テクノロジーを活用して、ビジネスを加速させているプロジェクトや企業の新規事業にフォーカスを当て、ビジネスに役立つ情報をお届けする音声情報番組「BTW(Business Transformation Wave)RADIO」。スペックホルダー 代表取締役社長である大野泰敬氏をパーソナリティに迎え、CNET Japan編集部の加納恵とともに、最新ビジネステクノロジーで課題解決に取り組む企業、人、サービスを紹介する。
ここでは、音声番組でお話いただいた一部を記事としてお届けする。今回ゲストとしてご登場いただいたのは、サンファーマーズ 海外戦略部長の稲吉洸太氏。ベルギーやドイツで受賞歴のある、静岡生まれの高糖度トマト「アメーラトマト」開発秘話から、センサーやデータを活用した独自の栽培手法などについて聞いた。
大野氏:アメーラトマトは高糖度トマトということですが、すでに日本でも知名度がありますか。
稲吉氏:日本では高糖度トマトというカテゴリーはなく、フルーツトマトや濃縮トマトと呼ばれていました。高糖度トマトはサンファーマーズが名付けたカテゴリーで、1年中出回っている高糖度トマトとしてはシェアナンバーワンだと思っています。
大野氏:1年中出回っているということは、従来のトマトとは作り方が異なっているということですか。
稲吉氏:独自の方法で周年栽培をしています。一般的には一定の時期しか、トマトは収穫しませんが、暑い夏や寒い冬を越せるように栽培方法やハウス設備を設計しております。
大野氏:暑い夏、寒い冬にも収穫できるようにどのような対策をしているのですか。
稲吉氏:アメーラトマトの栽培は開始から20年以上が経過していますが、年々夏が暑くなってきています。以前は静岡県の平地でも栽培できていたのですが、昨今、ビニールハウスの中の気温は35~40度まで上昇してしまう。
暑くなるとトマトの花が咲かず、正常な実ができません。そのためハウスを冷やさなければなりませんが、これには多くの費用がかかります。そこで、私たちは栽培の場を高冷地に移し、涼しい環境の中で栽培しています。その分、冬は暖房費用がかかりますが、これは冷やすよりもコストがかかりません。
大野氏:栽培地を移動されているんですね。それでも、ここ最近の夏の暑さに対応するのは大変ではないですか。
稲吉氏:技術的な話になりますが、屋根のフィルムを散乱光タイプに変更しています。通常のフィルムですと、ハウスの鉄骨の影などの影響で、日光が均一に届かないことがあります。散乱光は入ってきた光を散乱させ、ムラなく届けられる。それが結果的に熱も下げ、温度の上昇を抑えています。そうした新しい素材などを積極的に使っていますね。
大野氏:新素材を活用されているのですね。実際、ハウスを見させていただいたときは、屋根が自動で開閉されたようですが。
稲吉氏:屋根というか内張りのカーテンが遮光カーテンになっていて、それを開閉することでも光の取り入れ量を調整しています。トマトを正常に生育するためには、光合成が必要なので、できる限り光を与えたいのですが、アメーラトマトは、ストレスを与えて厳しい環境で栽培することで、高糖度トマトを作り上げているので、光の量を抑えたり、与えたりと細やかな調整を繰り返しています。
大野氏:アメーラトマトの栽培はスマート農業とも呼ばれていますが、センシングやデータ収集なども組み合わせているのですか。
稲吉氏:ハウスの中には温度、湿度、日射センサーなどを配置して、それらをみながら季節にあわせて、どの時間帯に遮光カーテンを開閉すればよいのかなどをセンサーから読み取り実施しています。実際、ハウスの中から得られるデータは100を超えていて、それらを収集し、分析した上で、季節、地域、収穫量などを加味して、検証しています。
加納:データはかなり膨大な量になっているのではないでしょうか。データからは具体的にどんなことがわかるのですか。
稲吉氏:センサー自体は新しいものがどんどん増えているので、10年以上溜まっているデータはないのですが、長いものだと5~7年近くは蓄積されていると思います。
アメーラトマトは、静岡県富士宮市の朝霧高原のほか、富士山の麓や長野県軽井沢町などでも栽培していますが、いずれも標高が違います。このデータを1年を通して取得することで、教科書に載っていない、私たちもきづかなかった事象が結構発見されるのです。
ただ、取得したデータをどのように活用するのかは今後の課題の1つで、日々、試行錯誤しながら検討を続けています。
大野氏:これだけデータが集まると、品種ごとの気候条件や収穫時期予測などが可能になりそうな気がします。合わせて作業の割り振りなども対応できそうですね。
稲吉氏:品種が変わると予測がつきにくいこともあり、難しい部分ではるのですが、出荷予測はしやすくなってきましたね。出荷の状況がわかると、市場の方たちが販売に時間をかけていただけるので、正確な情報が欲しいところです。ただ、台風など、突発的な気象条件なども加わってきますので、なかなか予想どおりにいかないことも多いのですが、データを活用し、できるかぎり誤差を小さくしていこうと努力しています。
大野氏:取得したデータは、自動的にクラウドにアップロードされるのですか。
稲吉氏:はい。この辺りの仕組みはシステム会社の方と一緒に開発させていただいています。私たちの要望を取り込んでもらっていて、独自のシステムになっていますね。
大野氏:スマート農業に取り組まれている方は多いですが、100以上のデータを数年にわたり取得できているケースはかなり珍しいと思います。
稲吉氏:そうですね。今でこそ自動でクラウドにアップされる仕組みですが、以前はパソコン上にあるデータを担当者が吸い上げて、それをセンターのPCに集めて、といったような手間のかかる作業をしていました。
今後は、吸い上げたデータをどう栽培にいかすかという段階に入ってきていると思います。
下記の内容を中心に、音声情報番組「BTW(Business Transformation Wave)RADIO」で、以下のお話の続きを配信しています。ぜひ音声にてお聞きください。
大野泰敬氏
スペックホルダー 代表取締役社長
朝日インタラクティブ 戦略アドバイザー
事業家兼投資家。ソフトバンクで新規事業などを担当した後、CCCで新規事業に従事。2008年にソフトバンクに復帰し、当時日本初上陸のiPhoneのマーケティングを担当。独立後は、企業の事業戦略、戦術策定、M&A、資金調達などを手がけ、大手企業14社をサポート。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会ITアドバイザー、農林水産省農林水産研究所客員研究員のほか、省庁、自治体などの外部コンサルタントとしても活躍する。著書は「ひとり会社で6億稼ぐ仕事術」「予算獲得率100%の企画のプロが教える必ず通る資料作成」など。
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