――そうしたお話を聞いたうえで、改めて「ワーケーション」って何でしょうか。
副田氏:…………一言では表せないですねえ…………。受け入れる地域側の立場としての回答になりますが…………「相互交流」でしょうね。正直いうとワーケーションで来ていただいた方が仕事しようがしまいが私にとってはあまり関係ないんです(笑)。ただし、一般の観光客の方とは別の切り口で来ていただきたいとは強く思っています。その切り口とは、やはり相互交流なのです。島に来ていただけるからこそ、ビジネスマンには何かを持ち帰ってほしいのです。島に有能なスキルなど、経験を有する人が交流を通じて刺激し合ってほしいのです。お互いが違う場所、価値観でいる人同士が関わり合うことで、相互に新しい価値観が生まれると信じていますし、その結果、いわゆる田舎の島の交流人口が増える、果ては移住人口=島全体の人口が増えるなど、地域課題解決の1つの結果につながるのではないでしょうか。そういった相互交流する人たち、さらには五島に携わってくれる人を1人でも2人でも、増やしたいと行動しているのが現在で、私が力を入れているワーケーションの目的です。この目的が、「ワーケーションの定義になればいいなあ」と思っています。
古地氏:私は受け入れ側というよりは、ワーケーションという生き方、選択肢、つまり「選べる社会」を作っていくのが使命だと思っています。そういう立場から答えると、「自分のこれまでやってきたことがワーケーション」と考えています。定義づけするなら、柔軟な生き方や働き方、暮らし方ということなのでしょう。その内容は、人それぞれ。私は釧路と長崎がものすごく好きだけれども、人によって感銘を受ける地域や出会う人はもちろん違うでしょう。ようするに、人によって、好きな地域や行きたい地域、過ごしたい地域、過ごし方、全部違うはずです。だからこそ、ワーケーションを伝えるのは難しいのですが…………。ただし、ワーケーションの誤解は「どこか遠くに行って何かをしなければいけない」「バケーション地で何かをしなければいけない」「仕事とは=PC使った仕事」などがあると思います。私は別に「遠くに行く必要はない。近くのカフェでいい」「バケーションである必要もない」「PCで仕事することが優先ではなく、人と交流することで何か新しい価値を得ることもワークである」など、強調したいのは「型にとらわれないでほしい」し、そのために私たちは柔軟な環境を整備するので、自分にとってのワーケーションを見つけてほしいということです。
又野氏:視察で来島する方の目的は、ほぼ勉強、仕事です。ほんとうは仕事で来ているけど、バカンスもしたいという本音の方は多いです。しかし、その切り替えが難しいとも感じています。しかし、そうした方々の実際は、一度の訪問で100%仕事もバカンスもできないので、80%ぐらいを達成して、その後また2回目、3回目と再訪する人も多いのです。つまりもっと知りたくなるのです。こうしたリピーターが増えるような仕組みはもっともっとやらなければいけないと考えています。ワーケーションの定義はよくわかりませんが、ファジー、曖昧な部分はけっこうあるので、「来島していただいた方々が満足、納得してくださるかどうか」がすべてではないでしょうか。受け入れ側としては要望に対してさまざまな行動で対応しますが、来ていただけた方の心にどれだけ寄り添えるかが鍵だと思います。
たとえば、すごくロケーションのいい場所に案内したいと考えたとき、単純に「人気の場所に連れて行く」と、それはほんとうに単純な観光になってしまいます。しかし同じ場所に連れて行くにも「漂着ゴミの視察や清掃に行って地球環境を考えましょう」とテーマを変えて啓蒙すると少し意味が変わってきます。観光の他に少しだけ意味を持たせるのも重要なのです。そうするともう一度来てみたいという願望になるのです。
――ワーケーションを今後どうしていきますか?ワーケーション参加したいと思っていらっしゃる方にどのように楽しんでほしいですか。
副田氏:今抱えている課題にもなりますが、五島市でのワーケーションに尽力してきたつもりですが、やり方はイベント型でした。イベントを作ってそこに参加してもらい、そこで地元の方と交流していただくプログラムを用意してそれをワーケーションとして募集してきました。そしてそういう交流が評価されて、結果リピーターにつながっているのがひとつの成功だと思っています。
しかし、これを1年中やるわけにはいかないのです。常時、ワーケーションで来たい方を受け入れる体制にしたいですが、そうするとこれまで認めてもらった交流の機会をなかなかつくれません。イベントが常時つくれるとは考えられないからです。イベントもなくてふらっと五島市に来た方は、単純なひとり旅になってしまいます。ワーケーションのイベントを主催、開催していることをワーケーションの定義の1つだとしている方もいらっしゃいますが、イベントがないときにもワーケーションで来島する方をいかに増やしていくかが現在の課題です。たとえば受け入れの窓口があるだけでいいのか、地元の方と交流するにはここに行けばいいなどの情報提供だけでいいのかなど……。イベントがあったときにワーケーションで来島した方々と同じ満足が得られるのか、同じように交流できるのか、同じように好きになってもらえるのかというと、そこにマンパワーが存在しないので、現実的には難しいと思います。それを「ワーケーションといえば五島だよね」と言ってもらえるまで昇華させるためには常時受け入れ体制ができなくてはいけないのですが、これが課題です。
