ターニングポイント迎える、中堅中小企業向けIT市場

海外市場や、新成長戦略による新たな分野に注目すべき

 さらに、新成長戦略では、アジアも有力なキーワードになっており、その目玉の一つに、パッケージ型インフラの海外展開との項目がある。「ただ、内容は大企業ばかりが担うことになっている傾向があり、やはり新興企業を採用しないと、次の世代が育たなかったり、国内の雇用創出にもつながらない。この領域は、政府も億単位の需要が生まれると想定している。スマートシティは、全体の規模では数10兆円規模の社会インフラ創造を見込んでいる。この先には新興新規市場があり、パッケージ型社会インフラの輸出は、かなりの伸びしろがある」(笹原氏)。

 このような新しい潮流が見られ始めているのだが、「既存ITベンダーのチャネルは、IS部門には出向いていても、新規事業の担当部署には接触していないような面がある。だが、変化の兆しに気づいた一部の金融機関は、ベンチャー支援に動き始めている」との状況であり、新成長戦略による新たな市場に注目すべきだと笹原氏は強調する。

ベンダー、ユーザー、それぞれが真に必要とするものを察知する

 大手ITベンダーは、企業の年商別に、営業要員が動き、企業の規模ごとにアプローチの仕方が異なるが、いまや、Web関連の新興ITベンチャーは、従業員が数人くらいの規模から大きく成長する例もある。

 笹原氏は「大手の場合、数人からなるような小さな企業に対しては、社内、あるいはグループ内のどの部署が担当していいのかわからない面がある。その点、大手に次ぐSI事業者などの方が動きやすい。しかし、中堅中小企業が準大手くらいの規模になっていったり、海外進出することになると、これらのSI事業者では、グローバルでサポートすることは難しくなる。中堅中小が、パッケージ型インフラの輸出ということで、海外進出する際、国内のベンダーがサポートできなければ、現地のベンダーにもっていかれてしまうかもしれない」と語る。

 ITベンダーの対応とユーザーとしての企業のニーズがうまくかみ合っていないことが少なくないが、この不整合を正せばベンダーはビジネスチャンスを増やせるし、ユーザー側にとっては大きな支援となる。

 笹原氏は「中堅中小企業の場合、未だIS部門が十分に育っていない場合もある。特に、株式の上場などを狙っている企業であれば、内部統制の確保や、IFRSへの対応を想定していかなければならない。税務も難しいので、ここのサポートも必要になる。ITガバナンスをどうするか。さらに、業務プロセス改革をどうすればよいかということが争点になってくる。その辺を掘り起こしていくと、需要はある」とみる。

コスト削減に腐心するユーザー企業は、どのような投資姿勢であるべきか

 ユーザーとしての企業が注意すべきこととして、市村氏は次のように指摘している。 「LOB(Line of Business:事業部門)側が、クラウドを積極的に利用するような場合、どのように統治していけばいいのかなど、ITガバナンスが課題になる。LOBがIS部門に相談なく、IT武装をしようとすると、さまざまな限界に突き当たる。内部統制の問題もからんでくる。ITツールの導入に先んじて、まずは、ルールを策定することが重要となる」

 企業はコスト削減に腐心する状況の下で、あれもこれとIT投資をする余裕は未だないところが少なくない。では、IT投資をする場合、何を最優先にすれば良いのか。笹原氏は「センサー、電子制御などの分野であっても、納品の段階で、最終的には、プログラムが鍵になることが多い。その点、部品のメーカーなどは、相当、属人性が強く、たった一人のキーマンにすべてを依存しているような例もある。このような状況では、ITガバナンスも十分でないことが多い。ライフサイエンスの領域では、特に法規制が厳しいのだが、内部統制を整えるにしても『人手』による作業では、ミスが出る危険性は高い。そこは、ITに任せるべきだろうという話になる。部品メーカーなどの場合、プログラムミスによりリコ-ルなどがおきれば、損害は膨大になりかねない。電子制御系など、成長分野であればあるほど、リスクは大きくなる。この領域は、ITベンダーはあまり浸透していない」と話す。

 地域との連携、協調強化も確実な追い風だ。市村氏は「地域経済の活性化が必要であるとの観点から、地方銀行などが主導し、決済系と会計システムの連携をさせるなどといった中堅中小企業向けITソリューションの展開も始まっている。会計事務所もいろいろやっているし、ユーザー企業は定型的業務を外部に委託し、空いた資源を攻めの事業領域に振り分けるという手がある」と提言する。

 笹原氏も「地域おこしや地域再建ということで、企業誘致で首長がトップセールスをするなど、自治体の方が動いているので、これらを活かすことも重要。地元企業が元気になれば税収も上向くので、自治体も積極的だ」と指摘する。

 中堅中小企業向けのIT市場は、未だ視界が大きく開けているとはいえないだろうが、今後大きく拡大することが期待できる新たな分野がある。また、眠っている需要、あるいは、企業が求めているのにベンダーがそれに気づかないというような要素がまだあるようだ。さらに金融機関の動きや、自治体の施策にも留意していきたい。
クラウドをはじめITそのものの変革により、中堅中小企業向けIT市場もさまざまな部分で転換点を迎えている。IDCの両氏の指摘は、現時点では決して楽観的ではない。だが「掘り起こせば、宝の山はある」(笹原氏)といった下地については、着実に整いつつあるようだ。

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