【独占】みずほFG傘下の道を選んだUPSIDER宮城社長インタビュー 「スイングバイIPO当然目指す」

 みずほフィナンシャルグループ(FG)傘下のみずほ銀行は2025年7月29日、UPSIDERホールディングスの株式約70%を約460億円で取得し、同社を連結子会社とすると発表した。

 UPSIDERはエクイティ(株式による資金調達)とデット(借り入れによる資金調達)を合わせて累計600億円以上を調達してきた大型フィンテックスタートアップ。独自のAI(人工知能)与信モデルを武器に、法人向けカード「UPSIDER」や企業向け後払いサービス「支払い.com」を通じ、スタートアップや中堅・中小企業の財務課題解決を支援してきた。

 みずほFGとは2023年11月にベンチャーデットファンド「UPSIDER BLUE DREAM Fund」で協業していたUPSIDER。今回のみずほグループ入りの真相について、UPSIDERホールディングスの宮城徹代表取締役に話を聞いた。

ーー創業から7年目で大きな転換期を迎えました。

 宮城氏:創業は2018年ですから、あっという間の出来事でした。現在の心境は、「わくわく」と「緊張感」が半分ずつといったところでしょうか。これまでにない規模のチャレンジが今後、間違いなくできるという点でわくわくしています。通常のスタートアップがチャレンジできる規模ではないことをやらせてもらえるという興奮ですね。

 一方で、会社としてはこれから成長痛を経験するでしょう。ものすごいプレッシャーがかかっています。事業の伸びはもちろんのこと、社会からどう見られるかという点も変わると思います。よりいっそうの信用力が求められるでしょうし、金融グループとしてのセキュリティーやガバナンスなど、「大人の世界」に突入していく感覚です。今まで以上にスピードも求められます。

 こうした環境は、私にとっても会社にとっても、かなりのストレッチです。まるでシリーズAラウンドに戻ったときのような、異なるステージのスタートラインに立ったような感覚で、大きなプレッシャーを感じています。

ーーもともとUPSIDERはみずほFGと共に立ち上げたベンチャーデットファンド「UPSIDER BLUE DREAM Fund」において協業しています。今回のディール(取引)はどのような経緯で進められてきたのでしょうか?

 宮城氏:今回のディールに明確なスタート地点はありません。しかし、振り返れば約2年前に協業の議論を始めたことがやはり最初のきっかけだったと思います。当時は融資ファンドを一緒にやることが目的ではなく、より大きな視点で協業していくためのファーストステップとしてのジョイントベンチャー(JV)でした。様々な方向性で課題を共有し始めたのが、約2年前になります。

 ファンドをようやくリリースできた2023年11月、今でも覚えているのはいわゆる「おめでとう会」がなかったことです。当時、飯田橋のオフィスに集まって、「じゃあ、次どうする?」という議論が即座に始まりました。それはオフィシャルなものでもなく、純粋にパートナーとして何をやっていくのかをオープンに議論する場でした。

戻ってきた「金利のある世界」、中小企業融資に再び光

ーー創業期の2017年はフィンテックバブルのさなかでした。この7年間の環境変化をどう見ていますか。

 宮城氏:おっしゃる通り、私たちが創業した頃はまさにフィンテックバブル。良い意味で我々はその波に乗ることができました。2018年から2021年まで、私たちほど資金を集めたスタートアップはほとんどありませんでした。こうした環境下で様々な実験をさせてもらえたことはとてもいい経験でした。借り入れができないような赤字額にもかかわらず、運転資金、つまりお金を貸すための運転資金に投資家がお金を出してくれたのです。今だったらありえないでしょう。これもまさにタイミングの巡り合わせ。あのタイミングだったからこそ可能だったのだと思います。

 一方で、2021年から2023年は、金融サービス、特にフィンテックスタートアップにとっては「冬の時代」でした。この間、フィンテックスタートアップはほとんど生まれていません。個人向けのフィンテックサービスは大手には勝てない、経済圏競争の中で無理があるという共通認識が広まり、資金調達環境も悪化しました。私たちの領域を目指す会社も現れませんでした。こうした中で、唯一、一緒にマーケットを広げてくれたのがLayerX(東京・中央)でした。法人カードの領域は広がりましたが、全体的な動きとしては非常に小さかったと思います。

 潮目が変わり始めたのは昨年です。やはり、金利が上がり始めた影響が最も大きいのですが、同時に個人向けの総合金融サービスや各社の経済圏競争がある程度の結果を出し始めました。ここからフィンテックスタートアップが楽天やPayPayを覆すことは難しいでしょう。