ワーケーションの魅力というのは通常の観光では味わえない体験や、偶発的な地元との出会い、そして交流機会にあると思います。さらに、都会とは違う価値観にふれあえるということでしょうか。
古地氏:誰もがワーケーションをする必要は無いですが、誰かがやりたいと思ったときにそれを実行できる環境作りというのを協会としてミッションにしています。その一方で、ワーケーション事業に注力していると確かにマンパワーがかなり必要になってきます。つまり属人的になりやすく、これが実際問題になっています。ワーケーションに尽力していた担当者がやらなくなったらどうするのかという。それに対処というわけではないですが、協会ではワーケーション普及ならびに、リモートワークやワーケーションを次世代のワーク&ライフスタイルへの定着を目指す協会公認の「ワーケーションコンシェルジュ制度」を設けています。地域に根付いたコンテンツを長年提供している方や、当該地域とその他の地域をつなぐ活動をしている方など、現在約70名認定しています。要するに、伸びしろを増やす、地域に赴く際に「この人に頼ればいい」「この施設に行って相談すればいい」など、プロのアテンドではないですが、ワーケーションコンシェルジュを通じてもっと「ワーケーションの見える化」をするべきだと思います。属人化しない形でそれをやっていくのが今後すごく重要でしょうし、これができるかできないかが、今後ワーケーションが広まるかどうかの鍵になるでしょう。私たちは、ワーケーションという言葉がなくなっていいと思っています。地域になじんでいくかどうかが重要なので、伸びしろの見える化をもっと進めていきます。
私が考えるワーケーションの価値は、「遠出しなくても自分たちが通常住んでいる地域でもできることだ」と思っています。実は「地元の人ほど地元を知らない」のです。特に長く住んでいる人ほど「地元にはなにもない」と思い込んでいるのではないでしょうか。
そんなことは決してありません。そうした想いがあるため、まずは地元で始めてもいいのではないでしょうか。「近所の行ったことのないカフェに行ってみる」とか「前から気になってはいるけど話したことのない商店街の方に話しかけてみる」とか、こういうことがワーケーションの入り口かもしれません。できることから始めてほしいです。いつも暮らしているところから半径5キロメートルぐらいでいいでしょう。そういう行動をした際に、「おもしろかった」「合わなかった」など、体験のきっかけを作ってもらいたいと思います。ワーケーションに興味はあるけど実際に踏み切れない方は、難しく考えずに、こうした身近な体験からその価値を考えていただきたいです。
又野氏:私は、ワーケーションはどちらかというとバケーション=観光が主体になっているのが現状だと考えています。テーマを特化した「風車の視察」にワーケーションは関係ないと思ってきました。しかし、ワーケーションに来る方もいろいろなテーマを期待していらっしゃっています。市役所の思惑とすれば、たとえば100人来てもらって何かイベントを開いて、その中で1人でも2人でも五島に移住してもらえればいいと考えています。それはつまり、市役所の最終目標としては人口を増やしたいからです。イベントをできるだけやって、ワーケーションにも助成金を交付するわけです。しかし、本当の思惑は実際に来島いただいて、魅力を感じていただいたうえで永住者として希望していただきたいのです。あの手この手でいろいろやっていますが、私は都会から非日常的な部分を求めて来る方が多いのではないかと感じています。
私の母親は92歳でいまでも畑を耕すなど元気ですが、薪風呂の薪を山に行ってとってきたり、購入したりしています。薪風呂とボイラーと太陽熱を原資にしたハイブリッドな生活をしています。こういう生活に関して母親は「たとえ停電になってもどうってことはない。都会の人は大変だね」といいます。水は、太陽熱で熱するためにたえず屋根の上にありますし、煮炊きは薪でできます。たしかに災害があったとしても2、3日なら何も困らないでしょう。薪の灰は畑の肥料になります。無駄が一切ありません。話しは逸れましたが、五島の方々の生活を見ていると、昭和以前から培われてきたことを引き継いでいるところがあるんじゃないでしょうか。「お湯はボイラーで沸かせば?」と聞いても「いやあ、薪じゃないと駄目」など、こだわりがあって、ライフスタイルを変えられない部分もあります。これは都会の人から見たら、非日常に見えるでしょう。これを楽しく感じられるかどうかというのも人によって異なるでしょう。私はこれを楽しく感じます。だから、型にはまらず、もしくは型から外れることを楽しめることが重要だと思っています。
五島市ワーケーションに関するお問い合わせ先
合同会社アイラオリエンタルリンク トラベルQ
〒853-0033 長崎県五島市木場町 240-1
tel : 0959-76-3636
fax : 0959-76-3637
mail : fukue@travel-q.com
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