3Dプリンターはさまざまな用途に使える。高性能な3Dプリンターがあれば、少しの手間はかかるが、ちょっとした修繕用品から複雑なアート作品まで、作れないものはほとんどない。筆者は仕事で3Dプリンターをレビューしているので、サイズも用途もさまざまな3Dプリンターを使える環境にある。レビューでは通常、小さな3Dモデルを使い、複雑さやディテールのレベルを変えながらプリンターの性能を試していく。しかし、時には心から幸せを感じられる作品を作りたくなるものだ。
筆者は新婚旅行で初めてカリフォルニア州のディズニーランドを訪れて以来、城の上に打ち上げられる花火の大ファンだ。家族でカリフォルニアに住んでいた頃は年間パスポートを持っていたが、バージニア州に引っ越してからはディズニーパークを訪れる機会もなくなった。そんな時、Elegooの3Dプリンター「OrangeStorm Giga」をテストする機会を得た。個人ユーザーには勧めにくい巨大なプリンターだが、一家のディズニーパークへの愛を形にするには完璧なプリンターだった。
ありがちだが、きっかけは「TikTok」だった。DIY動画を投稿しているAlex Carrao氏が3Dプリンターでディズニーの城を作り、そこにYouTube動画を投影する企画に挑戦していた。3Dプリンターで城を作り、その表面に映像を投影することで、ディズニーパークで毎晩繰り広げられている花火ショーを再現する――このアイデアは、比較的容易にまねできそうに思えた。Carrao氏が作った城は3Dプリンターベッドの標準的なサイズ(約250×250×250mm)に合わせたものだったが、筆者が作りたいのは、もっと大きな城だ。そのための道具はすでにあった。
筆者が3Dプリンターで作りたいと考えていたのは、フロリダ州にあるディズニーワールドの城ではなく、カリフォルニア州にあるディズニーランドの城だ。この2つの城は見た目が違う。ディズニーワールドの方は「シンデレラ」の城、ディズニーランドの方は「眠れる森の美女」の城だ。筆者が思い入れのあるのは後者、つまりディズニーランドの城だった。幸い、Carrao氏は好みの違いに配慮し、両方の城の3Dモデルを用意していた。そこでディズニーランドの城の3Dモデルを購入し、自分のイメージに合うようにモデルを調整する作業に取りかかった。花火ショーの映像は城の中央部分のみに投影されるが、Carrao氏の3Dモデルは城を取り囲む城壁も含めて、城の全景を捉えたものだった。今回のプロジェクトでは、ここまで壮大なものは必要ないため、Microsoftの3Dデータ作成・編集ソフト「3D Builder」(手軽に使えるが、すでにサポートは終了)を使って不要な部分は削除した。思い通りのモデルが完成したら、次はいよいよプリントだ。
OrangeStorm Gigaは、説明しにくい3Dプリンターだ。ビルドエリアは800×800×1000mmと広く、400×400mmのビルドプレートを4枚使って印刷する。最初に発表されたときは興奮して、早く試したくてたまらなかった。実際、あれこれ作る作業はとても楽しいのだが、読者諸氏の用途に向いているとは思えない。稼働させるまでの工程が複雑で、正しく印刷するためには細心の注意が求められる上、プリンター自体が大きいため、作業場がなければ置き場所にも困る。とはいえ、十分なスペースと忍耐力、そして2500ドル(約37万円)を払う余裕があるなら、あっと驚くものを作成できることは間違いない。
城を正しくプリントできると思えるレベルにまでプリンターを調整できたら、カットしたばかりの3Dモデルを印刷してみた。3Dモデルはオリジナルのデザインに調整を加え、最終的に横幅が700mmになるように拡大した。3Dプリンターでは「STLファイル」というファイルを使う。このファイルは、かなりの拡大にもたえられるが、細部が粗くなりやすい。ただ今回は、この問題は発生しなかった。映像を投影することが前提なので、城自体は白地のキャンバスであり、細かい装飾はなかったからだ。
3Dプリントに要した時間は合計85時間強だ。長いと思うかもしれないが、3Dモデルの大きさと材料の量を考えれば早い。参考までに、5年前に実物大のマンダロリアン(「スター・ウォーズ」のキャラクター)のヘルメットを印刷したときは125時間かかった。使用した材料は城の5分の1ほどだ。
今回の城の場合、プリントに必要な材料の量も膨大だった。Overtureの3kgのPLAロールを使い、充填形状はジャイロイド、充填率は8%に設定したにもかかわらず、ロールのほぼ全量を使い切ってしまった。重いが、ちょっとした衝撃では壊れない安心感がある。できあがった城は壁に取り付ける予定だったので、頑丈にしたかった。