 金利が上がり、個人向け金融サービスで一定の勝負がついてきた中で、中小企業を対象とした金融にスポットライトが当たるのは、20年ぶりくらいではないでしょうか。東京都知事だった石原慎太郎氏が主導して設立された新銀行東京以来だと思います。金融機関が預金を獲得することに意味がある時代に戻ってきました。融資すればするほど人件費に見合わず赤字になる時代から、融資そのものに意味のある時代になってきたのです。また、良い意味で最後の金融危機から10年以上が経過し、中小企業やスタートアップに対する与信も緩和されてきました。

 私がマッキンゼー・アンド・カンパニーに新卒で入社した当時はマイナス金利の状況下。当然ながらコンサルティングしていた金融機関の中小企業向け融資部門は非採算部門でした。店舗やバックエンドのオペレーションコストを割り当てると赤字です。2012年頃から各社のてこ入れが始まり、過去10年以上、中小企業向けに積極的な投資をしてきませんでした。潮目が変わり始めたのは昨年ですが、まだ世の中全体が変わったわけではありません。水面下で少しずつ変化が始まっています。これが私が過去数年間見てきた環境の変化です。

経営幹部から突然届いた1通のメールに記されていたこと

ーーフィンテックスタートアップは軒並み、各大手銀行の陣営に色分けされてきているように思えます。例えばマネーフォワードは三井住友フィナンシャルグループと個人向け事業やデジタルバンク検討で協業関係を強めているほか、ロボアドバイザー国内最大手のウェルスナビは三菱UFJフィナンシャル・グループの完全子会社化になりました。今回のみずほ銀行によるUPSIDERの連結子会社化はこうした流れの一環ですか?

 宮城氏:各社ともにそれぞれ異なる理由があると思います。共通しているのは各大手銀行が過去に類を見ないほどの投資力と意思決定スピードを持ち合わせていることです。私がコンサルティングをしていた10年前とはまったく様相が異なっています。経営陣が若返り、筋肉質になった体制の中で、組織としても意思決定スピードが速くなっているのだと思います。

 2年前に協業が始まった際、協業として何をやっていくかという議論はありましたが資本業務提携の話はありませんでした。2024年11月にシリーズDラウンドでの資金調達を終えた直後、当時のみずほ銀行の経営幹部の一人から1通のメールを受け取りました。

 そこには「本格的に資本関係を結ばないか」といったことが書かれていました。ただし、当時はマジョリティーを持ちたいというわけではなく一部を持ちたいというニュアンスでした。そして、みずほグループとの資本業務提携によるメリットも書かれていました。「IPO(新規株式公開)を目指してほしい」「やり方は変えないでほしい」「みずほグループのリソースを利用してほしい」といったことが記されていました。

 その1通のメールをきっかけに一部の株式譲渡という議論が始まりました。償還期限を迎えているVC(ベンチャーキャピタル)にとってよいEXIT(出口戦略)になるかもしれないという思いもありました。

 みずほグループがマジョリティーを持つ議論になったのはついこの前の2025年6月頃です。最大の理由は我々が実現したい世界に近づくことを実現するために「やるならがっつりやったほうがいい」と考えました。

 みずほグループには日本の産業金融を支えてきたルーツがあると思っています。例えば、創業間もないメルカリや、未上場時のタイミーに融資して支えるなど、挑戦する企業を応援してきました。日本経済を支えるのは企業の活動であり、その企業を支えるのはみずほグループであるという自負、DNAのようなものをリアルに感じます。

 また、様々なプロジェクトで「自前主義ではない」というカルチャーがあります。様々なプレーヤーと多方面で組んでおり、目的に合うのであれば自分たちが前面に出る必要はないという考え方があります。銀行では中小企業を支えるRM(リレーションシップマネージャー)がどんどん減っています。ビジョンとして掲げていても、実際に支える立場であるフロントの人が減っているのです。こうした中で、テクノロジーでどうやって今まで以上のサービスレベルを実現していくか。

 私たちが目指している世界観とみずほグループが実現したい世界観が、あまりにも合致していました。自前主義ではなくオープンな姿勢で、私たちを「出島」として育て、自分たちは表に出なくていいという発想とスタンス。これがあまりにも合致していたため、掲げていたビジョンや事業戦略を1ミリも変えずにやっていけると感じました。むしろ、我々にとってはエンジンとしての資金力ができ、リーチできる中小企業の数はけた違いに増えます。私たちだけでは繋がれないようなパートナーとも、みずほと組むことでそれができるようになる。私たちにとって、あまりにも大きなチャンスでした。

ーー“色”がつく怖さはないですか?

