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神田外語大学「洋学文庫」から蘭書『諸術秘蔵』7冊を発見 -- 11月16日に特別講演会・展示会を開催

神田外語大学 2016年11月10日 08時05分
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神田外語大学(千葉市美浜区/学長:酒井邦弥)の「洋学文庫」から、『諸術秘蔵』7冊が見つかった。これは、蘭学者・前野良沢(まえのりょうたく)が『火浣布』(石綿、アスベスト)の翻訳に使用した原書と推定されるオランダ語原典で、エレキテルとともに、江戸時代に「火浣布」ブームを引き起こした。今回の発見を機に、同大の附属研究機関「日本研究所」は、11月16日(水)に特別講演会「洋学文庫にみる日本文化」を開催する。


 神田外語大学にある「洋学文庫」で調査を行っている、神田外語大学日本研究所の松田清客員教授は、今回の発見を報告書にまとめた。

 「火浣布」とは漢名で「火で洗うことのできる布」を意味し、アスベスト(石綿)のことである。江戸時代には漢籍に「火浣布は香を焚く際の隔火(かくか)に用いるが、中国に産出せず入手困難」と記載されていることが知られ、日本でも香道の指南書に紹介されていた。隔火は日本の香道で香敷(こうしき)または銀葉(ぎんよう)と呼ばれ、普通、雲母(うんも)片を用いる。
 1764年に博物学者の平賀源内と中川淳庵が秩父山中で発見したという「火浣布」で香敷を作ることに成功。源内は青木昆陽に頼んで、この年江戸に来たオランダ商館長ヤン・クランス一行に見せたり、長崎の中国商人への販売を試みたりして、その経緯を述べた『火浣布略説』(1765)を刊行し、火浣布ブームを引き起こした。最初の蘭学通俗書、後藤梨春の『紅毛談(おらんだばなし)』(1765)もエレキテルとともに、火浣布を取り上げた。しかし、源内はオランダ語ができず、オランダ通詞から火浣布のラテン語名(アスベストス、アミアントス)とオランダ語名(ステインフラス、アールドフラス)、記載のある蘭書、ウォイトの『医薬事典』の原書名を聞き出しただけであった。

 「火浣布」発見から10年後、前野良沢(1723-1803)を指導者とする医師グループが『解体新書』(1774)を翻訳し、蘭方医の杉田玄白が出版した。これを契機に江戸で蘭学が勃興すると、良沢、桂川甫周、森島中良、大槻玄沢、宇田川玄随、徳川頼徳(よりやす)ら蘭学グループは、西洋医学だけでなく博物学、地理歴史、天文測量の研究にも取り組んだ。紀州徳川家の九男頼徳はエレキテルをはじめ、幅広い関心の持ち主だった。当時、入手困難な珍品として評判となっていた「火浣布」も彼ら蘭学グループの探求心の対象となった。
 中でもオランダ語読解力が抜群でラテン語やフランス語も研究した良沢は、ウォイトのほかに『ボイス百科事典』と『諸術秘蔵』のアスベスト記事をもとに、オランダ語の原文から漢訳『火浣布』(1783年頃か)を著した。原書によってアスベストの薬効も詳しく紹介し、『諸術秘蔵』の銅版アスベスト図を訳稿の挿絵に用いた。この成果はグループ共有の知識となった。
 『諸術秘蔵』(1719~1723、全9冊)はアムステルダムの医師ウィレム・ファン・ラーナウが古代ギリシャ・ローマ時代から18世紀初めまでの西洋博物書の内容を分かりやすく紹介した啓蒙書だった。大槻玄沢や司馬江漢は本書を原タイトルによって『コンスト・カビネット』と呼んでいた。

 良沢が同時に翻訳に利用した、ウォイトの『医薬事典』と『ボイス百科事典』は江戸時代に舶載された原本がいくつか伝わっているが、ラーナウの『諸術秘蔵』はこれまで伝来本が知られず、今回はじめて発見された。

 松田清客員教授は、1778年に死亡した商館長デュールコープの蔵書売り立て目録によって、ラーナウの原書を次の商館長フェイトが1778年10月12日に購入した事実をつきとめ、良沢が使用した原書はフェイトが1779年4月か1781年3月に江戸にもたらしたものと推定している。
 日本人の旧蔵者は江戸に来たフェイトと火浣布を見せ合うなど、親しく交流した幕府医官で蘭学者の桂川甫周も考えられる。甫周は良沢の門人で、オランダ語によく通じていた。しかし、原書を収めた木箱の蓋に貼られた二重のラベルから、分類記号と思われる漢字「日」を墨書したラベルが出現し、蘭癖大名などに特徴的な収納方法であるところから、松田客員教授は良沢の門人でパトロンでもあった、凰翔公子(ほうしょうこうし)こと紀州徳川家の九男頼徳(よりやす)が旧蔵者ではないかと推定。そこから良沢が手にした可能性が高いとしている。
 なおこれは、神田外語大学「洋学文庫」のもととなった若林正治(京都の古書店主、1913~1984)収集品のひとつである。

