モヤモヤ残るザッカーバーグ氏の「超知能」構想--その理想は一体誰のため?

Radhika Rajkumar (ZDNET.com) 翻訳校正: 編集部2025年08月01日 15時05分

 またもや超知能の可能性への曖昧な言及が繰り返された。Metaの最高経営責任者(CEO)であるMark Zuckerberg氏は米国時間7月30日、「X」で動画の声明と書簡を公開し、同社が掲げる「すべての人のためのパーソナル超知能の未来」というビジョンを示した。

Meta AIのロゴ 提供:Bloomberg / Contributor / Getty Images
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 Zuckerberg氏は6月末、人間の能力を大幅に上回るコンピューターシステムの構築を目指す社内部門Superintelligence Labs(超知能ラボ)を発表した際に、この用語を定義もせずに作り出した。

  1. 「パーソナル超知能」とは何なのか
  2. メガネがパーソナルAIの媒体に
  3. 超知能が社会を揺るがす可能性
  4. 戦略的投資を呼びかける狙いか

「パーソナル超知能」とは何なのか

 超知能は、人間の脳に理論上匹敵するとされる汎用人工知能(AGI)を飛び越えるものだ。いずれも現時点では極めて仮説的な段階にとどまっている。

 書簡の中でZuckerberg氏は、エージェント型AIの最近の進歩に触れ、システムがゆっくりではあるが確実に「自らを向上させている」と述べ、超知能がこれまでになく実現可能になっていると主張した──耳慣れた主張である。

 それでも、進歩にはたいてい制約が付きまとう。

 Zuckerberg氏は「将来AIがもたらす豊かさがどれほど大きいとしても、私たちの人生により大きな影響を与えるのは、誰もがパーソナル超知能を持ち、自分の目標達成、望む世界の創造、あらゆる冒険の体験、大切な人にとってより良い友となること、そして理想の自分へ成長することを手助けしてくれるようになることだろう」と記している。

メガネがパーソナルAIの媒体に

 Zuckerberg氏のメッセージは、パーソナルAIの具体的な製品やサービスが何であるかを明確にしていない。それでも同氏は、この技術が業界を自動化の罠から解放すると楽観視している。「この傾向が続けば、人々は生産性ソフトウェアに費やす時間が減り、創造やつながりにより多くの時間を割くようになるはずだ」と同氏は述べる。ただし、効率化はむしろ消費の増大を招くとする「ジェボンズのパラドックス」が現実に起きているように見えることを考えると、その傾向がすでに始まっているかどうかは不明だ。

 書簡はさらに「私たちを深く理解し、目標を把握し、それを達成する手助けをしてくれるパーソナル超知能こそ、最も有用になる」と続く。「私たちが見聞きするものを把握し、一日中やり取りできるメガネのようなパーソナルデバイスが主要なコンピューティングデバイスとなるだろう」

 The Informationは7月28日、2025年上半期におけるMetaのスマートグラス販売台数が前年同期比で3倍以上になったと報じた。それも無理はない。米ZDNETのAI担当シニアエディターSabrina Ortizは最近のAIニュースレターで、スマートグラスこそが、効果的なパーソナルAIの最も成功した媒体だと指摘している。

スマートグラスを着けたMark Zuckerberg氏 提供:Bloomberg / Contributor / Getty Images
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超知能が社会を揺るがす可能性

 楽観的な見方がある一方でZuckerberg氏は、AIが雇用市場を含む社会の多くの領域をすでに揺さぶっている現実に触れ、超知能を(これが実現した場合に)どのように活用するかはまだ不透明だと述べた。

 「この10年の残りは、この技術がたどる道筋、そして超知能が個人の力を高める道具になるのか、それとも社会の広範な領域を置き換える力になるのかを決める、決定的な期間になるだろう」と同氏はつづっている。

 Zuckerberg氏のビジョンは、AIエージェントがなぜ有用なのかに関する現在の議論を拡張するものだ。エージェントは最も効率的に力を発揮すれば、人間の労働時間の多くを必要とする雑務を引き受け、単調な作業を自動化することで、従業員がより高度で独創的な仕事に集中できるようにする。これは、特に創造的な仕事や関係構築、交渉、文脈理解といったタスクで、エージェントが人間に劣っているからこそ可能な理屈だ。

 しかし超知能の前提は、人間の脳をはるかに超える能力を持つというものだ。Zuckerberg氏が、これを可能にし、かつ人間そのものを置き換えることはないと保証する方法は、具体的な例が出るまでは論理的に不透明なままだ。

 この問題は特に職場において顕著とみられ、AIのエージェントとしての影響によって雇用の不安が高まっている。Microsoftは2025年に入り、AIの影響を理由に3度目のレイオフを完了したが、米政府の政策はまだ、AIによって職を失う人々の保護を明確にしておらず、代わりにリスキリング向けの減税措置を優遇している。

 Business Insiderによれば、Metaも2022年以降に2万1000人を解雇したのに続いて、2025年に入り従業員の5%を削減中だ。他社と同様、これらのレイオフは少なくとも一部はAI開発への資金転用が理由とされる。これらの職が最終的にAIに置き換えられるかどうかは不明だ。

戦略的投資を呼びかける狙いか

 戦略的投資の呼びかけとも受け取れる記述の中で、Zuckerberg氏は具体的な内容は示さないまま、Metaは他のAI企業と違って「パーソナル超知能」を人類の利益へと導く重責を信頼して任せられると保証した。

 同氏は書簡で「私たちはこの力を人々の手に委ね、各人が自分の人生で価値を置くものに向けて活用できるようにすべきだと考えている」と述べ、この考え方は「超知能は全ての価値ある仕事を自動化することに一元的に向けられ、人類はその成果に依存して生きるべきだとする業界の他社とは一線を画している」と強調している。

 「Metaでは、各人が個々の志を追求することこそが、繁栄、科学、医療、文化を拡大してきた原動力だと考えている」と同氏。

 ただし、まだ実現していない力に対するこの姿勢が、過去の経営判断とどのように整合するかは不透明だ。例えば4月には、Metaの元グローバルポリシー担当ディレクターで内部告発者のSarah Wynn-Williams氏が、若者を含むユーザーが最も「無価値または無力」だと感じた時間帯のデータをMetaが広告主と共有していたと証言した。

 世界有数のCEOから二枚舌の発言が出ることに驚きはないが、Zuckerberg氏のメッセージは、IT企業がその比較的短い歴史の中で、利益よりも人間の幸福のために自社の技術をささげたことがないことを改めて思い出させる。具体的な約束を慎重に避けつつ、世間の信頼を得ようとする今回のメッセージは、とりわけ規制の緩和が進む中、Zuckerberg氏が描く理想の未来が誰のためのものなのかを曖昧にしたままだ。

 一方、現在存在するAIエージェントは、学習や試験対策、コーディング、メモからの動画生成、画像の修正などのタスクを支援している。

Zuckerberg氏の動画
Zuckerberg氏の書簡

この記事は海外Ziff Davis発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

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