 宮城氏:正直にいえば、ある程度はありました。具体的にいうと、我々は創業期から三菱UFJフィナンシャル・グループをメインバンクにしてきましたから、どう思われるのだろうかという点はかなり議論になりました。

 当然、無色でやっていく方が伸びることもあります。しかし、目指すべき世界のためにはリスクを取るべきだと考えました。今でこそクレジットカードの国際ブランドである「Visa」は無色ですが、起源はバンク・アメリカ(現バンク・オブ・アメリカ)が1958年に発行した「BankAmericard(バンクアメリカード)」です。一方、決済サービスを展開していた米PayPalは米eBayの傘下に入ったことで著しい成長を遂げました(編集部注:2015年にeBayからスピンオフして再上場)。

 このように、会社の色がつく中で成長した事例もあります。会社のステージによって何が成功への道なのかというのは変わっていくと思います。

創業者の持ち株、従業員のストックオプションもそのまま

ーーとはいえ、マジョリティ―出資を受け入れる判断は起業家としてはかなりの決断です。すべてを売却せずに創業者の株式を残したままです。今後はソラコムがKDDI傘下に入ってから成長を加速させてから上場したような、いわゆる「スイングバイIPO」を目指すのでしょうか。

 宮城氏:おっしゃる通り、創業者の持ち株は残っていますし、従業員のストックオプションもすべて残ったままです。スイングバイIPOは当然、目指していきたいと考えています。我々は成長ステージごとに最適な株主に入ってもらってきていました。創業期から2021年までは我々はスタートアップ企業を顧客として伸びていたため、大手VCに入ってもらいました。次のステージでは法人企業や個人事業主に向けた後払いサービス「支払い.com」を提供するためにクレディセゾンに入ってもらい、同時にアクセルを踏むため海外投資家からも投資を受けました。

 このように、私たちは事業を伸ばすのに最適な株主を入れてきています。みずほグループにマイノリティーでも入ってもらいたいと思った際も、事業を伸ばすために必要なパートナーという位置づけでした。

 会社を伸ばすために必要が生じれば、私自身がいなくなっても構わないと思っています。そういう意味でも、これから私たちを伸ばしてくれる株主はみずほグループだと考えています。

 これからは私たちがやりたいことが実現できるステージです。IPOも当然視野に入れますが、未上場でやり続けた方がよいという可能性が出てくるかもしれません。上場企業になるとなかなか長い目線で投資をし続けることが難しいかもしれません。私たちの強みは与信です。どのくらいのクレジットリスクを取ってよいのか、それによって市場がどう反応するのかが分からない中で、みずほグループを筆頭株主にしていたほうが大きなチャレンジをし続けられるかもしれません。

ーーみずほ銀行の連結子会社になることで、今後何を実現していきますか。

 宮城氏:私たちの強みである与信の観点からみると、みずほグループが持っているデータ量は圧倒的に異なります。データを分析して実際に与信に生かしていくプロセス処理、それを使ってこれまで融資を断念せざるを得なかった企業に対して融資を実行していくという事業の展開において我々は自信を持っています。磨いてきた技術と蓄積してきた知見をみずほグループに提供することで、次元の異なるサービスの高度化が実現できる。これは銀行API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)で連携するレベルとは根本的に次元が異なります。

 そして、みずほFGと共に立ち上げたベンチャーデットファンド「UPSIDER BLUE DREAM Fund」を通じて感じたのは、地方銀行とのパートナーシップがとても重要だということです。我々が直接地方銀行と組むのには大きなハードルがありますが、みずほグループと組むことで世の中における信用力の違い、巻き込める企業数のレベルが圧倒的に変わります。

 加えて、金融領域以外の広がりも期待しています。これまで我々は与信においてAI技術を活用してモデルを磨いてきましたが、直近では「UPSIDER AI経理」の提供を通して、企業の経理業務をAIが代替、効率化する業務AIに注力しています。企業が融資を受ける前段階としての業務効率化に乗り出していますが、この業務AIを様々な企業と組んで拡張していきたいと考えています。採用や広告出稿、物件売買など、様々な領域に広げていければと思っています。

 過去に多くの企業がトライしてきたテクノロジーを使った法人向け融資ですが、なかなか成功にまで至っているケースはありません。我々はみずほグループと共になることで中小企業の経営からその先の融資まで、一貫して支えることができると確信しています。

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