まずは最重要な部分からIT化を図る
経営コクピットの導入・運用に、ITは欠かせない。
具体的には、ERPに代表される業務システムからのデータは、EAI(Enterprise Application Integration)やETLツールにより一元化され、データウェアハウス等に蓄積される。貯まったデータでデータマートを作成し、OLAPやデータマイニングツール、BIツールで分析。需要予測や計画予測へとつなげるサイクルを回す。また、これらのツールとナレッジマネジメントシステム等を組み合わせ、EIPに表示させるのが効果的だ(図4参照)。
図4 経営コクピットを構成するシステムとPDCAサイクル(クリックすると拡大します) |
だが、「経営コクピットは費用対効果(ROI)を出しにくいため、予算の確保が最大の難所」(ベリングポイント青柳氏)との声もある。これらすべてのシステムを用意するには、相当のコストがかかるのだ。ポータル導入と同様の予算を想定している企業が多いが、実際にはERPを導入している場合でも、数千万〜数億円かかってしまう。
また、経営コクピットの構築には時間を要する。システム開発に加えて、BPRが必要となるからだ。経営コクピットの目的は、問題の発見から意思決定、行動までのリードタイムを短くすることにある。現在の業務プロセスのAs-Isを明確化し、新たにKPIを設定してTo-Beモデルを描かなければならない。社員の意識付けやデータ読み取りに必要なトレーニングの期間にも、半年〜1年程度かかってしまう。
フィオシス・コンサルティング 伊藤隆史シニアマネージャー |
そのため、一度期にすべてをシステム化し、経営コクピットを実現するのは困難だ。フィオシス・コンサルティングの伊藤氏は「業態や業界によって、必ずしもリアルタイムで把握する必要がない部分があります。その部分のシステム化は後回しにすればいいのです。コストを抑えるには、まずプロトタイプとして1部門だけに導入したり、たとえば財務部分だけのコクピットを全社展開するのが現実的です」と話す。実際、国内の大企業でも、MS-ExcelとAccessだけで経営コクピットを実現している例もある。
コストと時間がかかるため、経営コクピットはROIを明らかにしにくい。だが、実際にROIを出した例もある。
売上が5億ドル以上の某米国企業では、各事業部門ごとに分析専門のチームを抱えていた。1500以上のデスクトップ式レポーティングツールを持ち、Excelで集計していた。そのため、分析チームの負担は大きかった。それを1カ所に集約して「分析センター」を設置することで、人数を40人から20人に削減。類似した分析の必要がなくなり、ナレッジやノウハウが貯まったことで、より濃密な分析が可能になったという。
アイ・ビー・エムビジネスコンサルティング フィナンシャルマネジメント戦略コンサルティング 針原立夫マネージング・コンサルタント |
これからの経営コクピットシステムについて、IBCSの針原氏は「将来予測に重点が置かれるようになる」と予想する。たとえば、第1四半期の売上データを元に、第2四半期以降の売上を予測するという具合だ。
ベリングポイントの青柳氏も「まだ実現できていませんが、確度別の売上情報を表示するようになると思います。たとえば、100万台売れる確率は50%で、70万台売れる可能性が80%だと割り出すことができれば、上司や経営層はその情報を元に、確度を上げるための方策を指示できるようになります」と言う。
企業の経営環境の変化は、年々その振幅とスピードを増している。その環境下で経営の状態を把握できないと、判断を誤ったり手遅れになる恐れがある。経営コクピットに対するニーズは、国内でも今後ますます高まりそうな気配だ。
経営コクピットでは数値データが表示されるが、それだけをみて何かがわかるわけではない。ビジネスでは、数字よりも勘や経験がものを言う場合が多いのだ。
たとえば、あるチョコレート商品の外装を変えて5カ所の売り場に置いたとしよう。そのうちの1カ所のみ、以前よりもそのチョコレートの売上が落ちても、それは「売上が落ちた」という数値しか画面には現れない。パッケージを変えたせいなのか? 実は、その売り場で洗剤のコーナーにチョコレートを並べてるから売れないのかもしれない。つまり、現場を見ずにはその原因は明らかにならないのだ。
数字を見て「おかしい」と思ったときには、実はすでに手遅れであるケースはしばしばだ。経営コクピットシステムを構築するだけでは、実際には経営に何のインパクトもない。
世の中のすべての事象を数値化できる訳ではないので、表示できるデータは限られる。そのデータは、今起きている変化を表わす「点」でしかない。それをつなげて「絵」にするには、監視者に明確なビジョンが必要なのだ。(談)
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