映像を投影するための下準備も必要だった。プリントした城のレイヤーラインを目立たなくするために、自動車用の下塗りフィラーを使った。レンガの風合いを残しつつ、適切な質感を出すために2缶ほど使った。その後、石材風に仕上げるためのスプレーペイントを2缶使って、質感をさらに高めた。映像を投影することが目的なので、城自体を暗い色で塗ったり、本来の城の色に似せたりすることはできない。城は、あくまでも白紙のキャンバスである必要があった。とはいえ、映像を投影していない時は壁に自然に溶け込み、インテリアを乱さないようにしたい。スプレーペイントで仕上げた色は壁になじみ、ざらざらした質感にすることで、ただのプラスチックのような安っぽい印象も回避できた。
プロジェクター塗料を使った方が花火をきれいに映せるのではないかとも考えたが、いかんせん高い。1缶で100ドル(約1万5000円)以上する。他の材料をすべて合わせたよりも高くなるようでは、コスパが悪すぎる。やはり頼みはプロジェクターだ。
映像の投影は、現在でも完璧とは言えず、今後も完璧にはできそうもない。もちろん、現状でも十分にきれいだが、これ以上の調整は、現時点で筆者が利用できる技術ではできない。筆者が使っているのはXGIMIの「Elfin」という小型プロジェクターだ。古いがYouTubeやAndroid TVにもアクセスできるし、何と言っても軽くて、角度も調整しやすい。投影する映像の選択も重要だ。映像は以下の条件を満たしている必要があった。
あちこち検索して、ようやく見つけたのがDizFeedの撮影したディズニーランドの花火ショー「Disneyland Forever」の動画だった。この動画は、すべての条件を満たしている上に、筆者の幸福な記憶をよみがえらせた。この動画は構図が完璧であるだけでなく、そこに記録されている花火ショーは、筆者と妻が結婚した翌日に観たものだった。人生でも指折りの幸せな日に観たショーを、今は毎日、自宅の壁で観ることができる。
次のステップは、プロジェクターの映像を3Dプリントした城の縮尺に合うように調整することだった。この作業には、プロジェクターの台形補正機能を使った。高性能なプロジェクターには必ず、プロジェクターの設置場所に合わせて、投影する映像の形を調整できる機能がある。スクリーンに映し出された映像が真四角ではなく、台形になっているのを見たことがある人は多いだろう。台形補正は隅を引き出すことで、この問題を解決してくれる。
この台形補正機能を使うことで、映像のサイズを3Dモデルにできる限りフィットさせることができる。プリントした城は壁から突き出すような格好で設置したため、背後に影ができ、ピントが合っていないように見えることもある。まずは、どの部分にピントを合わせるかを決めなければならない。筆者は正面の大きな窓を選んだ。ここが一番、映像の動きが多い場所だからだ。もちろん完璧ではない。完璧にするためには複数のプロジェクターを使って、異なる角度から投影する必要がある。しかし、現在の仕上がりでも十分に満足だ。
さらなる改善を試みるなら追加投資が必要だ。筆者のプロジェクターに搭載されている台形補正機能はシンプルなものだ。つまり、筆者が必要とするほど細かい補正はできない。この問題を解決するためには、より高価なプロジェクターを買う必要がある。もう1つの選択肢は、ノートPCを使ってビデオ出力を調整することだ。この方法は効果があるかもしれないが、そのためにはプロジェクターの背後にノートPCを隠す必要があり、理想的とは言えない。ノートPCの代わりに「Raspberry Pi」を使う方法もあり得る。ノートPCよりはずっと小さいし、存在を隠すためのカバーを3Dプリントで作成することも可能だ。例えば、城へと続くメインストリートのようなデザインの棚を作ってもいいかもしれない。
あるいは、壁に付いている状態の見た目が良くなるように、下部に人工の雲を追加するのもいいかもしれない。それによって城が空に浮かんでいるように見えるだけでなく、投影された動画の下部が拡散され、映像が欠けている部分が隠れるので、より自然な見た目になる。
このプロジェクトを完成させるのはとても楽しかったし、筆者が3Dプリントに夢中になった理由を思い出させてくれた。筆者は、自分の創造性を表現し、生活に楽しみをもたらす方法を探していたが、この城はまさにその両方を実現してくれた。今では、ほぼ1日中この城に花火を投影している。特に懐かしい気分に浸りたいときは音量を上げて、人生で最高の夜の1つを思い出すことにしている。
この記事は海外Ziff Davis発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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