中堅中小企業とITの間に横たわるもの、その現状と課題--ガートナー ジャパン

 中堅中小企業への浸透を--これはITベンダーがもう何年も前から掲げている主題だ。
 ITベンダーからも「クラウドは中堅中小企業にこそ適した技術要素だ」との声は聞こえるのだが、実際のところ中堅中小企業には、今どのくらいITやクラウドが浸透しているのだろうか。中堅中小企業とIT、クラウドの現況を、ガートナー ジャパン リサーチ部門ITデマンド・リサーチ リサーチ ディレクターの片山博之氏に聞いた。 
(付記:本取材は東日本大震災の発生直前に行われました。その後の経済環境の変化など、十分ご留意ください)

ベンダー側の建前と本音、SMBの意識

 片山氏はまず冒頭、「ITベンダー各社は、中堅中小企業のマーケットにあまり本腰を入れているとはいえないのではないか」と現状を指摘し、「結局1000人未満の企業では、ITが十分に活用されていないのが現状」と問題点を提起した。

ガートナージャパン 片山博之氏

 ガートナーが定義する企業の規模は、従業員数1000人以上が大手、1000未満500人以上を中堅、500人未満100人以上を中規模、100人未満が小規模である。
 片山氏は、「ITベンダーにとって中堅中小企業(Small and Medium Business:以下SMB)向け市場は、1社当たり平均予算額が小さくても企業数が多い分、市場規模は大きくなる。大手ベンダーは以前から、是非フォーカスしていきたい、攻略すべき領域と言ってはいる。だが現実は、必ずしも十分注力しているようにはみえない。それほど大きな利益が望めないと見るベンダーもある」という。

SMBは企業数が多いため、市場規模としては大きい


出典:ガートナー (2010年7月)、総務省 (法人数:2006年時点)

 一方、SMB側にも課題が山積しているようだ。
 「今のところSMBはITを十分に理解しておらず、ITを業務のサポート程度にしか位置づけてはいない。ITを活用したいとの意向がある場合でも、身近に相談できるところがほとんどないというのが現状だろう。SMBの場合、大手とは異なり経営層と現場の距離感は短いのだが、経営トップがITを知らなければITの積極利用には至らない」(片山氏)ためだ。
 SMBがITへの理解を深め、業務支援だけでなく売上げ拡大にも活用するためには、ITベンダーの積極的な働きかけは必要だ。だがベンダーの対応は、大手とSMBでどうしても異なってくる。大手に対しては直接の教育やセミナーなどを通じて、実際に顔と顔をつき合わせた支援も実行しているが、SMBに対しては、大手と同様の対応はあまりない。
 「ITベンダーはやはり、多数の企業を1社1社回ることが困難なことから、1社当たりの額が大きい大手に向かう」のが実情だからだ。

(参考)従業員数規模別、利用中の/頻繁に接しているSier (複数選択可)
⇒大手は大企業にフォーカス


ガートナー(ITデマンド・リサーチ)/調査:2010年5月

 一部のSI事業者のなかには、地方にも出向いてセミナーなどを開催している企業もある。しかし、中堅以下の企業はセミナーなどに参加できる機会そのものが少ない。特に大手ITベンダーはSMBに対してはパートナー任せの場合が多くなっており、「もうすこし直接アプローチしないと、SMB市場でシェアを獲得するのは難しいだろう」と片山氏は危惧している。

 SMB側が自主的にITを活用する道筋はないのだろうか。
 ここで片山氏は「一部のSMBは、コミュニティを形成している」と指摘する。「メーカー、流通、開発関連など、各社がそれぞれの強みを持ち寄り、組織を作って、ビジネスを推進しようとの動きがみられる。複数の企業が連携するには、ITは不可欠になる。また、SMB同士が手を組むことで、大手に引けをとらないくらいに効果的にITを用い、利益拡大につなげれられる可能性がある。ベンダー側も、このようなコミュニティを対象にすれば、相当の売上げを期待することもできるのではないか」というのだ。

クラウドの普及図るには「わかりやすく話そう、使いやすくしよう」

 クラウドや仮想化技術も、SMBではまだあまり普及していないという。片山氏は「それどころか、クラウドを知らない企業すら少なくない。クラウドの認知度は、従業員2000人以上の大手企業では、一気に上昇するのだが、IaaS、PaaSなどといっても、SMBの多くは、それらでどのようなメリットを獲得できるのか、どのようなリスクがあるのか、、なかなか理解できないでいるようだ」と現状を明かす。

100人未満の企業では85%が「SaaSをよく知らない」


出典:ガートナー(ITデマンド・リサーチ)/調査:2010年5月

 ところが、クラウドの理解が広がっていないのと対照に、SMBの場合「ASP(Application Service Provider)」と聞くと、様相が一変するという。「ASPがサービスとして開始されたのは、10年ほど前であり、時間が経過すれば、それだけよく知られるようになるとともに、自治体や地場の企業は、ASPという名で、実際に利用したり、ビジネス化してきたからだ。
 片山氏は「ベンダー側は、わかりやすい言葉で、SMBと対話することが重要だ。彼らは、SaaSに対する認知度が低いのだから、SaaSよりも広義のクラウドでは、どんなことが実現できるのか、もっと噛み砕いた言い方で説明すべきだろう」という。

一般企業ではASPが一般用語


出典:ガートナー(ITデマンド・リサーチ)/調査:2010年5月

 片山氏は「現状のままでは、SMBはITをうまく活用する企業と、できない企業への二極分化がいっそう進んでしまうと」と語る。それを回避するために、「ベンダーはもっとSMB向けに手を打っていくべき。この市場には攻め込める余地はもっとある。一方で、SMBも経営トップ自身がITの重要性を知ろうとするべきだ」と危惧している。

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