研究者向けのインタビューメディア「esse-sense.com」を運営するエッセンスが、研究者検索システムのベータ版をリリースすると発表した。企業と研究者をつなぎ、スタートアップや新規事業の創出など、ビジネスと社会実装のスピードアップを目指す。10月中旬にesse-sense.com内で公開する。
エッセンスは2021年に代表取締役の西村勇哉氏が理化学研究所出向時に感じた「研究者の知見や貢献がビジネスセクターに全く伝わっておらずもったいない」という思いから設立。20の大学・研究機関と連携し、取材などを通じて出会った研究者たちの人物プロフィール、背景に加えて研究内容や実績などを紹介する知的資本を媒介する場として立ち上げた。
現在、インタビューメディアとしてのesse-sense.comには約150人の研究者が名を連ね、いずれも1万字を超える密度の高いインタビューを掲載している。「ニッチな研究の話はマスメディアでは取り上げにくいが、ビジネスの元になるような面白い種もたくさんある。しかし全く知られていないそれらを誰でもアクセス可能な状態にすることで、まず、研究者の方々を知ってもらおうと考えた」(西村氏)と研究者と外の世界をつなぐ。
メディアをきっかけに研究者の「見える化」が進み、2023年の9月のアップデートでは新たな取り組みとして研究者をサポートするクラウドファンディング的なサービスも追加。「月1250円という少額から研究者をサポートでき、資金提供者は、年に2回の講義、講演などのフィードバックが受けられるほか、研究者の日常を垣間見れたり、エッセンス主催イベントの参加費が割り引かれたりなどの特典を受けられる。通常、研究者の講義は大学、大学院に通うか、ともに研究に取り組むなどがないとなかなか触れられないが、多くの市民が自らの意思で直接研究者の話を聞ける機会を提供する」(西村氏)と独自のシステムを築く。
研究者検索システムは「メディアや資金提供のプラットフォームなどの活動を経て、研究者を社会につなぐ機会は増えてきた。一方で、研究者とつながりたい企業が研究者を探そうと思ってもどこの誰につながれば良いのかはなかなかわからない。我々もすべてに一対一で対応もできない」(西村氏)という課題を解決するために導入する新システムだ
システムの構築にあたっては、生成系AIを大きく取り込み異なる4つのAIを使用。研究者にとって講演や講義をすることはそれほど特別なことではない点に着目し、音声や映像を使って基盤となるデータベースを構築していくことが特徴だ。
「音声や映像のデータからAIが自動で書き起こし、構造化された文章を構築しデータベース化する。特に重要なのは『この研究者の中にはこういうトピックスがある』ことを示す構造化の部分。例えば、ある経済学者が経済のことを行っているというのでは何のことかわらかない、それを専門用語で語られてもわからないところに、この経済学者は格差の課題についても関心があるということを示す必要がある。その推薦を、生成系のAIを用いて擬似的にできるようにしている」(西村氏)と独自のシステムを作り上げる。
システムローンチ直後のベータ版では、これまで取材を行ってきた約150人の研究者の情報からはじめ、人数を増やしていく。「150人のデータベースと聞くと少ないと感じる方もいるかもしれないが、全く異なる分野を手掛ける150人なので、感覚的には150のとがった取り組みがあるという感覚。今後は研究者自身の協力を得ながら、検索の対象となる研究者の数を増やしていく予定」(西村氏)と拡充に努める。
目指すのは、プロ野球選手名鑑ならぬ「研究者名鑑」だ。「新しい事業を作るには新しい知識が必要になる。今までは専門家にアクセスしたいと思ってもどこにいるのかわからず、各分野の著名な研究者のところにいくしかなかった。足がかりを作るのには良いが、一緒に新規事業を作っていくところまではなかなかいかない。民間向けの研究者検索システムではそういう時に役立てるサイトになっていきたい」(西村氏)と今後を見据える。
さらに、まだ有名ではない若い研究者と企業をつなげるなど、研究者側にもチャンスを作りやすいこともメリットの1つだという。
将来的には、日本全国に34万人いると言われる大学所属の研究者を対象にした開かれたシステムにしていきたいとのこと。「検索対象となる研究者の数が充実することで、研究者と民間企業双方にとってのニーズが満たされていく。そうした中で仕事につなげて使える人には有償で活用してもらい、研究者同士や子どもの教育、キャリアや進路の選択といった個人的な利用については無償で使ってもらえる環境を整えていきたい」(西村氏)とする。
「野球名鑑なしで野球を応援するのは大変。選手がでてきたら、その人にどんな経歴があって、何が得意かなどを知りたくなる。そうした知識が増えるとより応援したくなるはず。こうした思いは研究者の人にも当てはまると思っていて、研究者のファンを作りたい。今、ノーベル賞を受賞した研究者でもフォーカスされるのは人物よりも研究成果。これを逆にして、最初に研究者の名前が出て、その後に『実はこの人はこの間ノーベル賞を受賞した人だ』と言われるような研究者が中心となるような世界を描いていきたい」(西村氏)とした。
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