先日、NTTドコモが通信機器の調達を国内ベンダーから海外ベンダーに切り替えていくという報道があった。NTTドコモではこれまで富士通やNECといった国内ベンダーを中心に調達を行なっていたが、それをエリクソンやノキアにしていくというものだ。
まさに「ガラパゴスネットワーク」からグローバルスタンダードなネットワークに切り替えていくというわけだ。
背景にあるのは、ここ最近、指摘されているNTTドコモのネットワーク品質の低下だ。これまで電波の飛ぶ向きを調整したり、基地局を増やすといった対策を打ってきたが、抜本的な対策として、通信機器を提供するベンダーを切り替えるという手を打ってきた。
2023年ごろ、NTTドコモのネットワーク品質の低下が指摘され始めた際、NTTドコモでは「Massive MIMOをほとんど導入していない」という点が業界内で話題になった。
Massive MIMOとは一つの設備に数多くのアンテナ素子を内蔵。複数のスマートフォンなどに対して、安定して高速通信を提供できるというものだ。
Massive MIMOにより、ターミナル駅など人で混雑するような場所でも、多くの人に快適な通信が提供できる。
ソフトバンクなどは4G時代から「5Gを先取り」とばかりに前のめりで導入してきたが、NTTドコモでは4GでのMassive MIMOはほとんど導入されていなかったとされている。
ここ最近、海外の調査会社の調べでは、ソフトバンクのネットワーク品質が高いと言われている。ソフトバンクではエリクソンやかつてはファーウェイなど海外ベンダーの通信機器を積極的に採用している。
エリクソンなどの海外ベンダーは世界各国のキャリアに対して通信機器を納入しているため、様々な状況でネットワークを安定運用するノウハウに長けており、そのフィードバックがソフトバンクのネットワークにも生かされていると言われている。
また、エリクソンでは「DSS」と呼ばれる、4Gの周波数帯に対して、5Gでつながる電波を混ぜ込ませる技術をキャリアに提供している。これにより、繋がりやすい4Gの周波数帯において、5Gとして接続することが可能となる。結果、5Gとしてつながるエリアを一気に広げることができ、安定した5Gエリアを構築できると言われている。
エリクソンは長年、通信設備を手がけてきたこともあり、3Gから4G、さらに5Gへの移行をできるだけスムーズに行おうという発想がある。
一方、国内ベンダーは3Gや4G時代に海外展開するも上手くいかず、「5Gで巻き返そう」という心意気で臨んでいた。しかし、キャリアにとってみれば、既存の顧客が4Gネットワークにつないでいるなか、「いかにユーザーを4Gから5Gに移行させるか」という視点でネットワークを構築している。
いきなり5Gというよりも、4Gからの移行をつつがなく提供するエリクソンのほうがキャリアにとっては頼りになる存在とも言えるのだ。
NTTドコモの場合、エリクソンとの付き合いがほとんどなかったため、DSSといった技術を導入できない。また、4Gのユーザーが多く、そもそも4Gの周波数帯を5Gに転用するといったことも難しかった。そのため、5G開始当初からしばらくは、5Gのために新たに割り当てられた周波数帯だけでしか5Gを提供できないという状況が続いた。結果、5Gのエリアが狭く、なかなか、多くのユーザーを5Gとして繋いで、データを流すということができなかったのだ。
また、5Gのエリアが飛地的にできてしまうと、5Gエリアの端っこでは、4Gにつながってしまったりと、通信が安定しない状況を招いてしまう。
つまり、5Gエリアが狭いと、それだけ4Gとの間で不安定な場所が増えてしまい、さらにユーザーの体感が落ちることになってしまうのだ。
ほかにも、ソフトバンクとKDDIは、2.5GHz帯という周波数帯にTD-LTEという通信技術を導入している。このTD-LTEはデータ通信に特化した規格なのだが、もともと中国のベンダーやキャリアが積極的に開発を進めており、その動きに合わせてソフトバンクも導入を推進してきた。
2.5GHzという周波数帯でTD-LTEを全国規模で展開していることもあり、ソフトバンクとKDDIはネットワーク品質でNTTドコモを出し抜いていると指摘する関係者もいるほどだ。
エリクソン関係者は昨年頃から「NTTドコモに試験的に通信機器を導入しているが、高い評価を得ている」と語っていた。
今夏にNTTドコモの社長に就任した前田義晃氏は筆者とのインタビューで「国内ベンダーに限定することなく、海外ベンダーの調達も検討している」と語っていた。今回、晴れてNTTドコモでのエリクソンの本格導入に舵を切ったということだろう。
NTTドコモでは既存の基地局ベンダーに頼ることなく、NECや富士通などと手を組んで、異なるベンダーの機器をつないでネットワークを構築する「オープンRAN」の実現に邁進してきた。OREXという会社まで作って、世界進出を狙っていた。
既存の基地局ベンダーに頼ると、競争が働かないため、設備投資のコストがかさみ、キャリアにとっては重荷になるという課題があった。
しかし、異なるベンダーの機器を自由につなぐことができれば、様々なベンダーが参入し、競争が起きて、コストが下がる。結果、キャリアにとってハッピーな世界観を描いていたのだ。
しかし、今回、NECや富士通ではなく、既存ベンダーであるエリクソンの力を頼るようになってしまうと、結果として、オープンRANの考え方が立ちゆかなくなる可能性も出てきた。
NTTドコモにとって、今回の「エリクソン頼み」は、国内ネットワークの品質改善が期待できる一方で、世界進出の計画に暗雲が立ちこめつつあるといえそうだ。
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