ソフトバンクは、基地局アンテナからの信号などを処理するデバイスにNVIDIA製チップを採用すると発表した。2026年度以降にソフトバンクの商用網に組み込む。
これまで、基地局の信号などの処理には専用ハードウェアが用いられることが一般的だった。しかし、近年の技術進展によってCPUやGPUといった汎用ハードウェアに置き換える「オープンRAN」や「仮想化」の動きが広まっている。
しかし、基地局のトラフィックは時間帯によって変動するため、計算リソースに余りが生じることがある。この余剰リソースを「エッジAIデータセンター」として活用するのが今回の取り組みとなる。
基地局へのAI機能の搭載は「AI RAN」として知られているが、主に通信品質の向上に主眼を置くものが多かった。今回の取り組みは、基地局とデータセンターの設備を共通化した点がユニークだ。
この構想を実現するため、ソフトバンクは「AITRAS(アイトラス)」という商用AI RANプラットフォームを発表した。
具体的には、NVIDIAの生成AI向けスーパーチップ「GH200」2機を搭載したサーバーで基地局の信号などを処理しつつ、余った計算リソースを基地局直結のAIデータセンターとして使う。この振り分けには「AIオーケストレーター」という仕組みを用いる。消費電力は、基地局設備として用いる場合には一般的な汎用デバイスと同程度だという。
現時点では「商用網に採用するにはクオリティが足りない」ため小規模局専用だが、2026年度以降を目標に同社の商用網に組み込む。
「このAI RANでソフトバンクネットワークを全部作り直す」とソフトバンクで代表取締役 社長執行役員 兼 CEOを務める宮川潤一氏は述べた。
また、将来的にはAIデータセンター機能がメインとなり、その余剰リソースで基地局の処理をするようになる可能性もあると、ソフトバンクで執行役員 兼 先端技術研究所 所長を務める湧川隆次氏は述べた。
ソフトバンクは、AITRASを全国の基地局に広げる。これが実現すれば全国の津々浦々に「エッジAIデータセンター」が誕生する。ユーザーは基地局という至近のデータセンターから「超低遅延のエッジAIサービス」を享受できる。
では実際にどのようなユースケースがあるのか。宮川氏は自動運転やLLMロボットのような「超低遅延が必要なシーン」に触れつつ「少なくともここ2年間の生成AIの進化を見ると、これからの2年間は人類がこれまで議論してきたこととは全く違う世界観になっている」と述べた。
スマートフォンの登場時点では、現在のようなユースケースが無かったように、AIのユースケースは自然と生まれてくるという考えのようだ。
また「今後は経済の中心がAIにシフトする。日本のGDPは600兆円だが、その大半は何かしらのAIと関わらないと今後は維持できない」とも宮川氏はコメント。一方で「NVIDIA製GPUは高い」とも漏らし、携帯の基地局という収益を生む用途でNVIDIA製のGPUを活用し、それをAIデータセンターとして横展開する意義も強調した。
今回発表した小規模局向けのAITRASも「NVIDIA AI Enterprise」に準拠し、「LLM Robot」「マルチモーダルLLM」「高機能RAG」「NVIDIA Serverless API」といった生成AIメニューに対応している。
また、このAITRAS自体はソフトウェアのプラットフォームだとし、2026年以降は他国のMNOへの輸出も視野に入れていると宮川氏は話した。
(更新:初出時、商用網に組み込むタイミングを「2027年以降」と記載していましたが、正しくは「2026年以降」でした。訂正しお詫び申し上げます)
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス