米ニューヨークを拠点にアートのサブスクリプションサービルを手掛けるcurinaが順調にビジネスを拡大している。スタート時3人だった契約アーティストは、現在300人以上を数え、アートの街、ニューヨークで存在感を増している。
率いるのは、ニューヨークのビジネススクール在学中にcurinaに立ち上げた朝谷実生氏。「法学部出身で、卒業後は経営コンサルタントとして製薬業界のビジネスをサポートしてきた。アートとはどちらかと言えば縁の薄い経歴」(朝谷氏)と自らが意外な道に進んだと話す。
帰国子女だという朝谷氏は小学生時代を英国で過ごす。「英国は美術館に無料で入れたり、美術講座を手軽に受けられたりと、アートが身近だった。著名な画家が使っていたアトリエや住んでいた家に遊びに行ったりと、日常の中にアートがある暮らし。その影響もあり、美術館巡りをしたり、アートを見たりするのがとても好きだが、鑑賞するだけで購入にはなかなか至らなかった」と自らの経験が現在のcurina立ち上げに結びついているという。
「アートは鑑賞から購入へのハードルがとても高い。なぜなら1枚手に入れるのに結構な金額が必要になるから。どれも基本的に1点ものなので、高価になってしまうのは仕方がないが、一方でニューヨークには多くのアーティストがいて、全員が全員、ギャラリーと契約できるわけではない。アートが欲しいお客様と作品を届けたいアーティストがいるのに、ミスマッチが起こっているので、そこをつなげていきたいと思った」とサービス開始のきっかけを話す。
立ち上げたのは今から約5年前。「2年間通うビジネススクールで、1年生と2年生の間の夏休みは、インターンシップをするなど卒業後の進路を決める大切な時期。そこでインターンシップに行かず、curinaをトライアルローンチした」と起業へと踏み切る。
curinaは、月額制でアートをレンタルできるサブスクリプションサービス。38、88、148ドルの3コースを用意し、金額に応じたアート作品をレンタルできる。ユーザーがウェブサイト上から作品を選ぶと、梱包された状態で自宅に届く仕組み。作品の入れ替えも可能だ。
朝谷氏は「アートを購入する時のハードルの1つは画廊にいかないと買えないこと。いつでも誰でもアート作品を見られるウェブサイトは便利だが、テクスチャなどが確認しづらい。加えて、自宅のインテリアに合うかどうか、照明の下で見た時の印象はどうかなど、実際に見てみないとわからないことが多い。パソコンなどと違い、アート自体に機能はない。ではお客様はなぜ購入するのかというとアートそのものに共感するから。しかし、残念ながらその共感はパソコンの画面上からは生まれにくい。オンラインで手軽に購入しやすく、かつ本物を実際に目で見て確認できる場を提供したかった」とcurinaの役割を説明する。
作品を提供するアーティストを獲得する一方で、アート作品を借りるユーザーも増やしていかなければならないビジネスだが、「これは本当に鶏と卵。ただ、最初は作品がないとはじまらないのでアーティストへの営業からスタートした。付き合いがまったくなかったので、アーティストが集うアトリエなどを1軒1軒訪ねながら契約アーティストを獲得していった。最初は相手にもしてもらえなかったが、少しずつ関係を築き、契約してくれるアーティストが増えてきた」と実績を積み上げる。
「好きという思いから立ち上げた」というcurinaは、コロナ禍の在宅時間増も追い風となり、事業を拡大。レンタルという形をとっているが「アートを借り換える人は思っていたよりも少なく、購入前のお試しとして使ってくれている人が多い」という。
現在300人以上のアーティストの作品を取り扱い、今ではアーティストから連絡がくるほど、ニューヨークで名の知られたサービスに成長しているとのこと。「作品が気に入ると同時に、アーティスト本人について知りたいというお客様は多い。そのためサイト上では作品を紹介するとともにアーティストのプロモーションビデオも作成している」とユーザーニーズに応えたウェブサイトの作成に取り組む。
カリフォルニアやシカゴなどに競合サービスはあるというが、「大切なのはきちんとしたキュレーションのもと、アートを紹介すること。質の高いアーティストの作品は奪い合いだが、起業した時から『クオリティ』を常に意識してアートを集めてきた」と、強みを打ち出す。
ユーザーターゲットは30~40代のビジネスパーソン。「教育レベルが高く収入もある層だが、忙しくてギャラリーを回る時間がなく、好みのアートを探せない。そんなときに利用してもらいたい。車でも試運転して選ぶようにアートにもお試し期間が必要」とトライアルの重要性を説く。
現在ニューヨークを中心に展開しているが、今後はそのほかの地域への拡大を目指す。「海外展開はこれから」としたが、日本については「アートにおける日本市場の割合はわずか2%。しかし日本には伝統文化や工芸など、ものすごく資産がある。日本でビジネスを展開するのであれば、これらをプロデュースするようなことにも取り組みたい」とした。
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