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「女性」の働きやすさから、「多様な人々」の働きやすさへ

文京学院大学 2015年07月27日 15時30分
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文京学院大学 オピニオンレター Vol.5

提言者:石黒 久仁子 (外国語学部准教授 専門:キャリア開発、マネジメントとジェンダーなど)
大学卒業後、国内専門商社・外資系企業人事部に勤務。
その後英国シェフィールド大学大学院にて博士号取得。雇用・マネジメントに関する問題をジェンダー視角から分析する。2012年より本学にて教育・研究活動を実施。


■期待される女性の社会進出

国際社会において、女性の社会進出はその国の経済の発展度合いに関わらず、重要な課題であると認識されています。今年の6月7日・8日にドイツのエルマウで開催されたG7サミットでも、メルケル首相は、女性の活躍・エンパワーメントが必要であることをあらためて表明しました。

このような動きの中、日本は女性の社会進出と活躍を進めるべきであると、国際社会から多くの指摘を受けています。実際、2014年に世界経済フォーラム(World Economic Forum [WEF])が発表した各国の社会進出における男女格差を示す「グローバル・ジェンダー・ギャップ・レポート」では、日本は対象となった142カ国中104位と非常に低い順位にとどまりました。

私は女性のキャリア形成を国際比較の視点から研究していますが、私自身が男女雇用機会均等法が施行された年に社会人となり企業に勤めた始めた経験から、女性と労働・雇用の問題については特に大きな関心を寄せています。

本レターではこうした背景を踏まえて、女性のみならず、さまざまな人々がより働きやすい社会をつくるために、どのようにしていくべきか、国際比較などを交えながら考察します。


■日本の課題

世界の事例を見る前に、日本の現状を整理します。女性を取り巻く問題は多様な要素から構成され、多くの研究者・実務家がその要因を指摘しています。そのすべてに言及することはできませんが、重要な事柄を、右のように「職場」「社会・文化」「政策」「女性自身」の四つの分野に整理しました。ここでは、その一部を説明します。

職場については、まず依然男女差が残る雇用環境・システムが挙げられます。また、長時間労働など、多くの日本企業に根強く残る働き方も、家庭責任を担うことが多い女性が仕事を続けることを妨げていると考えられます。

社会・文化的な要素については、女性の生き方に対する社会の価値観、例えば「女性は結婚して家庭に入るべき」といった考え方や、家事分担の多さも、女性が仕事を続けていくことの妨げになっているケースが多いと思われます。

政策面では、女性施策のさらなる改善に加え、政策決定過程に関与する女性の不足は大きな課題です。これは冒頭で紹介したWEFのレポートでも特に指摘されています。

また、継続就労や働くことへの意識に目を向けると、女性自身のモチベーションの弱さが、女性が活躍できない要因のひとつであると指摘されています。確かに多くの調査において、女性のキャリアに対する多様な志向が表れています。しかしそのような傾向は、単に女性自身の問題なのか、それとも女性の意識の形成において社会や文化の影響が無かったのかという点は、よく考える必要があります。

以上のように、日本の女性と労働を取り巻く問題はさまざまで、改善に向けた取り組みが長年行われてきましたが、大きな成果が上がっていないのが現状です。


【女性の社会進出に関する課題】

・職場における問題
(1)男女差が残る雇用環境・システム
(2)構造化された業務分担、機会、パワー、訓練機会、昇進機会などの男女差
(3)家庭責任のある女性には適応が難しい男性の働き方(長時間労働と会社への献身)
(4)性格の男女差に対する固定観念
(5)ジェンダー規範に基づく、職場でも個人に期待される行動・態度

・社会・文化的な問題
(1)家庭、社会、コミュニティに残るジェンダー規範 女性の生き方に対する価値観・期待
(2)女性自身の個人的事情・状況、仕事と家庭の両立(ワーク・ライフ・バランス)の難しさ
(3)家庭内での男女の役割分担

・政策面での問題
(1)働く女性のための支援策、施設の不足
(2)女性の進出を促進する機運の鈍さ
(3)政策決定過程に関与する女性の不足

・女性自身の考え方の問題
(1)女性自身のモチベーションの弱さとキャリア志向の多様性
(2)仕事を続けていくための意識づけ・訓練・教育の不足


■海外の事例から — フランス

ここからは、海外のいくつかの事例の中から、私が実際に企業に勤める女性に聞き取り調査を実施したフランスについて概観していきたいと思います。

フランスは日本同様に先進国の中では近年まで女性の社会進出が進んでいなかった国のひとつですが、1980年代には労働力率を表すグラフで、いわゆる「M字型カーブ」を脱却しました(右図)。この過程を追うことで、日本にも参考になる要素があるのではないか、と考えたことが研究のきっかけです。

