」を解明

帝京大学 2016年12月22日 08時05分
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帝京大学理工学部バイオサイエンス学科の朝比奈雅志講師、松岡啓太博士研究員、筑波大学生命環境系の佐藤忍教授、名古屋大学の森田(寺尾)美代教授らの研究グループは、植物の接ぎ木で起こる組織間の再接着に働く植物ホルモンの仕組みの一端を明らかにした。この成果は日本植物生理学会が発行するOxford Journalsの科学雑誌Plant and Cell Physiology(プラント アンド セルフィジオロジー)誌2016年12月号に掲載されるのに先立ち、電子版(日本時間12月16日)で紹介された。


■ポイント
 接ぎ木における穂木と台木間の癒着には、組織ごとに異なる仕組みが存在する。
1. 維管束組織ではオーキシン誘導性のNAC型転写因子が細胞の分裂を促進する。
2. 皮層細胞ではオーキシンにより作られたジベレリンが細胞の成長を促進する。

■概要
 接ぎ木の癒着は穂木と台木の間を新たに分裂した細胞が埋めることで行われ、この細胞分裂には植物ホルモンのオーキシンが必要であることが知られている。しかしながら、接ぎ木過程におけるオーキシンを介した細胞分裂の促進の仕組みは明らかにされていなかった。
 今回、共同研究グループはモデル植物であるシロイヌナズナの芽生えを用いて、オーキシンによって誘導される2つのNAC型(NAM, ATAF and CUC)転写因子が冗長的に働いて、胚軸間接ぎ木における維管束組織の細胞分裂を促進することを明らかにした。また、オーキシンが植物ホルモンのジベレリンの合成を促すことで、支持組織である皮層の細胞成長に関わることも判明した。
 この研究成果は植物の傷害回復・組織再生の基礎的な分子メカニズムの解明に繋がるだけでなく、NAC型転写因子を制御することで接ぎ木の困難な植物種においても接ぎ木の実現が期待される。

■研究の背景
 接ぎ木は「穂木(芽や葉)」と「台木(根)」を繋ぎあわせて一つの個体とする技術である。農業や花卉園芸の分野で病害抵抗性の獲得、品質・収量の向上、品種の維持のために使用されており、古くは紀元前の中国やギリシャで行われていたという記述も残っている。
 接ぎ木は次のような過程を経て穂木と台木間の癒着が完了すると考えられている。
(1)切断面から粘着性物質を分泌し、弱い接着が生じる。
(2)穂木と台木の両方で細胞分裂が起こり、穂木-台木間の隙間を埋める。
(3)分裂した細胞が師管・導管へと再分化する。
 この細胞分裂の開始や再分化には植物ホルモンのオーキシンやサイトカイニンが関与していると考えられてきたが、どのように働いているのかはわかっていなかった。
 接ぎ木は植物自身がもっている傷を修復する機能を利用している。これまでに研究グループは茎の傷の修復機構を明らかにするために、トマトやシロイヌナズナを研究材料として研究を進めてきた。その結果、傷の修復に関わる植物ホルモンはトマトの胚軸ではジベレリン、シロイヌナズナの花茎ではオーキシンが必要であるという異なる結果が得られていた。また、シロイヌナズナの研究からANAC071というNAC型転写因子が傷の修復に必要であることが分かってきたが、その機能については十分に分かっていなかった。

■研究の内容
 本研究ではシロイヌナズナの胚軸における傷の修復を明らかにするために、実態顕微鏡下で微小なシロイヌナズナの芽生えの胚軸間で接ぎ木した(図1A)。接ぎ木部は共焦点レーザー顕微鏡を使用することで、細胞の様子を詳細に観察することができるようになった。7日後における接ぎ木部は維管束組織が細胞分裂により肥大し、肥大した維管束組織を包むように皮層の細胞が成長を起こしていた(図1B)。
 接ぎ木過程における植物ホルモンの作用を調べるために、植物ホルモンの阻害剤の投与を行った。ジベレリン阻害剤は皮層細胞の成長だけを抑制したのに対して、オーキシン阻害剤は皮層細胞の成長と維管束組織の分裂の抑制が見られた。このオーキシン阻害剤はジベレリン生合成遺伝子の発現も減少させた。このことから、ジベレリンはオーキシンによって生合成が誘導され、皮層細胞の成長を促進していることがわかった(図1C)。
 傷の修復に関わる遺伝子のANAC071にはアミノ酸配列の類似するANAC096という遺伝子があり、両方ともに接ぎ木部での発現の誘導が起こったが、オーキシン阻害剤は発現誘導を抑制した。ANAC071とANAC096両方ともに失った欠損株においては維管束組織の細胞分裂の抑制が観察された。以上のことから、接ぎ木過程におけるオーキシンによる維管束組織の細胞分裂の促進にはANAC071、ANAC096という転写因子が関与していることを明らかにした(図1C)。このように、接ぎ木過程における植物ホルモンの役割は組織によって異なっている可能性を示している。

■今後の期待
 接ぎ木過程において、ANAC071、ANAC096がどのように維管束組織の細胞分裂を促進しているのかを調べることが、接ぎ木の癒着における分子メカニズムの解明に必要である。接ぎ木する植物でANAC071、ANAC096を制御することにより、さまざまな種の組み合わせで接ぎ木を実現することが期待される。また、接ぎ木に適した新品種の開発や、接ぎ木活着や親和性を高める植物成長調整剤等の開発に繋がる可能性がある。

■発表論文
論文著者:Keita Matsuoka, Eri Sugawara, Ryo Aoki, Kazuki Takuma, Miyo Terao-Morita, Shinobu Satoh, Masashi Asahina
論文題名:Differential Cellular Control by Cotyledon-Derived Phytohormones Involved in Graft Reunion of Arabidopsis Hypocotyls
雑誌名:Plant Cell and Physiology
doi:10.1093/pcp/pcw177

■備考
 本研究によって得られた画像がPlant and Cell Physiology誌2016年12月号のカバーイメージに採用された。

■研究助成
 本研究は、私立大学戦略的研究基盤形成支援事業(S1311014)、および科学研究費補助金(若手B;26840098)の支援を受けて行われた。

■用語解説
シロイヌナズナ; 双子葉植物(アブラナ科)の一年草であり、植物の研究に使用される。
接ぎ木; 切り取った芽を他個体に移植し、新たな個体を作製する手法。
転写因子; DNAに結合することで、遺伝子の発現を制御する役割を持つ。
植物ホルモン; 植物自身が合成し、植物内でさまざまな情報の伝達を担っている化合物。

▼本件に関する問い合わせ先
 〒320-8551 栃木県宇都宮市豊郷台1-1
 帝京大学 バイオサイエンス学科
 講師:朝比奈 雅志
 Tel: 028-627-7182
 Fax: 028-627-7187
 E-mail: asahina@nasu.bio.teikyo-u.ac.jp

▼取材に関する窓口
 帝京大学宇都宮キャンパス 総務グループ庶務チーム
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