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米NVIDIA株17%急落--中国産生成AI「DeepSeek」登場が衝撃的である理由と今後起きる変化

 1月、中国のベンチャー企業「DeepSeek(ディープシーク)」が開発した生成AIが公開となり、世界に衝撃が走った。世界140カ国でモバイルアプリのダウンロード数において1位を占めるなど、世界中で高い注目を集める結果となった。DeepSeekの登場によって、半導体大手米NVIDIAの株価は17%近い急落となり、時価総額は日本円にして約91兆円のマイナスとなった。DeepSeekが世界に衝撃を与えた理由と今後起きる変化について解説したい。

低コスト・低エネルギー・高性能の衝撃

 DeepSeekの登場が衝撃的だった理由は複数ある。

 まず、「ChatGPT」などの先行する生成AIと遜色ない能力を持っていたこと。日本語入力にも対応し、質問への回答はChatGPTなどとほぼ変わらないレベルのものが返ってくる状態だ。

 そして、それにもかかわらず、ChatGPTなどの先行する生成AIと比べて大幅に安い料金で提供されていることだ。

 ChatGPTは無料版もあるが、性能が上がるPlusは月額20ドルであり、さらに性能が上がるProは月額200ドルに上る。一方のDeepSeekは、Webチャット版は基本的に無料。APIを利用する場合のみ従量課金制だが、こちらも他の生成AIに比べて非常に安価となっている。

 さらに、開発費用は557万ドル(約8億6000万円)で米競合の10分の1以下と、非常に安価だったこと。必要電力もかなり少ないと言われている。

 米国は中国に対して、NVIDIAの最先端半導体の輸出制限をかけてきた。にも係わらず、高性能のDeepSeekが登場した。DeepSeekは中国向けに開発された性能の劣る半導体を使ったと考えられ、これがNVDIAなどへの巨額投資に対して疑問を抱かせたことで、株価が大暴落したというわけだ。

 ただし、DeepSeekは最先端半導体をシンガポール経由で得ていたという報道もあり、NVIDIAの最先端半導体が必要ないということではない点には注意が必要だ。

 また、低コストで開発できたのは、OpenAIのAIを「蒸留」して学習させたためとも言われる。蒸留とは、大規模なAIの出力を小規模なAIの教師として使うことで、OpenAIでは他社でのそのような利用を禁じている。なお、生成AI開発に高額な費用がかかる理由は、トレーニングコスト、電力やサーバーなどのランニングコスト、研究開発にかかる人件費などがかさむためだ。

中国共産党の意向に沿った回答、セキュリティ問題も

 一方で、DeepSeekには問題もある。中国のサービスであり、回答が中国共産党の公式見解になるよう調整されていることだ。中国でセンシティブと見なされるトピックについては自主検閲を行っており、たとえば1989年に起きた天安門事件や尖閣諸島問題など、地政学的に微妙な問題に関する質問は回避する仕組みとなっている。

 大抵の問題には日本語で入力するとすらすらと日本語で答えが返ってくるが、「天安門事件」などと入力すると、定型文で答えられない旨返ってくるのみだった。

 また、DeepSeekでユーザーが入力したデータは、中国のサーバーで管理しているという。中国企業は、国家情報法により、中国政府の諜報活動に協力しなければならないとされている。つまり、ユーザーが入力した情報は、基本的に中国共産党に渡ると考えられるのだ。

 セキュリティが問題視され、多くの国でDeepSeekの利用が禁止、制限される事態となっている。

DeepSeekの登場によって起きること

 DeepSeekの登場によって、今後どんな変化が起きるのだろうか。

 OpenAIなどの生成AIにとって、競合が登場したことで、コストを下げたり性能を上げるなどの対策が求められることになる。これはユーザーにとってはプラスに働くはずだ。

 前述の通り、DeepSeekは基本的に利用料が無料だ。多くのユーザーにとっては、セキュリティ問題はあっても無料の魅力は大きく、それがダウンロード数トップにつながっていることは間違いない。

 DeepSeek側は、まずはシェアをとることを優先して、利用料無料という手段に出ていると考えられ、OpenAIなどは性能やセキュリティといった別の面で勝負をしていくことが求められるのだ。

 米国におけるAI向けデータセンター構築のための投資、「スターゲートプロジェクト」も進んでいる。こちらにはソフトバンクも出資を決めており、日本におけるAI活用が進むきっかけとなりそうだ。スターゲートプロジェクトは、AI開発を加速し防衛装備を高度化し、情報収集やデータ管理を強化する狙いもあると見られている。

 生成AIの話題で始まった2025年。DeepSeekの登場によって、生成AI開発と市場争いはさらに激化しそうだ。生成AI市場を席巻するのはどこなのか。今後も目が離せない。

高橋暁子

ITジャーナリスト、成蹊大学客員教授。SNS、10代のネット利用、情報モラルリテラシーが専門。スマホやインターネット関連の事件やトラブル、ICT教育に詳しい。執筆・講演・メディア出演・監修などを手掛ける。教育出版中学国語教科書にコラム 掲載中。元小学校教員。

公式サイト:https://www.akiakatsuki.com/

Twitter:@akiakatsuki

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