「複製」から「使用」へと移行するデジタル著作権
さらに、これまでの有体物への物理的複製を中心に規定されてきた著作権法が、ネットワークの発達によって複製のない「使用」に移行していった場合に、著作権者の権利をどう保護すべきかという問題もある。たとえば、あるウェブサイトに掲載されている写真を、誰かが自分のホームページに載せたいと思った場合、それらの写真を複製して自分のサーバーに保存すれば、「複製権」の侵害が発生する。しかし、複製をしなくても、自分のホームページに写真のURLを張るだけで、外見上はまったく同じように写真を表示できるのだ。技術的な操作が違うだけで、複製行為は行っていないし、「送信可能化権」(インターネットで当該コンテンツを公開してもよいという権利)の許諾も必要ないという風に、法律的な評価が変わるという問題がある。
こうした問題に対して、若槻弁護士は「既存の著作物とデジタル著作物は、分けられてしかるべきなのに、それが分けられていないのが問題です。今後は、使用するたびにお金を支払うという『使う権利』、つまりライセンスを売り買いする仕組みが主流になっていくのではないかと思います。現行の著作権法でも、譲渡方式と許諾方式とに分かれていますが、許諾方式がライセンス方式です。これだと、現行の著作権法の枠組のなかで問題はないと思います」と語る。
また、ロージナ茶会で著作権法に詳しい福島直央氏は、「著作者の権利を保護するのであれば、著作権法をアクセス権中心に組み替えるのが一番求められているのでしょう。データの複製物に対する権利について判断するのではなくて、データにアクセスすることについて権利を与えるというやり方です」と述べる。
岐路に立たされる著作権法
オークションサイトの出品物の写真掲載からGoogle ニュースのサムネール表示まで、無償で行うことのできるデジタルコンテンツの適正な利用範囲に関して、新たな枠組を作ることは可能なのだろうか?現状ではどのような利用形態があるのかをあらかじめ想定するのは難しいので、起きた事象を追いかけるしかない状態だという。現在、文化庁が著作権法改正に関して、関連団体に要望を出してもらっており、今月末に要望がまとまる予定である。要望には、フェアユースを採り入れるべきだという意見も入っているが、全体的な流れとしては、著作権を強化する方向性が強いという。福島氏は「実際のところ、(適正利用を)無くしたいんでしょうね。かつては個人がやっていることなんてわからなかった、ということも根本にあったはずですが、全部ネットワークでつなげれば誰がどういう使用をしているのかわかります。私はフェアユースで許される範囲くらいはユーザーの自由にさせて欲しいと思いますが」と語る。
また、ヤフーの別所法務部長は「著作権法の改正は、クリエイターやユーザー、中立的に使用行為の媒介をする立場の人々も含めて、さまざまな角度から検討することが必要だと思います。個別の権利者の権利を守ることは確かに大切ですが、それと同時に、国の産業政策として、どう著作権を扱うべきかを分析する必要があるでしょう。そうなると、法律的な構成だけではなく経済学的な分析も必要になりますし、利用する側と権利者のバランスを考えるべきです」と述べる。
来年1月に施行される改正著作権法では、「邦楽CDについて還流防止措置を設けるべき」という趣旨から大きく外れて、欧米諸国からの洋楽の並行輸入などが阻害されるとの懸念が高まっている。国も知的財産戦略として力を入れているので、著作者と著作隣接者の権利をより強めようという動きがあるが、本来の違法コピーの流通防止という趣旨から外れて、適正な利用範囲が大幅に制限されるような法改正にならないよう、留意する必要があるだろう。
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