 蘭学が勃興した1770年代、当初は江戸でただひとり西洋語に通じていた前野良沢は幅広い知的探求心と旺盛な実験精神に駆られた蘭学グループにオランダ語を教授した。この蘭学勃興期に「蘭化」(オランダ語のばけもの)を名乗った良沢ゆかりの原書が舶来から238年ぶりに出現したことは意義深い。
 江戸時代に好奇心、実験精神、博物趣味の対象として関心を集めた歴史とは対照的に、アスベストは、日本では高度成長期以来、建材ほか工業用に大量に使用されていたが、人体への健康被害の原因として、2006年以来、製品への使用が全面禁止となった。今回の発見は、科学の発達の歴史、科学と文化の関係を改めて考え直す契機となるはずである。

 今回の発見を機に、神田外語大学の附属研究機関である「日本研究所」は11月16日(水)、特別講演会「洋学文庫にみる日本文化」を開催する。これは、「洋学文庫」で発見された「諸術秘蔵」などの貴重な資料を元に、洋学が日本文化に与えた影響や、当時の日本人が海外にどのような関心を持っていたのかなどを、一般に広く知ってもらう趣旨で行うもの。神田外語大学日本研究所の松田清・客員教授が解説する。なお、講演会同日には、『諸術秘蔵』ほか貴重な関連資料の展示会も行われる予定。

 神田外語大学では、「日本文化に関する国際的および学際的な総合研究ならびに世界の日本研究者との研究協力」を目的とする「日本研究所」を設置している。同研究所は、この目的を達成するため、洋学文庫を含む洋学資料を継続的に収集しており、今後も貴重書籍研究および成果の社会的発信に役立てていく。

◆日本研究所主催 特別講演会「洋学文庫にみる日本文化」開催概要
【日 時】 11月16日(水) 16:30~18:00
【場 所】
 神田外語大学7号館2Fクリスタルホール
 ※アクセス リンク
【講 師】 神田外語大学 日本研究所 松田清・客員教授
【参加対象】 神田外語大学学生、一般の方
【定 員】 100名
【参加費】 無料(事前申込不要)
【講師プロフィール】
●松田 清(まつだ きよし)
 1974年 名古屋大学大学院文学研究科 修士課程退学
 2007年 京都大学博士
 京都大学名誉教授
 2015年 神田外語大学 日本研究所 客員教授
[著書(共著も含む)]
 『洋学の書誌的研究』(2000年第19回新村出賞受賞)、『講談社オランダ語辞典』、『山本読書室資料仮目録』、『杏雨書屋所蔵宇田川榕菴植物学資料研究』

■展示
・場所: 神田外語大学7号館1F 図書館 
・期間: 11月16日(水)15:30~19:00 ※当日のみ

<参考>

●前野良沢(1723~1803)
 蘭学者。豊前国中津藩(現在の大分県中津市)の江戸詰の藩医。「解体新書」の主幹翻訳者。

●平賀源内(1728~1780)
 江戸時代中期の学者。本草学者、地質学者、殖産事業家、戯作者、浄瑠璃作者、俳人、蘭画家、発明家として知られる。

●青木昆陽(1698~1769)
 江戸時代中期の儒学者、書誌学者。将軍吉宗からオランダ語学習を命ぜられ、江戸に来たオランダ商館長一行から、オランダ通詞を介してオランダ語単語や西洋の文物を学んだ。その蘭日単語集「和蘭文訳(おらんだぶんやく)」は前野良沢のオランダ語研究の出発点となった。

●蘭癖大名(らんぺきだいみょう)
 江戸時代後半、オランダ人船がもたらす海外の文物を競って収集した西洋趣味の大名をいう。福知山藩主朽木昌綱(くつき・まさつな、1750~1802)、薩摩藩主島津重豪(しげひで、1745~1833)、平戸藩主松浦静山(まつら・せいざん、1760~1841)などが知られる。

●徳川頼徳(よりやす、1759~1802)
 紀州藩主徳川宗将(むねのぶ)の九男、唯之進。前野良沢からオランダ語を学んだ。蘭学仲間から凰翔公子(ほうしょうこうし)と呼ばれ博物学、天文学、エレキテルなど幅広い研究を行った。貴重な蘭書の所蔵家でもあった。1795年桑名松平家に藩主として迎えられ、松平忠和(ただとも)と改名した。

●諸術秘蔵(しょじゅつひぞう)
 アムステルダムの医師ウィレム・ファン・ラーナウ(1673~1724)が1719年1月から1723年2月まで編集刊行した半月刊の博物雑誌『コンスト・カビネット』。全9冊。『諸術秘蔵』は蘭学者宇田川玄随が名づけた書名。古代ギリシャ・ローマから18世紀初めまでの西洋博物書の内容を分かりやすく紹介した啓蒙書。文化年間になると、幕府天文台の蘭学者馬場佐十郎が本書をもとに『泰西七金訳説付録』(文化十二1815)を翻訳した。

●火浣布(かかんふ)
 火で洗うことのできる布、の意味。アスベスト(石綿)の漢名。

●香(こう)
 伽羅、沈香、白檀などの天然香木の香りをさす。日本では典雅な源氏香に代表されるように、香を聞き分ける精神性の高い芸道として、香道が発達した。

●ボイス百科事典
 オランダの著述家エフベルト・ボイスが、イギリスで刊行された絵入り学芸百科事典を編訳したオランダ語百科事典(1769~1778)、全10巻。幕末まで蘭学者に頻用された。

●ウォイト『医薬事典』
 ドイツの医学教授ヨハネス・ヤーコブ・ウォイトが著した。そのオランダ語版(1741、1766)は当初、出島のオランダ通詞必携の書であったが、その後しばしば輸入され、蘭学者の間に広まった。

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