池田:近年、CVCがスタートアップと協業をするという視点で、「オープンイノベーション」の促進を重要視しています。しかし、オープンイノベーションと言っても一括りにはできず、アクセンチュアの研究によると、積極的なM&Aなど社外のリソースを活用してイノベーションを促進する「狩猟型」と、自社の資産をオープン化させてビジネスパートナーを呼び込み、イノベーションを促進させる「農耕型」に分けられるという指摘があります。お話を伺っていると、ドコモのオープンイノベーションは「農耕型」を目指しているように思えますが、どのようにお考えでしょうか。
秋元:そのような分類からすればドコモ・イノベーションビレッジは「農耕型」のオープンイノベーションに属するかと思います。もちろん、農耕型は刈り取るまでに時間かかるのが課題です。そのため、ドコモ、NTTグループ全体としては「狩猟型」的発想も必要だと考えています。スタートアップ投資という観点で言えば、初めはマイノリティシェアで進め、その後の協業状況、事業、技術等様々な観点から評価し、M&Aで社内に取り込むという可能性もあります。日本企業は、こうしたマイノリティシェアからのM&Aというのは得意ではありませんが、これからは必要になってくるだろうと考えています。また、日本のスタートアップエコシステム成熟化への貢献という意味からも大手企業によるスタートアップのM&Aは、重要な意味があると思っております。
池田:インキュベーションの話に少し戻らせてください。さまざまなインキュベーションプログラムがすでにありますが、ドコモがシードステージにある優秀なスタートアップを選抜してメンタリングするプログラムは、CVCとして事業シナジーを重視していると思います。それ以外のリターンは何かお考えでしょうか?
秋元:事業シナジー以外では、起業そのものを支援することによるスタートアップの裾野拡大への貢献とフィナンシャルリターンへの期待です。現在、プログラム採択企業に対し転換社債という形で200万円の開発支援をしていますが、この資金はこれら3つの目的を達成するために必要な手段だと思っております。また、今後はよりプロダクト開発に集中してもらえるよう金額の上限を見直そうとも考えています。
スタートアップの裾野拡大への貢献という点で言えば、ドコモがドコモなりのインキュベーションプログラムを提供することで、まだまだ幅が広がる可能性は大いにあると考えました。100社のうち10社が成功すれば、10%の成功率。これを30%にする努力も非常に重要ですが、極端な言い方をすれば同じ10%でも100万社へ裾野が広がれば、10万社が成功することになります。単純ではありますが、起業支援の機会を提供し、スタートアップの絶対数を増やすことも、成功するスタートアップを増やすことにつながるであろうと。
日本全体のスタートアップのエコシステムの成熟化のためには、まだまだ多くの仕掛けが必要だと考えており、ドコモもその一端を担っていかねばならないと思っております。
池田:スタートアップのエコシステムとして、ドコモ・イノベーションビレッジというコミュニティを大きくしていこうという思いがあると思います。すでに、オープンスペースを利用してイベントを積極的に行っていますが、今後はどういったものを予定していますか。
秋元: この場所を、もっと雑多なスペースにしたいと考えています。雑多な環境から予想もしない化学反応が起きることを期待しています。まずは「ドコモ・ベンチャーズには面白い人たちが居るよね」、と思ってもらい、気軽に足を運んでもらえるようにしていきたいですね。出張で海外のインキュベーションスペースを視察すると、どんな人でも気軽に入れる空気がそこにはありました。そのイメージを作りたいと考えています。スタートアップコミュニティを盛り上げるために、まだまだやれることはたくさんあると思っております。NTTドコモ・ベンチャーズとして本格的に活動開始してからまだ一年弱しか経っていませんので、私たちもスタートアップのように日々改善を行いながら理想のスペースを目指しています。
池田:雑多のなかに、「人種のるつぼ」が起きることでイノベーションは生まれてくる可能性は大いになると思います。海外のスタートアップコミュニティでは学生や若い世代も多いですが、イノベーションビレッジでは学生も大歓迎ですか?
秋元: もちろん。もっと学生さんに参加いただきたいと思っております。プログラムの採用後一定期間内には法人化していただかないといけませんが、そこは私たちが手伝いをすることもできるので、学生個人やチームでの応募でも問題ありません。「我こそは!」と意欲のある人に是非来てもらいたいですね。学生の方々に応募いただけるような魅力的な取り組みも行っていけたらと考えています。ぜひ、楽しみにしていてください。
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