現在のフランス社会と日本社会を比べると、いくつかの相違点が見えてきます。ひとつ目は、働く女性のサポートの充実です。例えば、働く母親にとっての大きな課題である子育てについては、政府からさまざまな支援が得られます。また、女性に限らず男性も、子育てのための時間を取ることが社会の中でも容認されています。このような制度や社会の認識はまだ日本では進んでいないのが現状です。

また、個人と生活という観点で見た場合、フランスでは個人の生活を大切にする社会的価値観が浸透しているように思われます。例えば、私が聞き取りを行った女性・男性たちの語りからは、会社においても、プライベートが充実してこそ質の高い仕事ができると認識されているため、効率のよい仕事をして早く帰ることが評価されるということでした。日本では多くの場合これとは逆に、長く頑張って働くことが評価されてしまいがちではないでしょうか。

また企業においても、女性も含めた優秀な人材を採用・確保し育成するためのさまざまな人事施策の実施が徹底されています。日本における女性登用の課題のひとつに、管理職を任せられるだけの能力・スキル・経験を持つ女性が育っていないという意見を多く聞きます。人材の育成には時間がかかります。今後女性の登用を進めるためには、少しでも早く女性も含めた社員の育成に取り組み始めることが重要だと思います。


■制度と意識

現在は女性の社会進出が進んでいるフランスですが、カトリックやラテン文化、男性が中心となって成し遂げられてきた経済・社会の発展などの影響で、長らく伝統的家族政策が取られてきたと言われています。ではなぜ、フランスは変わることができたのでしょうか。

その要因はさまざまだと思われますが、ここでは人々の意識と社会の認識を変えるにあたっての制度の有用性を指摘したいと思います。フランスで実施された代表例が、「パリテ法」と「クオータ制」です。

パリテとは「平等」という意味で、パリテ法は、男女が平等に政治に参加することを促進するために、拘束名簿式・比例代表1回投票制では候補者名簿登載順を男女交互に、2回投票制では候補者名簿登載順6人ごとに男女同数とするなど、 選挙によって選出される議員職および公職への男女の平等なアクセスを促進するものです。

また、クオータとは「割り当て」という意味で、ある分野での一定比率の割合を決めることです。フランスでは、1998年に、管理職における女性の割合を30%にするとガイドラインを出しています。日本は、2003年に、「2020年までにあらゆる分野で指導的地位に女性が占める割合を30%にする」と方針を決めました。この点において、フランスは日本の約5年先に進んでいたことがわかります。

クオータ制などの強制力を持つ制度には賛否両論ありますが、フランスの例が示すように、制度が変わることで徐々に人々の意識が変わる場合もあると感じています。


■「多様性」を受け入れる社会へ

ここまで主に女性と労働・雇用に関する現状・課題を見てきました。最後に、今後日本社会と企業に必要なさらなる視点の拡大を提言したいと思います。

労働・雇用の分野において、女性の問題は非常に重要な課題ですが、企業や組織には性別のみならずさまざまな人々が存在し、日々働いています。また、子育てだけでなく、介護やその他家庭責任を担っているのは女性だけとは限りません。同様に、働き方やキャリア形成に対する志向は人それぞれだと思います。そのような中、男女の別に代表されるような、個人の属性などに規定される、ある一定のモデルやパターンに限定され期待される働き方・生き方がすべての人に適するとは限りません。

今後多様な人々が能力やスキルを十分に発揮して生き生きと働くためには、個人の属性に関わらず、それぞれの人々が自分自身の個性やキャリア形成に対する志向、ライフスタイルやステージに合わせて仕事の仕方を選ぶことができる社会が必要になるのではないでしょうか。そして、企業や社会全体が、人々の多様性と、働き方・生き方を受け入れるために、真剣に取り組んでいくことが必要だと思います。


<文京学院大学について>
文京学院大学は、東京都文京区、埼玉県ふじみ野市にキャンパスを置く総合大学です。 外国語学部、経営学部、人間学部、保健医療技術学部、大学院に約5,000人の学生が在籍しています。本レターでは、文京学院大学で進む最先端の研究から、社会に還元すべき情報を「文京学院大学オピニオン」として提言します。

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