目の前に浮かぶ大きなバーチャルスクリーンに表示されたのは、仕事関連のプロジェクトが表示されたPCのデスクトップだ。左を向くと、最近聞いた曲が表示された音楽プレーヤーの画面が、右を向くと「YouTube」の画面が見えた。視線を動かして部屋全体を見渡しても、これらの画面は移動せず、最初の場所にとどまっていた。
「CES 2024」の会場で筆者が試したのは、XREALの最新スマートグラス「XREAL Air 2 Ultra」だ。XREALは中国の新興テクノロジー企業だが、スマートグラスにかけては豊富な実績を持ち、すでに巨大な仮想ディスプレイを空間に表示できる拡張現実(AR)グラスや、携帯ゲーム機、スマートフォン、PCと連動するウェアラブルなディスプレイグラスなどを販売している。「Nreal」と呼ばれていた時代にも、同じような軽量のARグラス「Nreal Light」を販売していた。
XREAL Air 2 Ultraは、3月に699ドル(日本では9万9800円)で発売される。市場では今、複合現実(MR)が盛り上がりを見せており、先日はAppleが2023年6月に発表した3500ドル(約50万円)のヘッドセット「Vision Pro」の発売日を正式に発表した。サムスン、Google、Qualcommの3社は、チップセット以外の詳細は分かっていないものの、共同でMRプロジェクトに取り組んでいる。XREALはAir 2 UltraでAppleのVision Proに対抗しようとしているが、その成否は開発者が生み出すアプリにかかっている。XREALがAir 2 Ultraを「開発者モデル」と位置づけている理由は、ここにあるのだろう。
XREALの創業者で最高経営責任者(CEO)のChi Xu氏はスマートフォンを身振りで示しながら、「アプリは2Dから3Dに移行する必要がある。この長方形の板を飛び出し、あらゆる場所にディスプレイを広げていきたい」と語った。「もちろん、時間は必要だ」
XREAL Air 2 Ultraは、普通のメガネを少しごつくしたようなデザインをしており、重さは80gだ。数分しか試す時間はなかったが、軽く着け心地もよかった。6DoF(自由度)のフルモーショントラッキングに対応し、ユーザーの動きを正確に把握できる。解像度は両眼ともフルHDであり、52度の視野角を実現している。2Dコンテンツの場合、4m先に表示される154インチ相当のスクリーンに画像が投影される。
699ドルという価格は、AppleのVision Pro(3500ドル)、Metaの「Quest Pro」(1000ドル、日本では15万9500円)よりはるかに安い。ただし、これらのデバイスと違って単体では動作せず、必ず別のデバイスと有線でつながなければならない。良い点としては、他のヘッドセットと比べると格段に小さいため、装着しても見た目が自然だ。残念な点は、前述したように単体では動作しない。Xu氏の予測では、あと5年もすれば普通のメガネのように見える、オールインワン型のウェアラブルコンピューターが登場するという。
XREAL Air 2 Ultraを通して見る映像は驚くほどシャープで鮮明だった。今回は「ライフ・オブ・パイ」、「怪盗グルーのミニオン危機一発」、「アバター」の映像を少し見たが、テレビで観るのとほとんど変わらなかった。バーチャルスクリーンに表示された画面やメニューの操作は、親指と人差し指をつまむように動かして行う。「Apple Watch Series 9」のダブルタップのジェスチャーをイメージしてもらえればいい。反応は驚くほど良く、指の操作で映画を切り替えたり、別のメニューを選択したりした時も、やり直しを求められることはほとんどなかった。
デモでは、XREAL Air 2 Ultraの技術を使って何ができるかをアプリ開発者に紹介する興味深い映像も見ることができた。例えばメッセージアプリでは、メッセージの内容に合った3Dアートが本文の横に表示され、連絡先のページでは、特定の人の名前と画像をタップする(つまむ)と、その人の3Dアバターが表示された。しかし、この種の先進的なスマートグラスが大勢のユーザーを獲得できるかどうかは対応するアプリの出来にかかっている。今のところ、スマートフォンで利用できるARスマートグラス対応のアプリはほとんどない。いずれGoogleやAppleのアプリエコシステムが幅広いデバイスに対応するようになれば状況は変わるかもしれないが、当面はXREALなどのスマートグラスがあっても、マルチディスプレイを強化する程度のことしかできることはない。
筆者はAppleのVision Proを試したことがないので、XREAL Air 2 Ultraとの比較については何とも言えない。それでもAppleやサムスン、Googleといった業界の大手企業がこの分野への関心を示していることは良い兆候だとXu氏は考えている。
「こうした企業がこの方向に向かっていることは非常に喜ばしい」と、同氏は言う。「関心を持たないとしたら、残念なことだ」
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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