単一分子も検出できる!高光度マルチカラー化学発光タンパク質を開発 --複数の生命現象を高感度計測する新技術--大阪大学

大阪大学 2016年12月15日 08時05分
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生命科学・医学系分野のタンパク質工学、イメージング、バイオセンサーに関する、大阪大学産業科学研究所の永井健治教授らの研究成果。(大阪大学の最新の研究情報はこちら: リンク


【研究成果のポイント】
■本研究グループが以前開発したものよりも2倍から10倍明るく光る5色の化学発光タンパク質の開発に成功
■生命現象を忠実かつ多面的に計測するには化学発光タンパク質の高光度化、発光色の拡張が不可欠
■化学発光で細胞内の5つの構造体を同時観察することができ、タンパク質ネットワークの解明などに期待
■単一タンパク質分子を化学発光で検出することに世界で初めて成功、微量・微小なタンパク質の観察に期待

【概要】
 大阪大学産業科学研究所の永井健治教授らの研究グループは、2012、2015年に開発した化学発光タンパク質Nano-lantern(ナノ・ランタン※1)を改良して、明るさを2倍から10倍向上させた5色の化学発光タンパク質の開発に成功した。
 今回、酵素活性の高い化学発光タンパク質と5種類の異なる蛍光タンパク質をハイブリッド化することにより、従来のものより2倍から10倍明るく、水色、緑色、黄緑色、橙色、赤色に発光するタンパク質enhanced Nano-lantern (増強型ナノ・ランタン)を開発した(図1)。5色の増強型ナノ・ランタンが完成したことにより、細胞内の5つの微細な構造を同時に計測することに成功した(図2右)。また、増強型ナノ・ランタンを用いることで、1個単位のタンパク質分子の結合・解離を化学発光で検出することに世界で初めて成功した(図2左)。
 これまで、このような計測は蛍光タンパク質を用いて真夏の日光の何倍もの強度の光を照射しながら行われており、自家蛍光※2や光毒性※3の影響が問題になっていた。増強型ナノ・ランタンは、外部からの励起光を必要としないため、自家蛍光や光毒性の影響を全く受けない。さらに、増強型ナノ・ランタンを改変して細胞内カルシウムイオンを検出できる化学発光型センサーも開発し、iPS細胞由来の心筋細胞で60枚/秒という高速度で長時間にわたってイメージングすることにより、忠実なカルシウムイオン動態の計測にも成功した。これら化学発光型センサーは、細胞をより生理的な状態で実時間計測することを可能にし、生命科学研究のみならず、医学・薬理学研究に大きな貢献が期待される。
 本研究成果は、「Nature Communications」(オンライン)に、2016年12月14日(水)19時(日本時間)に公開された。

【研究の背景】
 下村脩博士らのノーベル化学賞受賞で知られる蛍光タンパク質の普及に伴い、生物を生きたまま可視化するライブイメージング技術が著しい発展を遂げている。しかしながら、ライブイメージングの測定対象の多くは細胞内に微量しか存在しないため、自家蛍光がそのシグナルを覆い隠してしまい、蛍光観察が困難になることがある。
 また、高速な生命現象を計測するために、真夏の日光の何倍もの強度の光を照射する必要があり、細胞の生理状態を大きく攪乱する恐れがある。一方、化学(生物)発光はルシフェラーゼ※4と呼ばれる酵素タンパク質(化学発光タンパク質)による発光物質ルシフェリン※4の酸化触媒反応により、発光する現象であり、励起光照射を一切必要としない。従って、化学発光タンパク質は、蛍光タンパク質が抱える問題点を克服し、次世代のイメージング技術として有望である。しかしながら、これまで発光光度が高く多彩な色変異体を有する化学発光タンパク質が報告されていなかったため、複数の生命現象やタンパク質動態の同時イメージングを行うことは困難であった。
 そこで、2012、2015年に永井教授らは明るく光る黄緑色、水色、橙色の化学発光タンパク質ナノ・ランタンの開発に成功した。しかし、生命現象をより忠実かつ多面的に計測するためには、ナノ・ランタンの更なる高光度化、発光色の拡張が課題として残っていた。

【本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)】
 本研究成果により、生理的な条件下で複数の微量タンパク質の動態を同時観察することで、タンパク質ネットワークの解明に貢献すると期待される。また、高光度かつ組織透過性に優れた増強型ナノ・ランタンの赤色変異体は、体の深部にあるシグナルを体外から感度良く観察することができる。従って、がん幹細胞※5などの体外からの観察が可能になるため、多くの疾病の原因究明やより効果的な創薬スクリーニングが期待される。

【特記事項】
 本研究成果は、2016年12月14日(水)19時(日本時間)に「Nature Communications」(オンライン)に掲載される。
タイトル:“Five color variants of bright luminescent protein for real-time multicolor bioimaging”
著者名:Kazushi Suzuki, Taichi Kimura, Hajime Shinoda, Guirong Bai, Matthew J. Daniels, Yoshiyuki Arai, Masahiro Nakano and Takeharu Nagai

 なお、本研究は、JST 研究成果展開事業 先端計測分析技術・機器開発プログラム、文部科学省科学研究費補助金新学術領域研究「少数性生物学」、JSPS 研究拠点形成事業(A.先端拠点形成型)の一環として行われた。

【用語説明】
※1 ナノ・ランタン
今回発表する高光度化学発光タンパク質の総称。タンパク質の大きさはナノ・メートル(100万分の一ミリ・メートル)程度であることから、ナノ・メートル程度の大きさの提灯という意味でナノ・ランタンと名付けられた。

※2 自家蛍光
蛍光顕微鏡観察では、通常、蛍光色素あるいは蛍光タンパク質を細胞に導入して、その蛍光を観察する。これ以外に、細胞内外の生物学的構造も、ある程度の蛍光を発する。これを自家蛍光と呼ぶ。傷んだ細胞など一部の細胞や細胞内構造は強い自家蛍光を発することが知られており、蛍光シグナル検出の妨げとなる。

※3 光毒性
強力な光を細胞に照射すると、細胞内で活性酸素などが発生し細胞が傷害される。これを光毒性と呼んでいる。

※4 ルシフェラーゼ、ルシフェリン
化学(生物)発光では、酵素タンパク質が発光物質の化学反応を促進し、その化学反応のエネルギーが光へと変換される。このときの発光物質の総称がルシフェリンで、酵素タンパク質の総称がルシフェラーゼである。従って、ルシフェリン、ルシフェラーゼの実体は、生物種によって異なっている。

※5 がん幹細胞
がんは不均一な細胞集団で、そのなかにごくわずかのがん幹細胞が存在し、この細胞だけが自己複製能や未分化能を有してがんを形成することができるという考え方が実証されつつある。がん幹細胞はがんの発生だけでなく再発・転移・治療抵抗性等、がんの様々な“悪い”側面の主要因となっていることが分かっている。

▼本件に関する問い合わせ先
〈研究に関すること〉
 大阪大学 産業科学研究所
 生体分子機能科学研究分野 教授 
 永井 健治(ながい たけはる)
 TEL: 06-6879-8480
 E-mail: ng1@sanken.osaka-u.ac.jp

〈プレスリリース・記者発表に関すること〉
 大阪大学 産業科学研究所 広報室
 TEL: 06-6879-8524
 FAX: 06-6879-8524
 E-mail: isir-kouhou@sanken.osaka-u.ac.jp

【リリース発信元】 大学プレスセンター リンク

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